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「ユーリ!どうしたのよ、その色!」



 とにかく人間界に行こうと、ユーリは頭からすっぽりと衣を纏って、四龍神の中で唯一仲のいい水龍シェリアの所を尋ねた。



「シェリア、頼むから大声を出さないでくれ。こんな姿見られたら、四龍神の権威喪失になりかねん」



 慌ててシェリアの口を塞ぎ、ユーリはばさりと衣を後へ払った。



「…あの綺麗な銀の髪が、魔性がかった色に…」



「知るかよ。カイルの奴がいきなり…。それも色だけじゃなく、牙も鱗も。おかげで龍神力は使えないし、風の加護もない。俺はこれから人間界に鱗と牙を探しに行く。頼む、水の加護を与えてくれないか?」



 いつになく真剣な表情のユーリに、シェリアは溜め息混じりに呟いた。



「あなたのことだから、他の龍神に頼めるはずないわね。焔龍も地龍も、どちらかといえばあなたを排除したがってるほうだものね」



「…そんなこと、俺のせいじゃねーよ」



 膨れるユーリに、シェリアはおかしそうに小さく笑った。



「あなたは一番若いし、そのくせ能力は群を抜いてるし、神龍様の鏡といわれるほど、見目もいいし銀の髪も美しいわ。あの方からも可愛がられてるしね。敵を作る原因はありすぎるけど、一番いけないのは粗野で乱暴で短気なところよ」



「…なんか、外見と能力だけ誉められたような気がする…」



 気に入らない表現が沢山あったが、自分にぴったりと合っているので、そのことに関しては何も言い返せない。



「よくわかったわね。じゃ、さっそく取りかかるけど、ユーリ、いつも必ず身に付けていて、何か龍神力を封じられそうなもの持ってない?」



「いつも身に付けてる…?」



 ユーリはごそごそと首に手を回し、一本の龍の牙が付いた首飾りを外した。



「…母の形見の牙だ。いつも身に付けてるけど、これでいいか?」



「ええ、十分すぎるくらい。ちょっと貸してもらえる?」



 大切そうに両の掌でシェリアが受け取って、牙に指を当て、封印の呪を唱えた。



「はい、龍神力を使えるようにしたわ。ただし、一度だけよ。くれぐれも気をつけてね」



 ユーリは頷くと、その首飾りを自分の首に戻した。



「仕上げといきましょう。こっちにきて、ユーリ」



 ユーリはシェリアに歩み寄ると、すっと片膝を付いた。



「我は水を司る水龍の長なり。水よ、すべての流動体、水の流れに命ずる。我が最愛の友、風を司る長、風龍ユーリを加護せよ」



 ぴたりと額に当てられた二本の指から、不思議な力が流れ込んでくる。敵意を持たない、水龍の水の加護。



「あなたに本来の友、風の加護がありますように…」



 囁くような呪の後に、盟約の口接け。



 口接けの後、シェリアはついと離れると部屋中に浮かぶ水球の一つを手に取った。



「カイルが鱗と牙を落とした泉は、西の泉。水の加護があるから、きっと同じ場所に辿り着く。さあ、早く探しに行きなさい」



「シェリア、感謝する」



 短く言ってユーリは再び衣を頭から纏い、シェリアの家を出た。



 振り返りもせず見送ったシェリアが、水球に映るユーリの姿を追う。



 焔龍や地龍は魔龍となったカイルと付き合う異端だと嫌うけれど…。



「あなたは、あなたであればいのよ、ユーリ…」









「ここだな、西の泉は…」



 農家の一角獣を四龍神の紋章を突き付けて拝借し、一角獣さらいも同然の行為によって西の泉まで辿り着いたユーリは、すとんと背から降りた。



 泉といっても湧き水を囲い水路を引いているので、一歩間違えれば噴水にしか見えないそれに、ユーリは慎重に近付いた。



 覗き込んだ途端、深く覆った衣の奥の紫銀の髪が目について、神経に触る。



 手を伸ばすと、水は不思議にユーリを避けるかのように窪んでいった。



 へえ、これも水の加護のおかげか…。



 一応辺りを見渡してから、ユーリは泉の中に身体を踊らせた。



 音もなくユーリを呑み込んだ泉は、いつもと変わりないように、風に水面を揺らしていた。



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