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フェアの合間の……

 スアのチュ木人形のおかげで、コンビニおもてなしの人手不足だけでなく、ルアをはじめとした顔なじみの皆さんのお店の人手不足まで結構解消することが出来ました。

 厄災のチュパカブラと霊木を組み合わせ、そこに魔力を込めて作成されたこのチュ木人形ですが、その噂を早速聞きつけたらしい魔女魔法出版のダンダリンダがスアの元を訪れまして、

「スア先生、ぜひともウチの出版社で書籍化しましょう!『チュ木人形をつくる』シリーズとして! 10巻集めたらチュ木人形を組み立てることが出来る流れでぜひお願いいたしたいですわ」

 なんかもう必死になってスアの後ろをついて回りながらお願いしまくっていた次第です。

 ただ、スアによりますとこのチュ木人形は

「……チュパカブラの素体ごとに魔法を調整しないといけないから、難しい」
 とのことで、書籍化には後ろ向きみたいです。

 まぁ、ダンダリンダはスアにそう説明されても、なんとかして書籍化にこぎ着けようと必死に考えを巡らせ続けているみたいなんですけどね。

 とりあえず、このチュ木人形を使ったおもてなし木人形派遣サービスは、しばらくの間は知り合い相手だけにサービスを行うことにしています。
 
 まだチュ木人形の数が少ないですし、アンケートで寄せられた内容を元にして改良を加えながら、ある程度のレベルに達っしたら広告などもうってみようかな、と、思ったりしています。
 
◇◇

 今日も僕はコンビニおもてなし本店で働いています。

 年末年始のフェアに向けた準備もしていますが、まだこちらは発表出来る状態になっていませんので、その前に冬フェアを開催しています。

 まぁ、冬フェアと言いますても、目新しいことをするわけではありません。

 レジ横で販売している肉まん類やあったかいスープ類、おでんや焼き鳥などのホットデリカといった商品の割引販売を行っている次第です。

 冬フェア対象商品は期間中1割引
 2個以上同時購入でさらに1割引
 お弁当と同時購入でさらにさらに1割引

 そんなフェアを、コンビニおもてなし本支店ならびに出張所で開催しています。

 こういうフェアって、地味ではあるんですけど、地味なりに売り上げがあがる傾向があるんですよね。

 新商品をドーンと投入したり、
 季節のイベントに合わせてドーンと関連商品を投入したり

 こういう時に売り上げがどーんと伸びるのは、ある意味当然と言えば当然なわけです。

 大事なのは、それ以外の時といいますか、そういったドーン!な目玉がない時期の売り上げをいかにして維持・向上させるか、なわけです。

 この世界では、僕が元いた世界と違いまして同業他社的なコンビニは存在しません。
 ですが、その代わりに商会や商店などが商店街に軒を連ねています。

 コンビニおもてなしのように、お昼用の弁当を販売しはじめた酒場や食堂も少なくありません。
 商会や商店の中には、コンビニおもてなしで販売している商品を模した商品を扱う店も出て来たりしています。

 まぁ、良品が模倣されるのは世の常だと理解していますので、そのいちいちに目くじらをたてたりはしていないのですが、スアビールならぬスエビールなんて名前をつけた酒を販売していた商会さんには、さすがに抗議させてもらって販売をやめてもらいましたけどね。

 スアビールは、僕の世界のビールそのものどころか、それを凌駕しているお酒だといっても過言ではない味を誇っているのですが、このスエビールはそんなスアビールとは似ても似つかない粗悪品でした。
 それでいて、ラベルまで巧妙に真似されていたのですから、さすがにねぇ……

 話合いの際に、
「は? 難癖は辞めてもらえませんかねぇ?」
 そんな感じで、最初はこちらの主張に耳を貸してくださらなかった商会さんなんですけど、粘り強く説明とお願いを続けていきましたところ、最後には
「わかった、もうしないから……勘弁してください」
 そう言って、涙ながらに謝罪してくださり、以後2度とこういう行為をしないことを誓ってくださった次第です。
 
 僕はただ説明と抗議、そしてお願いをし続けただけなんですけど……同行してもらったファラさんが
「小童が……」
 とか言いながら、なんかすごい殺気を放っていた気がしないでもないんだけど……

 ファラさんは龍人(ドラゴニュート)で、その正体はすごいドラゴンさんですからね。
 
 ひょっとしたら、説得のお手伝いをしてくださったのかもしれません。

 しかしあれですね……
 改めて考えてみますと……そんなすごいドラゴンさんが、おもてなし商会の責任者として働いてくださっているのって…結構すごいことですよね……うん。

 それ以外にも、

 伝説の魔法使いが魔法薬を作ってくれているし

 別の世界の魔王さんが弁当をつくっているし

 この世界の守護霊みたいな人が温泉まんじゅうをつくっているし

 ……こう考えていくと、ホントに、僕のコンビニおもてなしは人材豊富といいますか、密度が濃いといいますか……

◇◇

 とまぁ、とりあえず店員さんがすごいのは横に置いておいてですね……

 好調な売り上げを維持し続けているコンビニおもてなしですが、今回の冬フェアのような細かなフェアを間に挟みながら売り上げのさらなる増加と、客足の確保を図っている次第です。

 これ以外にも、各店の店長・店員のみんなにアンケートをよく実施していまして、

『こんなフェアをしたらどうか』

『こんな商品を販売してはどうか』

 そんな意見を募集したりしています。
 採用されたり、優秀だった意見には、コンビニおもてなしで使用出来る金券をプレゼントしているのですが、そのおかげか結構多くの意見が寄せられているんですよね。

 ちなみに、このアンケートは一般のお客さんにも行っています。
 レジ横にチラシを置いてありまして、店員から意見を募る際と同様にしてアンケートを書いてもらう仕組みになっています。
 チラシの横に回収箱を設けていまして、その中に記入したアンケート用紙を入れてもらうようにしています。

 こちらも、採用された方・優秀だった意見には、コンビニおもてなしで使用出来る金券をプレゼントさせてもらっています。

 採用されたり、優秀作に選ばせてもらったアンケートは、応募のあった店に掲示します。
 で、それに対して
「あ、これ俺です」
 と、申し出てくださった方に、金券をお渡ししています。

 そんな僕を見て
「店長さんはいつも細々と試行錯誤を繰り返しながらあれこれ頑張っておられますよねぇ、私も見習わせていただかないとですねぇ」
 ナカンコンベにありますドンタコスゥコ商会のドンタコスゥコがそう言ってくれた次第です。

 コンビニおもてなしの大切な取引相手の1つであるドンタコスゥコ商会の会長の言葉ですし、この言葉はすごく嬉しかったんですよね。

「ありがとうドンタコスゥコ。これからも頑張るよ」
 僕が笑顔でそう言いますと、
「喜んで頂けたのでしたら、仕入れ値をもうちょっとおまけして頂きたく……」
 なんかそんな事を言いながら僕にすり寄ってきたドンタコスゥコ。

 もちろん

「あら、仕入れの交渉は私とでしょう?」
 そう言って、ファラさんが出現したのは言うまでもありません。

「うぬぬ、出たですね我が生涯のライバル……」
 そんな言葉とは裏腹に、蛇に睨まれた状態のドンタコスゥコ。

 そんな2人を、僕は苦笑しながら見つめていました。

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