秋の収穫祭 その8
ブラコンベ辺境都市連合主催の秋の収穫祭も、あっという間に最終日を迎えました。
会場が温泉郷だったっていうのもあってか、温泉宿に宿泊するお客さんがすごく多かった感じです。
屋台街は、基本夕方で閉店するのですが、温泉を満喫なさったお客さん達が夜も大量に街道を散策なさっていたものですから、再開する出店や、営業時間を延長するお店が続出していました。
ララコンベ温泉郷では、お住まいの皆さんの家々にも温泉が供給されています。
それなりに湯量がありますので、これはサービスとして行われているんですよね。
以前、ポルテントチーネがやらかしたレベルの湯量が必要になるというのであればさすがに問題ですが、この程度であれば特に問題ないみたいです。
温泉掛け流しで、宿で使用しなかった温泉はそのまま流れていくだけですし、住人の皆さんに喜んでもらえるこういった利用方法はすごくいいんじゃないかと思っています。
そんな余剰の温泉を利用してですね、秋の収穫祭に合わせてララコンベ温泉郷の随所に足湯が設けられています。
これは、僕が元いた世界で見ていた温泉番組のことを思い出しまして
「そう言えばこんなのもあったなぁ」
と、この足湯の事をララコンベ温泉郷の商店街組合の蟻人達に話したところ、
「それは面白そうですです!」
そう言って、秋の収穫祭に間に合うように整備したんですよね。
ただ
「なんかね、足の角質を食べて綺麗にしてくれる魚を放流したりもしていたなぁ」
なんて話もしてみたところ、
「ちょうどいい魚がいますですです」
蟻人達がそう言ったんです。
最初、それを聞いた時は
「へぇ、この世界にもそんな魚がいるんだ」
程度にしか思わなかったのですが……
「店長さん、いかがですです?」
秋の収穫祭の数日前に、その魚を入れた足湯に案内された僕は……
「……え?」
そこで、思わず固まってしまいました。
はい
足湯は普通です。
その中に……僕の世界であればなんとかフィッシュという、小さくて可愛い魚が泳いでいて、足をいれると寄ってきて古い角質を食べてくれる……
ですが
僕の目の前……足湯の中にいたのはですね……
そう、例えるならばオオサンショウウオ……それ以外に例えようがない魚……そもそも魚なのか、この四つ足のって……と、とにかく、そんなのがですね、湯船の底を闊歩していたんです。
で
足を入れるとですね、このオオサンショウウオもどきがですね、足をパクッと咥えてですね。舌で足をレロレロレロとなめ回すもんですから
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
僕は我慢出来なくなって、その場で大笑いしていった次第です。
……ただ、解放された後の僕の足は大変綺麗になってはいたのですが……オオサンショウウオもどきに舐められていた部分の足の毛までもが一本残らずなくなっていたりもいたしまして……
一応、大人しい生物とのことなので……
「……まぁ、試験的に1つやってみる?」
的に提案させてもらったのですが……
一部のお客様に非常に気に入ってもらえたそうで、それなりに流行ったみたいです。
……まぁ、大半のお客さんはオオサンショウウオもどきの見た目でドン引きしていたそうなので、足湯のサービスは継続するものの、このオオサンショウウオもどきのサービスを継続するかどうかは商店街組合で検討するとのことでした。
◇◇
一方のオザリーナ温泉郷も、ララコンベ温泉郷ほどではありませんが、大勢のお客さんで賑わいました。
ここぞとばかりに、踊り子酒場を経営しているシャラがゲリラライブよろしくオザリーナ温泉郷のあちこちに出没しては踊りを披露しまくって
「お店にも来てね~!」
って営業していたのを筆頭に、みんな一生懸命頑張っていました。
温泉宿で働いている、オザリーナの実家の元メイドだったビィミも、温泉宿の前で食べ物の屋台を出して売り上げと集客に貢献していました。
マウントボアの解体ショーは、ちょっと獣臭がすごすぎでお客さんにドン引きされていたものの、タテガミライオンの串焼き無料配布なんかは大勢のお客さんで賑わっていた次第です。
ただ、こうしてみるとやはりオザリーナ温泉郷はまだまだ発展途上といいますか……
一山越えた隣にあるララコンベ温泉郷に比べてこれといったオリジナルな売りがないんですよね。
すでにララコンベ温泉郷が広く認知されている現状で、オザリーナ温泉郷がこれからも発展していくためにはそういった部分での努力が今後必要になってくる気がします。
そのことは、オザリーナも実感しているみたいで
「頑張って何か開発いたしますわ」
そう言って、気合いを入れ直していました。
僕も
「出来る範囲で協力させてもらうよ」
そう申し出たのですが、
「何から何まで、いつも本当にありがとうございます」
オザリーナは嬉しそうにそう言ってくれました。
◇◇
ちなみに、この4日間ドンタコスゥコの姿を見ませんでした。
自分の店が出店している街でお祭があったわけだし、ドンタコスゥコの性格なら絶対に様子を見に来ると思っていたのですが……
そう思って、ドンタコスゥコ商会の店を切り盛りしていた店員さんに話を聞いてみたところ、
「あぁ、ドンタコスゥコ会長でしたら出張に出られてますわ。なんでも古い友人から買い付けをしたいとの書状をもらったとかで……」
とのことだそうです。
先日もニアノ村ってところに出向いていたドンタコスゥコですけど、ホント会長なのに自らフットワーク軽くあちこちに出向いて行っているんだなぁ、と、感心しきりだった僕。
この世界で店を経営して、いろんな商会ともお付き合いをさせてもらっているのですが……
だいたいの商会の会長さんって本店にいつもおられる印象でして、仕入れなどはすべて部下の人にまかせている感じなんです。
ですが
ドンタコスゥコは常に自ら先頭に立って大陸中を駆け回っている印象です。
どっちにも良いところも悪いろころもあるとは思いますが、少なくともまず自分が動くというドンタコスゥコのスタイルは、結構好きだったりします。
◇◇
ポン……ポンポン……
夕暮れの街に、秋の収穫祭の終了を告げる花火があがっています。
4日間開催された秋の収穫祭ですが、あっという間に終了してしまった気がします。
通常の祭りであれば、ここからは家路につかれるお客さんで、定期魔道船の発着場がごった返し始めるのですが、今日はこのままもう一泊して帰宅するおつもりの方々が多いらしく、街道を往来しているお客さんの数はあまり減った気がしません。
そんなお客さん目当てのお店や出店からも賑やかな声が聞こえ続けています。
オザリーナ温泉郷でも、状況は同じでした。
転移ドアでコンビニおもてなし6号店に移動しまして店の外を見たところ、まだまだ多くのお客さんが往来なさっています。
その様子を見ている僕の元に、6号店店長のチュパチャップが駆け寄って来ました。
「あの、タクラ店長さん、少し営業時間を延長してもいいでしょうか?」
「そうだね、これだけのお客さんがまだ残っておられるんだし、僕も手伝うよ」
「はい、ありがとうございます!」
僕の返答を受けて、チュパチャップは笑顔で駆け出したのですが。
「うわぁ、また滑ったぁ!」
「ひゃあ!? ひ、久しぶりにスカートがズリ下げられてしまいましたぁ」
……と、まぁ、久しぶりにその光景が帰って来たコンビニおもてなし6号店だった次第です、はい。