秋の終わりのドゴログマ その1
無事に秋の収穫祭も終了しました。
我が家で行った家族みんなでの慰労会も大変盛り上がった次第です。
そんな中……
ルアとオデン6世さんの長女のビニーちゃんがですね、
「さぁ、リョータ。これアタシが頑張って作ったんだからね、食べてもいいのよ」
とか言いながら、自分が作成した焼き菓子がのった皿をせっせとリョータの前に置いていたんです。
それに対抗してかアルカちゃんも
「リョータ様、これ食べてほしいアル」
と言って、自分が作った肉まんなんかをリョータに差し出していました。
そんな感じで女性2人が火花を散らしている中、当のリョータはと言いますと
「アルカちゃんもビニーもとっても料理が上手ですね。2人とも大好きです」
と、ことあるごとに満面の笑顔でそう言っていたんです、
「そ、そんな……だ、大好きだなんんて」
「リョータ様、アルカ嬉しいアル」
その一言で、ビニーちゃんもアルカちゃんも顔を真っ赤にしながらリョータに体を寄せていた次第でして……
うん……なんだろう……スアにしかモテなかった僕と違って、リョータはなんかすごくモテてる気がしないでもないんですけど、と、とにかくこの3人の関係は暖かく見守ってあげようと思っています。
すでにアルカちゃんは我が家の娘と思っていますし、ビニーちゃんも娘同然だと思っていますしね。
◇◇
一夜明けて、コンビニおもてなしも通常の営業日が始まりました。
まぁ、通常の、と、言いましても秋の収穫祭をが開催されていたララコンベ温泉郷のコンビニおもてなし4号店と、オザリーナ温泉郷にありますコンビニおもてなし6号店以外の店舗は、出店に助っ人を派遣する以外は通常営業していましたので、そんなに大きな変化はないんですけどね。
お祭りの最中にララコンベ温泉郷に王都の中央辺境局から使者がきまして、ララコンベ温泉郷を村に昇格する書類を届けてくれました。
予定では、1ヶ月後を目処に正式な通知が届くそうです。
これを受けてオザリーナも張り切っていてですね、朝一からオザリーナ温泉郷を駆け回っていたそうです。
昨日、へべれけになっていたオザリーナですけど、彼女の手伝いをしているオザリーナの元メイドの人達が、昨日のうちにコンビニおもてなし6号店にスア製の二日酔い解消薬を買いに来ていたそうなので、おそらくそれを飲んだんでしょうね。
オザリーナも愛用しているスアの薬ですけど、この秋の収穫祭でも大いに売れました。
このお祭では、普段はあまり店に並べない高級薬品も大盤振る舞いするスアなんです。
例えば、蘇生薬とか
例えば、欠損修復薬とか
死んで何時間以内に使用しないと効果がないといった具合に使用方法に若干制約こそありますけど、とにかく効果がすさまじい薬がずらっと並んでいたわけです。
で、スアが準備していたこれらの高級魔法薬ですが……すべて完売しました。
中にはですね、瓶1本で1億円／僕が元いた世界通貨換算するようなとんでもない薬もあったんですけど、それもあっという間に売れてしまったそうなんです。
その結果を受けて、スアは
「……旦那様、スア頑張った、よ」
そう言いながら、嬉しそうに右手の親指をぐっと突き上げていた次第です。
「あぁ、スア。ホントにお疲れ様」
そう言って、スアの頭を撫でてあげた僕。
その手を受けて、スアはてれりてれりと体を左右に振っていました。
そんなわけで、打ち上げの終わったあとは、しっかり2人っきりで慰労してあげた次第です。
慰労し過ぎて、僕が少々お疲れモードになってしまったのは、まぁ、ご愛敬ってことで……
◇◇
そんな高級魔法薬の噂が結構あちこちに出回っているようでして、今日のコンビニおもてなし本店や、おもてなし診療所には、
「秋の収穫祭で売ってたっていう、あの薬を売ってくれ！」
「この薬、まだあるかい？」
そう言った問い合わせにこられるお客さんが少なくありませんでした。
中には金貨の詰まった布袋をいくつも抱えてこられた方までおられた次第です。
……ですが
そういった高級な魔法薬は、スアでもいつでも作れる訳ではないんです。
いえね、技術的には問題ないんですよ。
問題なのは材料です。
今回の秋の収穫祭で販売した高級魔法薬の素材って、その大半がドゴログマでしか採取出来ないものらしいんですよね。
このドゴログマって、僕が元いた世界で例えるなら天国の一部みたいな、とでもいいますか……
この世界では、神界って言う世界の下部世界にあたります。
で、そこに薬草なんかを採取に行くには神界の許可を得ないといけないのですが。これがなかなかおりないんですよ。
なので、スアが申請しまくっていてですね、その許可が下りる度にせっせとドゴログマに向かっては、せっせと素材を集めているわけです。
で、その素材を大盤振る舞いして作成した高級魔法薬を全部売っちゃった訳ですから、材料も枯渇しているため薬も精製出来ないわけです。
なので、ご来店くださった皆様には事情を説明してお引き取り願った次第です。
◇◇
そんな中
「……旦那様、許可、おりた、よ」
スアが嬉しそうにそう言いました。
その手には、ドゴログマへの侵入許可書が握られています。
「へぇ、今回はかなり早かったね」
「……うん、そう」
「じゃ、せっかくだからまたみんなで行ってみるか」
僕がそう言うと、スアも笑顔で頷きました。
で
早速それを子供達にも伝えたところ、
「うわぁ！ 楽しみです！ パラナミオ頑張りますよ！」
「リョータも頑張ります！」
「アルトも頑張りますわ」
「ムツキにお任せにゃしぃ！」
「あ、アルカも頑張るアル」
みんな気合い満々な様子だった次第です。
本来ドゴログマって、あれこれ危険がいっぱいな世界なんです。
なんでも、他の世界で手に負えなくなった魔獣なんかを幽閉するために作成された世界らしいですからね。
まぁ、そんな中でも、スアがいれば安全なわけです、はい。
◇◇
そんな訳で、ドゴログマには週末のお休みを利用して一泊二日で向かう計画を立てています。
パラナミオ達も
「パパ、楽しみですね！」
と、一緒にお風呂に入りながら、毎日のように笑顔で言っています。
今はまだ、僕と一緒にお風呂に入ってくれるパラナミオ達なんですけど……果たしてこれっていつまで続くんでしょうかね……
いつか
『パパと一緒は嫌です』
と言われてしまう日もくるんだろうな、と、覚悟はしているんですけど、実際に言われたらまず間違いなく立ち直れないと思っています。
◇◇
週末がやってきました。
「みんな準備はいいかい？」
朝、巨木の家の前に集合しているみんなに僕が声をかけると、
「はい、大丈夫です！」
というパラナミオの元気な声を筆頭に、子供達の元気な声が聞こえてきました。
「リョータも大丈夫です！」
「アルトもばっちりですわ」
「ムツキも大丈夫にゃし」
「アルカも、大丈夫アル」
「ふ、ふん、いつ出発してもいいんだからね」
……ん？
気のせいでしょうか。
子供達の返事の中に、若干1名聞き慣れない声が混じっていた気が……
改めて子供達を確認してみると……リョータの隣に、ビニーちゃんがいるではありませんか。
「あれ？ ビニーちゃん、どうして……」
「だから、一緒にいってあげても良いんだからっていってるでしょ」
そんなツンデレな言葉を発しているビニーちゃんですけど、一方で90度きっちり体を傾けたお辞儀をしていまして、いわゆる「よろしくお願いいたします」モードなわけです、はい。
なんと言いますか……ここまで言動が一致しないのもすごいなと思いつつ……
一応、ルアにも確認しましたところ
「へ？ ビニーが「店長さんに同行する許可もらった」って言うからアタシも許可したんだけど」
って言う衝撃の事実が発覚した後、ルアによるお説教タイムを経まして、どうにか同行出来ることを許してもらえたビニーちゃん。
そんな一同の前では、すでにスアがドゴログマ行きの転移ドアを精製しているところでした。
