11 ジャム姐さんのウナギスッポン赤マムシ!元気になあれ (注)アイリは18禁的なトコまでたどり着けません
あ~~~ ビリーのおっさんに火魔法をブチかましたい……
…っていう気持ちを必死に押し殺して目眩ましのドデカイ火魔法を空中に放った。
おっさんが「うへえー !」と怯んだスキにクラウの手を握り小さな声で転移魔法を唱えた。
「アルテ村に帰るわよ、転移 ‼」
そんなことで私たちは町を後にした。
まだ売りたい素材の在庫は死ぬほどたくさんあるけど、たちの悪い店には卸さないのだ。
無理して安く売らなくても私には、遠いコンテの町まででも、いつでも行ける転移のスキルと保存状態が良いまま保管できるイベントリがあるから慌てる必要は無いのよ !
残念ながら町で食事をするにはまだ稼ぎ足りないけど ⤵⤵⤵
だってさぁ、普通に商いできるマトモなお店は一店舗しか知らないしね。
うん、もっと頑張ろう !
私達は逃げ帰り、村長に経緯を報告して売れたお金を渡すことにした。
「アイリ達の討伐も多いのだろうから何割か取りなさい」
きっと親切心で言ってくれてるんでしょうけど、村人が貧困に苦しんでいるのに… そんなの受け取れない。
「私はお金には困ってないから村の皆に分けてほしいの !」
「そうかい ? ありがとう、だったらそうさせてもらうよ。村の衆はひもじい思いをしているからねえ」
「はい、苦労した人たちには豊かになって欲しいです」
「その通りだよ !」
村長は私の意図をくみ取ってくれた。
やっぱりこの人は頼れる。
なのでお金のこととかは村長に丸投げ的にお任せして帰ることにした。
家に帰って気味の悪いおっさんの発言を忘れるうさ晴らしってことで、たっぷりのお湯でお風呂に入った。
お金に困っているわけじゃないけど貧しい時の習性でお湯を半分以上入れることなんてこれまで無かった。
「プハ~~、気持ちいい~ ! 最高 !」
我が家は太陽光発電のオール電化なので、異世界でも家電もお風呂も普通に使えるんだ。
だけどテレビは映らなかったよ。残念 !
そして蛇口をひねっても水は出てこなかったから、水魔法で間に合わせている。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私達は翌日も二人で鍛錬に励んだ。
この日もクラウの猛特訓は すこぶる順調に進んだんだけど、彼との距離は一向に縮まらない。
クラウの言葉遣いは少しよそよそしいしなぁ。
……くっ、どうしてなの~ ?
恋の猛特訓もしたいわ~ !
誰か私を鍛えて ! 鍛えてよ〜 !
確かにクラウは私のことを深く信じてくれるし、女神のように尊敬してくれているようなんだけど……
それは望んでない。これって恋愛や愛情とはちょっと違う気がするのよね~
う〜ん、なんていうのかな ? 二人の間に大きな大きな溝があるような……
なにをどうすれば良いのかしら ?
恋をしたことも無いから打開策なんて全然分からないわ~ !
あっそうだ ‼ 胃袋を掴むとかって言うわよね !
っていうことで、今日も特訓を一生懸命に頑張った。
そのご褒美として、特別な晩御飯を用意するから我が家へ食べに来るようにとクラウを誘い、彼は素直に来てくれることになった。
「失礼しまーす。ここが聖女様のお屋敷ですね ? 見たこともない建て方で木が多く使われていますね。神聖な感じが致しますが見たこともない金属や鉱物に透明な板が使われていて、とても興味深いです」
クラウは建物の外観も内装もしみじみと見ていた。
「お屋敷の中は全部が白い壁と天井なのですか ?
床も壁もスベスベで美しい !
わわっ、灯りが !
あっ、暖かい風が !
ややっ、見たこともない魔道具が溢れんばかりに !」
当然だけど数々の電化製品にも食い付いていた。
「異世界のものばかりだから驚いちゃうよね。どうぞここに座って ! 」
私はダイニングテーブルのイスをひいて勧めた。
動画や映画は刺激が強過ぎるかと思って、パソコンからクラッシック音楽を流していた。
私はピアノやバイオリンの音色が好きだ。きっと二人の会話も邪魔しないでしょうしね。
「うわぁ、とてもキレイな音が聴こえてきます。いったいどこから音が出ているのでしょうか ?」
「ふふっ、それはね…… 」
クラウは不思議な絵と、聴いたこともないクラッシック音楽の飛び出るパソコンや時計、炊飯器などの家電に対する質問責めが止まらなかった。
私はしばらくの間、それに丁寧に答えた。
そしてクラウは家電などをかじりつくように見ている。可愛いなぁ。
ああ ! 今気がついたけど、これって ?
(ええ~~~ ! 良く考えてみたらこれってお家デートじゃないの !?
あうううっ、そもそもウチに男の人が来たのって…… はっ、初めてじゃないのよ~ !?
私のお家に初めて異性を連れ込んだってこと ?
これってすごいことだわ !
うん、私も大人の階段を一段のぼった気がするわ。
私の家にオトコが居る。
しかもメチャクチャかわいい男の子が…
ヤバいわ !
意識したらドキドキしてきちゃったわ !)
私は勝手に想像して、勝手に気が付いて、勝手に照れていた。
顔を赤くして更にあれコレ想像していた。くう~ !
ずっとこのまま一緒にいたいけど美味しい食べ物で好感度を上げる作戦を決行せねばならないのだ !
なんならガツンと精力のつくものを"注入して"その気になってくれないかな ?
(それなら〜、…スッポン ? 赤マムシ ?)
少しだけ悪い計画を練ってしまった。
「 …じゃあね、ナニか美味しいものをチャチャッと用意するから少し待ってね」
「はい。珍しい物ばかりで、見ているだけで飽きません」
さて、温かい紅茶を出してから、メニューを考えよう。
クラウの胃袋を掴むには何が良いかな ? そこまで考えて無かった。
それに私の冴えない前人生ではそんな得意料理を発揮する機会も無かったからね~。
仕方がないのでアメイジングを開いて考えることにした。
「うーん ? どうしようかしら。ご飯があるからなぁ。良し、うな丼にしよう !」
「うなどん ??」
「ウナギよ ! う、な、ぎ ! 知らない ?」
「いえ、知りません」
「ふ~ん。こっちの世界には無いのかな ?」
私はアメイジングから、三河一色産の極上ウナギ1尾を購入した。すると、包装された品物がテーブルの上にドサッと現れた。
「おおーーーー ! 突然、何やらとても美しい包みが出てきましたが !」
「大丈夫だよ。私のアメイジングっていう特別なスキルだから…… 」
蒲焼きの包装を開けた。クラウにはジーーっと注目されている。
「これがウナギですか ? これは茶色い魚ですね、初めてです」
「じゃ、じゃ、じゃあどんな味か楽しみね !」
下焼きされて、味もついているから… すぐそのままでも軽くチンして食べられるけど、グリルで少し焼いてからホカホカのご飯を盛りつけた丼の上に乗せたんだ。
キビ砂糖とみりんと醤油を煮詰めたタレを掛けるとフワーっと蒲焼きのいい匂いがしてきた。
「茶色い魚は美味しそうではありませんが、なかなかに香ばしくて、かなり食欲をそそる匂いがしますね」
「ふへ ? ふっ、ふふふ、そうでしょう ? ええと、タレは私は多めクラウは少な目にして足りなかったらつぎ足そうかな ? さっ、さあ、召し上がりましょう」
私の部屋に異性がいるって意識したばかりに、緊張して変な応答をしちゃったよ ! 恥ずかしっ ‼
「はい」
「いただきます !」
「えっ ? 食べるのが分かりきってるのに今から食べますと言うのはおかしくないですか ?」
「ええっ ? …… そうね。今のいただきますはね、元の世界で唱える感謝の言葉なんだ」
「感謝の ??」
「そう。食事を用意してくれた家族とね、野菜なんかを育ててくれた農家の方、それに命を献上してくれたウナギさんに感謝するのよ」
「なるほど。では僕も、いただきます !」
クラウは はしに慣れてないから、用意したスプーンで食べてもらった。私も一緒に食べた。
「「おいし~~~い !」」
「うーー ! 今まで食べたもので一番美味しいです !」
「わぁ、やった~ !」
(美味しいものを食べたら少し落ち着いてきたよ~ !)
クラウもタレは多めが気に入ったみたい。
一杯目はあっという間に平らげて、二杯おかわりをしてくれた。
箸休めに用意したたくあんも喜んでカリコリ食べていた。梅干しは食い合わせだからダメよ。気をつけないと !
そして……
(ふっふっふ。かわいいクラウさん ? たくさん精をつけましたね~。後でアイリお姉様がスッキリとさせてあげますからね ! )
「ふふっ、お風呂が沸いてますから入っていきませんか ? クラウさん」
「お屋敷にお風呂があるのですか ? スゴいですね。ですが、僕には過分な褒美にございます。本日はとても美味しいお料理をご馳走になりましてありがとうございました。これで失礼します」
「遠慮しなくて良いのよ~~~~~~ !」
しかし、私の声は空回りでクラウには届かず。彼は固辞して笑顔で帰って行った。
お風呂で背中でも流してあげようと思ったのになぁ。ちぇっ !
そんなことはお見通しだった。
実は、ここまででアイリとの護衛兼付き人としての付き合いの義務を、十分に果たしたことを知っていた。
そしてここから先は、アイリとの関係上は決して踏み込んではいけない禁忌の行為であり、自身の貞操の危機であることを強く感じ取っていたのだ。
男女のことは見た目16才でも、中身が27才の世間知らずなアイリよりも、か•な•り、モテる彼の方が、一枚も二枚も上手なようだ。
頑張れアイリ !
それでもその翌日も特訓は続けた。
この日も、再び招待するとクラウの希望でうな丼も連続でご馳走した。
そうして初日から数えてクラウの鍛錬を5日間続けた。うな丼も続いた。
精をつける食べ物をとり続けたものの、私のいけない妄想はナニひとつとして実現されることはなかった… 残念 !
こんなに精力つけてどうするのかしら ? と思うけれどクラウは何も発散することなく、いつも足早に帰宅してしまう。 あ~あ。
一方2日に一回の炊き出しも続けているわ。
ジョエルズ商店にはこの間、もう一度売りに行ってきた。
素材は順調に売却できたけれど、どうやら売るよりも倒す方が相当多いようで、アイテムボックスには倒した魔物がどんどんとたまっていったのよね、それこそ山のように…
ここ数日の猛特訓で私のレベルは6になり、クラウのレベルは34になったわ。
…とはいえ彼の風貌は前のままで、細身の小鹿のような可愛らしい見た目だけど、ステータスは相当いけてる戦士並みに跳ね上がったからね〜、第一目標は達成ってとこね !
それくらいまで鍛えられると大樹の付近の強い魔物でも軽く倒せるようになっちゃった。ってことはなかなかレベルも上がらなくなってしまったのよね。
まあ、それはしょうがないのかな ?
クラウディー 魔法剣士 14才 男
レベル:34 人族
攻撃力:94
守備力:87
体力 :113
速さ :67
魔力 :123
好運 :80
HP:167/167 MP:180/180 SP:114
スキル:剣術LV5、風魔法LV5、俊敏LV3、体さばきLV3