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6.お悩み相談

 

「和美、来てくれてありがとう」

 生徒会室に入ると鷹也に、にこやかに迎えられた。室内には、生徒会のメンバーが初めて揃っていた。さすがに、場違い感が出てきて変な汗が流れる。

「俺は部外者だ。邪魔ではないのか」
「大丈夫。会議はもう終わってるから。皆まだ帰らないの?」

 最後は生徒会のメンバーを見ながら言う。そう言えば…学と関係があるのは書記だったか。

「皆、会長の友好関係に興味があるんですよ。貴方は付かず離れず、誰にでも優しいですが誰とも仲良くないですからね」

と、言ったのは副会長だ。鷹也を崇拝していることで有名だった。

「そんな…。だからって、和美を困らせないでね。僕の大切な人なんだから」

 そんなこと言って大丈夫なのか?俺は冷や冷やして仕方ない。俺は空気になって端にいることにした。

「ねぇ、鷹也!この子ってA組の委員長なんでしょ」
「うん、そうだよ」
「だったら、僕のネコちゃんも同じクラスだよ」

 ハッとしてその人を見る。まさか、この子が学と?小柄で可愛らしい見た目の男の子だ。ふわふわした髪が触り心地が良さそうだ。俺よりも少し背が低いくらいか。それに、さっきのネコちゃんって…。

「鷹也、ちょっといいか」

 手招きして、廊下に出る。

「なんか気になることあった?」

 昼に聞いた学の話を聞かせた。鷹也はすぐに理解したようだった。

「ふーん…薫がねぇ…あいつ、手出したのか」
「何か知ってるのか?余計なことかも知れないが、学に相談されたし何かあるなら力になれたらと思ってるんだ」
「あー、そういうことか…俺から聞いてみるよ。薫は悪い奴じゃないし、理由があって絡んでるんだと思うから。…ただ…いや、何でもない」

 気になるが深く知ると痛い目を見そうで追求するのは避けた。
 その時、扉が開き、先程の男の子が顔を出した。2人して飛び上がるほど驚いた。

「長くない?そろそろ話終わった?僕、そろそろ帰るんだけど」
「あ、…薫、キミのネコちゃん、大切にしなよ。無理に何かさせたりしてないよね?」

 鷹也が薫に言うと、あからさまに可愛い顔が歪み、俺を睨んできた。美人は起こると怖いの法則…可愛い子もなかなか迫力が…。

「何それ、アンタが言ったの。バレてるなら言うけど、学に余計なこと言ったらアンタが鷹也のものでも許さないから」

 低く、怒気をはらんだ声で言われて正直震えそうな怖さだ。

「でも、学はやめてほしそうだった」
「…そう。アンタには話すんだね……はぁ…こんなに好きなのに、どうやって愛したらいいのか分からない…学はアンタに相談するほど、嫌だったんだ…」

 これは…予想外だ。俺が聞いても良かったのだろうか。鷹也も初めて知ったらしく、小さく肩をすくめた。

「鷹也が羨ましいよ。幸せそうで」
「うっ…それは…恋愛不器用な薫がもっと頑張るべきじゃないかな…そうだ!デートしてみたら?環境かえて、気分をリフレッシュ!とか…変かな」
「いや、やってみる。ありがとう。アンタもごめんね、学の友達なのに傷つけたらあの子が悲しむよね。…じゃ、僕は帰るから」

 なんだが、嵐が去った後のようだった。いっきに色んなことが分かり、混乱しそうだ。学はやめてほしいと相談してきたけど、実は相手は好きだからちょっかい出てたということだ。好きな子をいじめる小学生…というのは聞いたことがあるが同じことか?

「んー、何かごめん。薫が学くんとそんなことになってなんて。また困ったことがあれば教えて」
「本人が隠したがっているから実際にはあまり力になれてないんだけどな。それに…」

 学には悪いが、彼のことは理由が分かればなんてことはない。頑張ってくれるだろうか。
 俺からは口を出さない方がいいのかもしれない。学には大した助けにはならなかったと謝っておこう。あとは二人の問題だ。

「そっか。和美ちゃんって意外と友達思いだなんだな。…そろそろ俺たちも帰ろう」
「生徒会のことはもういいのか」
「仕事は終わってたしな。和美ちゃんはメンバーに自慢するために呼んだだけだから」

 なるほど…。変な紹介をされていないことを祈ろう。


 *


 インターホンを躊躇わずに押した。すぐ横には家主の苗字の表札がはめ込まれている。

「…はい」

 スピーカーから明らかに迷惑そうな声が返ってきた。

「三橋です、薫いますか」
「…はぁ…ちょっと待ってて」

 本人だと分かった上で、聞いたので、分かりきった答えが返ってきた。しばらく待つと玄関の扉がゆっくり開いた。

「…入れば。長居するつもりなんでしょ」
「うん。ありがとう、おじゃまします」

 公にはしていないけど、薫とは長年の付き合いだ。俺の性格も分かっている。もう何度も入って見慣れた部屋に通される。いつもは汚い部屋なのに綺麗に片付けられていて、思わず笑いそうになる。

「薫、頑張ってんだ」
「ちょっと変な考え止めてよね。で、何しに来たの、あの事なら悪かったと思ってるからもういいでしょ」
「まぁな。けど、薫が誰か一人を好きになるなんてな。雪でも降るんじゃね」

 初めからピリピリしていた薫が、よりいっそう怒りを燃やしているのが目に見えて分かる。
 あんまり煽るのはよくないか。

「学くんなんだろ、どんな子?」
「…好きなことに真っ直ぐで、挑戦することに恐れない、自分をちゃんと持ってる…そんな感じ。そういうところにたぶん、惹かれたのかも」

 へぇ…案外ちゃんとした答えなんだな。本気で好きなんだ。よく見たことない女に男を部屋に連れ込むのを知っていたから、これまでを思うと感慨深い。

「そっか…良かったな。なら大事にしないとな」
「分かってる。でも…鷹也に言っても理解されないと思うけどさ…僕、学と2人きりで居ると我慢できなくなるんだよね。すぐ、手出しちゃって嫌がられたり怖がられたりされると逆に興奮してきて…何言ってんだろ、僕…本当は好きで、することだけが全てじゃないって知ってほしいのに僕…意思弱いのかも」

 あー…その気持ち分かるかも(苦笑)
 和美ちゃんに分かってもらう手段で俺もそういう手、使ったもんな。

「いや、俺もそれちょっと分かるから。けどなぁ…やっぱ、誠意見せるのは大事だぜ。薫には難しいかもだけどさ甘えてみたら?」
「…ほんと、簡単に言ってくれるよ。まぁ、アドバイスとして受け取っとくよ。…鷹也を見てたら僕が間違ってるんだってよく分かるよ。…桜坂も幸せそうだし。どこから間違ってたのかもう昔すぎて分かんないよ…」

 俺には到底想像もつかないような乱れた生活をしてたってことくらいしか分からない。いつから薫がそうだったのか、俺は知らない。いつか、誰か一人を好きになって恋をしてほしいってずっと思ってたんだよな。

「薫なら大丈夫だって。また間違えたら俺に相談しろよ。力になるから」
「うん。…別に今回、相談したわけじゃないけどね」
「なぁ、学くんの写真ないの」

 空気を変えるために話題を変える。薫はチラリと携帯を流し見たが首を振る。

「そんなもの、無いよ。あっても、鷹也には見せない。減る」
「どういう意味!?」

 どの辺が減るんだ!?俺には大好きな和美ちゃんがいるのに!!あっさり乗り換えるような軽い奴だと認識されてそうだ。おかしそうに笑う薫に、俺もつられて笑った。



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