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秋の収穫祭 その6

 秋の収穫祭は、朝から大盛況になっていました。

 ララコンベの街中には大勢のお客さんが繰り出しています。

 以前は魔石鉱脈頼りの街経営だったララコンベだったのですが、その魔石鉱脈が尽きたことで街そのものが消滅しかけたりもしたんです。
 ですが、偶然温泉を発見することが出来、その温泉を観光資源とした温泉郷としてリニューアルしたララコンベは、見事に復活を遂げた次第です。
 今も、現状に甘んじることなく温泉郷の整備を続けているもんですから、ララコンベは日に日に成長し続けています。

 そんなララコンベなもんですから、
「あれ、前に来たときよりも施設が増えてるね」
「ホント、なんだか楽しそう」
 そんな声がお客さんの中からいっぱい聞こえていたりします。

 
 ブラコンベ辺境都市連合が主催している季節の祭りなのですが、定期魔道船が就航して加盟都市を短時間で往来しているおかげでですね、毎回主催都市だけでなく、定期魔道船が停泊する都市全てを回るお客様も少なくないんです。それに加えて、祭りにやってきてくださったお客さんの宿泊地としてララコンベ温泉郷は大人気なもんですから、余計に皆さんもその変化に気付きやすいのかもしれませんね。


 オザリーナ温泉郷の管理をしているオザリーナも、そんなララコンベ温泉郷の視察にやってきていたのですが
「ホントに、いっぱい勉強させていただきまして、私達のオザリーナ温泉郷も負けないように発展させていきますわ」
 そう言って、気合いを入れ直していた次第です。

 オザリーナ温泉郷は、出来てまだ間がありません。
 元々、温泉郷経営のノウハウなども持ち合わせていなかった異業種からの参戦だったオザリーナ。

 彼女はララコンベ温泉郷を定期的に視察し、時に温泉宿で体験バイトとして働かせてもらったりしながら、温泉郷としてのノウハウをあれこれ勉強させてもらっているところなんです。

 ある意味、今回の秋の収穫祭は、そんなオザリーナ温泉郷の本格的なお目見えイベントといっても過言ではないかもしれません。

 それがわかっているからでしょうか、オザリーナの気合いの入り具合が半端ではありません。

 数日前からオザリーナ温泉郷内の準備の確認を行いまくっていたのは当然として、ララコンベ温泉郷に足繁く通っては、
「今から出来ることはないかしら……」
「もっと出来ることはないものかしら……」
 そんな感じで、寝る間を惜しんで考えを巡らせ続けていた次第です。

 そんなオザリーナ温泉郷ですが……
 現在のところ、オザリーナ温泉郷へ出向くには、ララコンベ温泉郷とオザリーナ温泉郷を結んでいる定期駅馬車を利用するしか移動手段がありません。
 街道を整備していますのでかなり短時間で移動が可能なもんですから、ララコンベ温泉郷を訪れたお客さんが
「あっちの温泉にも行ってみるか」
 といった具合で、ついでに立ち寄ってくださるケースが徐々にですが増加しているみたいです。

 平時における温泉の知名度は、ララコンベが圧倒的なわけですが……そんな中、今回の秋の収穫祭なわけです。
 ララコンベ温泉郷の宿は、前述のとおり知名度も抜群ですし、今回の主催都市でもありますので、あっという間に予約でいっぱいになってしまいました。
 そのおかげでと言ってはあれですが、オザリーナ温泉郷に宿を取る人がかなりの数に上っているんです。

 これは、コンビニおもてなしが販売を代行していますので、その結果からはっきり読み取れている次第です。

 これを受けてオザリーナも
「今回ご宿泊いただいた皆様に、目一杯満足頂きまして、ぜひともリピーターになって頂きますわ!」
 そう言って、拳を握りしめていた次第です。

 そんな感じで、ララコンベ温泉郷とオザリーナ温泉郷はいい意味での協力関係を構築出来ているんですよね。

 意図せず、その両方の温泉郷の設立に携わった僕としましても、この調子でお互いに切磋琢磨しながら両方が成長していってほしいと、心から思っています。

◇◇

 そんな感じで、各都市は秋の収穫祭で賑わいまくっています。

 そんな中、コンビニおもてなしももちろん頑張っています。

 ララコンベとオザリーナ温泉郷の両方の都市でコンビニおもてなしの支店と、秋の収穫祭の出店を展開しているコンビニおもてなしですが、すべてで気合いをいれて頑張っています。

 朝方、ララコンベにありますコンビニおもてなし4号店で少々トラブルがありましたけど、それも早期に解決出来ました。
 以後は、4号店も問題なく営業出来ています。

 問題なくとはいうものの、その来客数は相当な感じになっています。

 4号店店長のクローコさんが
「いつもの5割ましましだよ、店長ちゃん!」
 そう言って、舌出しピースしてたくらいですからね。

 これは、4号店に限ったことではありませんでした。

 4号店が、お客さんこそ多いものの安定して営業出来るようになったもんですから、僕はその足でオザリーナ温泉郷にありますコンビニおもてなし6号店へと出向きました。

 すると……こちらも大勢のお客さんで賑わっていた次第です。

 どれくらい忙しそうだったかと言いますと、店長のチュパチャップが
「……き、今日は一度もスカートをズリ下ろされていません」
 そう言いながら、マジ顔で困惑するほどだったんです。

 そう

 そんなある一部の店員によるラッキースケベが発生する余裕すらない、と、いえばご理解頂けるのではないでしょうか?

 ただ、こちらの店舗はですね、4号店のように混雑し過ぎて、店内がすし詰めになってしまうといった事態は起きていませんでした。

 これは、店長のチュパチャップが、
「あ、お客さんの入場制限を……」
「商品補充をお願いします」
「あ、先にレジ作業をお願いします」
 そんな感じで、微に入り細に入り、常に先に先に指示を出しているもんですから、その賜物ですね。

 以前から、コンビニおもてなしの店員として、その仕事を誰よりも熱心に、かつ丁寧にこなしてくれていたチュパチャップ。
 そんな彼女だからこそ、当時の上司だったシルメールが
「あいつを6号店の店長に推薦させてくれ」
 そう言った上、それに誰も異論を挟まなかったくらいですからね。

 そんなわけで、こちらはチュパチャップに任せていれば大丈夫みたいですね。

 そこで僕は、今度は出店の方へと足を伸ばしていきました。

 まだ初日。
 しかもお昼前だというのに、あちこち回りすぎてお疲れな感じの僕だったのですが……そんな僕の袖が引っ張られました。

 そちらへ視線を向けると、そこにスアの姿がありました。
 転移魔法で僕の横に移動してきたらしいスアは、
「……これ、飲んで」
 そう言って、1本のドリンクを差し出してくれました。
 
 その瓶には、「リルゲイン」と書かれています。
 どうやら、スアが精製販売しているエナジードリンクの新商品のようですね。

「……飲むと、少し、疲れとれるはず」
 心配そうな表情でそう言ってくれるスア。
 そう言いながら、さりげなく僕に向かって回復魔法もかけてくれているのがわかります。
「ありがとうスア」
 そんなスアに、笑顔でお礼を言いながら、僕はそのドリンクを受け取りました。

 ホントに、素敵で可愛くて気遣いが出来て子供達の面倒も見てくれて薬作りも上手で本も素敵で魔法も最高で、と、僕にはもったいないくらい最高の奥さんです。

「……褒めすぎ、よ」
 僕の思考を読み取ったらしいスアが、顔を真っ赤にしながらも、てれりてれりと体をくねらせていました。

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