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 二年生全員の検査が終わり、解散の号令をかけられたその足で向かうのは、いつも使っている電車を途中下車したところにある街。
駅にほど近い場所にある一棟のビル。
そこは『探索者協会』を擁する、ダンジョン関連の品が一通り揃うと言われている、探索者による探索者のための、ダンジョン専門ショッピングモール。

「ふーっ! 来ました、ダンジョン用品の109ー!」
「街に買い物来るたびに思ってたけど、でかいよね」

 陽夏はダンジョン用品の109と例えたが、このモールの名前は『DZ&M』。
恐らく、ダン(D)ジョン(Z)モール(M)の略だと思う。

 入口に入ると、入ってすぐのところに並べられている、各銀行のATM。
その横に並ぶ、金融機関の窓口の数々……。
私はその並びに、そこはかとない闇を見た。

「しっかし、もらえるとは分かっていたけど、いざもらうとビビるよね、このクーポン」
「ね。太っ腹って言えばいいのか……」
「五万円までの商品なら、どれでもひとつ引き換えれますよって」

 財源、どこだろーねー。
陽夏はそう言ってからから笑っている。

「でも五万円って高いけど、武器にしろ装備にしろ、ビギナー用のものしか買えないって聞くよ?」
「あー、ま、そもそも品質のいいモノは高いか」
「多分、将来的な死亡者数の減少とか、その辺りのための投資じゃない?」
「金なくって貧相な装備で突撃されても困るってわけね」

 私たちは軽口を叩きながら、近くに展開されている、ダンジョン用装備のお店を覗く。

「うわぁ、かわいいのいっぱいあるし」
「あのローブ、可愛くない? 刺繍水色だし、陽夏に似合いそう」
「うぇ、マジで? ウチそんなにかわいい?」
「似合うと思うよ。あ、見て、あのマネキン!」
「うっわ、露出多くね? ビキニアーマーって言うの?」
「防御力低そうだけど、実際どうなのかな」

「あのビキニアーマーは、鎧の下にダンジョン用の全身タイツを着て着用する物になります」

 会話の中で出た疑問点に答えたのは、店の中から出てきた店員さん。
ぴた、と会話を止めた私たちの視線は、彼女の方へと向けられる。

「すいません、装備のことについて疑問があったようですので、つい声をかけてしまいました」
「いや、いいっすよ。ウチら、マジでどういう仕組みなのかも分かってないんで」
「あの、さっき言っていた全身タイツってどういう……?」

 陽夏を筆頭に好意的な返答があったからなのか、店員さんは幾分かほっとしたような表情で、では。と説明をしてくれる。

「はい。そもそもダンジョン用の装備品は、ダンジョンから産出された素材で作られることが多いのですが、そのダンジョン素材はそのもの自体に防御力が付与されていることが多いです。それを利用して、無防備な素肌に全身タイツの着用をすれば、あの防御力が低そうな鎧でも使えるというわけです」
「ほー。つまり、実際にビキニアーマー着ている人らは」
「素肌の部分はほとんどどこにもありませんね」
「男のロマン、破れたり」

 うけけけ、なんて不思議な笑い声を上げた陽夏に、店員さんは「証明書、あるいは買い物パスはお持ちですか?」と問いかける。

「え、証明書? 買い物パス?」

 説明で聞いた覚えのない新しい単語を聞いて首を傾げると、店員さんは納得顔で頷いている。

「はい。ダンジョン用品には危険が伴うものなどもあるので、ここでお買い物をする際には、『探索者証明書』、あるいは生産職協会から発行される、『ダンジョン製品生産者証明書』が必要なんです」

 陽夏は私に顔を向ける。
その顔は「知ってた?」と問いかけているかのよう。
私は「知らない」と首を横に振った。

「証明書が買い物に必要なんですね」
「はい。しかし、適正職業(ジョブ)検査を終え、試験等を受ける前に装備を揃えたいと願うお客様がいることも事実です。そのため、検査の際に受け取った適正職業(ジョブ)証明書……プリントされた紙をこのビルの最上階にある『探索者協会』へ持って行って手続きをすることで、制限はありますがお買い物をすることができる『買い物パス』を受け取ることができます」
「あ、このプリントってそういう時に使うんね、把握」

 陽夏がほーん、と言いながら二つ折りにされたプリントを光に透かす。
薄っぺらいプリント用紙のはずなのに、不思議と中身は透けていない。
特殊な用紙を使っているのかもしれない。私は無くさないようにしよう、と心に固く誓った。

「それじゃあ、一度探索者協会まで行ってみます。ありがとうございました」
「ありがとー。説明、めっちゃわかりやすかったよー」

 私たちは店員さんに声をかける。
店員さんは、きっちり四十五度のお辞儀で私たちを見送ってくれた。

「またのご来店をお待ちしています」

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