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やはり『自分のこと』だからなのかと疑問を抱く

「とにかく間宮さん、間違わないで欲しいんですが……あなたがこの世界で戦っている間宮真也の意識はないかもしれないということ、それだけは絶対に覚えていて下さい。……特に今回は」
「それは……」
まあ確かに。と納得しつつ、やはり『自分のこと』だからなのかと疑問を抱く。そんな真也の内心を読んだかのように津野崎はまたため息をつくと、首を横に振る。
「ああいえ、そういう意味ではなくて、むしろ。間宮さんの肉体という器に、異世界間宮まひるの記憶が入った状態で。なおかつ人格として間宮真也が存在する以上、完全に『別人』というわけではない、と言いたいのです」
津野崎の発言は一見矛盾していたが、その表情には確信めいたものがあって。
真也は何の根拠もなくその発言を信用することにした。
まひるの記憶があるということは、自分が彼女の生まれ変わりなのだと言われてもおかしくないとは思ったが、そんな突拍子もない考えを口にするのは躊躇われたのだ。
それにしても、なぜこのタイミングでその話を切り出したのかが不思議であったが。そんな疑問を見抜いたかのように彼女はまた口を開く。
「さて……なんの話だったでしょうか。……あ、そうだそうそう!間宮さんにやってもらう事ですね」
先ほどの会話を思い出した津野崎だったがすぐに話題を変えたかったらしく強引に話を戻される。
だが、真也としてもその内容が気になっていたこともあり異論はなかった。
先程津野崎が言いかけた内容はなんだろうか。と記憶を探ると、それを思い出すよりも早く彼女は口を開いた。
「今回の作戦について、追加情報を伝えましょう」
「追加、ですか」
その一言を聞いて、思わず身を乗り出しそうになるのを抑えつつ努めて平静を保ち返答をする。
真也にとって津野崎が追加の情報、というのは意外なことではなかったが、それでもどこか期待していた部分があった。
それが表に出ないよう、顔の表情を取り繕うことに努めていた真也だが、津野崎がそれを見逃してくれるはずがなかった。
「おやぁ、もしかしてワクワクしています? 意外といい性格しているじゃないですか、ふへへ」
いつものようにニヤリと笑いかけられ真也は慌てて首を振る。その様子を見ながら津野崎はさらに続けた。
「いいですねぇ、実に前向きな思考だと思いますよ。……まぁそれはさておき、今回新たに追加されたルールは、『制限時間の追加』です」
「制限、時間?」
「そうです。まぁぶっちゃけて言えば、制限時間を過ぎれば問答無用で全滅ということです」……その瞬間。
今まで黙っていた光一が目を開いて大声を上げる。
「……ふざけるな!!そんなことが許されるものか!」
彼の怒鳴り声で真也とまひるの肩が跳ね上がる。2人はあまりの声量と剣幕に驚いたようだが、そんな様子に気づいた様子はなく、光一の怒りはそのまま続いた。
「『我々』が作り上げ、守り、繋いできたものが! ただ『世界災厄』に弄ばれ、殺され続けるだけの存在だとでも言うつもりなのか!? 冗談ではない!!」
唾さえ飛ばしかねない彼の怒号であったが、それももっともで。真也もまた憤慨する気持ちは同じであった。
「そっ……そうですよ!俺だって戦えます。
みんなが命を賭けて、作ってくれている時間を、無駄にするなんてできません」
勢いのまま、立ち上がる。まひるに視線を送り大丈夫だということを確認すると、さらに彼は言葉を続ける。
「俺は、絶対に生き残ってみせますから」
決意を新たに宣言すると、その様を見た津野崎の表情が変わる。
「あー……ちょっといいデスかね、間宮さん」
少し呆れたような態度を見せた彼女は眼鏡のつるを持ち上げて位置を調整すると口を開いた。
「いや、だからですね……全員死んだら終わりなんですよ?そこんところ分かっています?」
「え……それは……もちろん、わかっていますけど……でも……」
当然のことを聞く津野崎に対して戸惑いを見せる真也に対し、「あちゃー」と言いたげに手を上げ天を仰ぐ。
そのオーバーリアクションにはさすがの真也にもイラつきが浮かぶが、彼女の言葉の意味を考えると口を挟める雰囲気ではなく大人しく彼女の次の言葉を待った。
そして彼女はゆっくりと口を開く。それは、彼女がよくやる、『嫌味』だった。
「うわぉ、マジすか。……こほん。『俺たちは死んでたまるか』『生きて、生き残るんだ!』という気概を持つのは非常に結構なことだと思いマス。私もできる限りの協力を約束しまショウ。……ただね?それって結局何もしなくても死ぬってことなんですケド」
真也の表情が歪む。それは、彼が初めて見せる感情らしいものだった。『悔しさ』、あるいはそれ以外の何かが。
だが、すぐに真也はそれを押し込めるように唇の端に力を込めた。彼は津野崎の目を見てはっきりと告げる。
「……でも。俺は生き残りたいと思って行動します。
それに……世界を守るのが、殻獣を倒すことが、俺の役割なんですから」
真っ直ぐに見つめてくる真也に対して彼女は一瞬目を逸らすが、諦めたか、ふう、と息を吐き出すと口元を緩めた。
「ふぅん……なるほど、分かりました。
間宮さんのその意気は買いまセン、私は『現状把握ができていないバカ』が好きなんデスから。……なら、一つだけアドバイスをしてあげまショウ。どうせ全滅させるつもりなので、タダですしネ?」
そう言った彼女は真也の目を見ずに横顔を見せて告げる。
「間宮真也。あなたに足りないものは……想像力です」
それはまるで自分に言い聞かせるように小さな声だったが、不思議なことにこの場にいる全員の耳に届いたようであった。
(俺に必要な、想像力……?)
彼女の言葉を脳内で繰り返してみるものの意味が分からず、彼は首を捻る。その様に津野崎は満足気に笑った。
「フフン、わからないといった顔をしていますネェ。まぁ無理もないと思いマス。
まあいいでしょ。これは私が言えた義理じゃないしネー……では。ご静聴ありがとうございます。これが、最後の質問デース!」
真也はその言葉で、いつの間にか握りしめていた手を解いて姿勢を改める。この場で聞くべきことは全て聞いたのだと確信したが故の行動であったが、それは正解であったようだ。彼女は満面の笑みを浮かべると立ち上がり、部屋の奥にあるスライドドアの方へ歩くとその手前に立つと振り返り真也を見る。
真也もつられて立ち上がろうとしたが、それは彼女に手で制された。
津野崎はニコニコしたまま話を続ける。
「まあ、間宮さんは『今の世界が壊れても』生き返りたいとは思わないので大丈夫だと思いますけどネ!ハハッ」
笑い飛ばしているようでその目は笑っていなく、その言葉は毒を含んで聞こえた。……『世界の真実を知っている人間』だからこそ言える冗談なのだろうが。
彼女は扉を開ける。その向こうには白いカーテンと窓が見えており、陽光がその奥へと伸びている。
「まあせいぜい頑張ってくださいネー、ではお元気デ〜」
その言葉を最後に津野崎の体はするりと抜けていき、その背中は真也たちからは見えなくなる。……その直前にちらっと見えたのは彼の上司、冬泉だった。
彼女の姿が消えた後、室内に残された彼らはしばらく誰も動けなかったが、伊織がぼそりと呟く。

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