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秋の収穫祭 その5

 いよいよ秋の収穫祭が始まりました。

 今回の秋の収穫祭は、4日間の日程で開催されます。
 前日の夜から、会場になっていますララコンベとオザリーナ温泉郷には多くの荷馬車が集まっていました。
 その荷馬車の多くは、コンビニおもてなしが運行している定期魔道船を利用してララコンベへとやって来ています。

 そのままララコンベにお店を出す人。
 ここから山向こうのオザリーナ温泉郷へ向かう人。

 そんな人々が忙しそうに行き来していた次第です。

 念のために、ララコンベからオザリーナ温泉郷を結んでいる街道は、ガタコンベで自警団を結成している元猿人盗賊団のみんなに警護してもらっています。

 元々山賊だった彼らは、こういった山間での護衛・警護任務にすごく適していましてですね、日頃から荷馬車の護衛任務や、荷物の運搬業務などの仕事をかなり手広く請け負っているんです。
 定期魔道船が就航して、あちこちの都市間の移動時間が短縮されてはいますけど、定期魔道船が就航していない町や村、集落の方が多いのが現状ですから、その間を行き来するために今も荷馬車は重要な荷物運搬手段なわけです。そういった方々から絶大な信頼を得ているのが、ガタコンベ自警団なわけです。

 ブラコンベ辺境都市連合が開催するお祭の警護全般も、彼らガタコンベ自警団が請け負っていましてですね、今回の街道警備もその一環として行ってもらっている次第です。

「あの自警団が守ってくれてるのなら安心だな」
「ホント、助かるわい」
 行き交っている人々の中からも、そんな声がよく聞こえています。

 そんな声を、たまたま僕と一緒にララコンベを視察して回っていたセーテンが嬉しそうな顔をしながら聞いていました。

 セーテンは元山賊のリーダーで、現ガタコンベ自警団の面々を率いていたんですよね。
 それを、僭越ながら僕の一計で捕縛し、そこで改心してくれて今にいたるわけです。

「あいつらがみんなに感謝してもらえているのも、ダーリンがあれこれ骨を折ってくれたからキ。感謝しても仕切れないキ」
「そんなことはないよ。みんなが頑張った結果だって」
 セーテンの言葉に、笑顔で答える僕。

 以前のセーテンだと、ここで
『これはもう体でお礼するしかないキ! ダーリーン!』
 とか言いながら、僕に向かってル●ンダイブしてくるはずなんですけど、今のセーテンはそんなことはしなくなっているんですよね。

 僕に向かってニカッと笑う。

 そこまでで押さえている感じです。
 まぁ、そんなしおらしいセーテンの言動に油断していると、僕の腕にいきなり抱きついてきてその豊満な胸で腕を挟み込んできたりするわけですけどね。

 それがわかっていた僕が隙を見せなかったからでしょうか、今日のセーテンはそこまでの行動を起こさなかった次第です、はい。

◇◇

 ララコンベとオザリーナ温泉郷では、朝まで多くの人々が行き来していました。

 そして、翌朝。
 
 ポン、ポン……

 音と煙の花火が上がっていきます。
 秋の収穫祭開始の合図です。

 その音と同時に、ララコンベとオザリーナ温泉郷の中に多くのお客さんが繰り出していきました。

 どちらの都市にも、コンビニおもてなしがあります。
 同時に、出店も構えています。

 今日の僕は、その4箇所の様子を視察して回る予定になっています。

 まず僕は、ララコンベにありますコンビニおもてなし4号店へ向かいました。

「うわ!?」
 店の奥にある転移ドアから顔を出した僕は、思わず目を丸くしました。

 開店して間もないコンビニおもてなし4号店なのですが、その店内がお客さんですし詰めになっていたんです。
「うわちゃあ!? クローコとしたことが一生の不覚ぅ」
 なんか、そんなクローコさんの声がレジの方から聞こえてきます。

 察するにですが……ここまでお客さんが一気にくると思っていなかったクローコさんは、お客さんを誘導するための人員を配置していなかったんでしょうね。

 ブラコンベ辺境都市連合が主催するお祭の際は、その主催都市にあるコンビニおもてなしは例外なくお客さんが殺到するもんですから、

・店内への入場制限を計画しておくこと
・入場制限をするための人員を準備しておくこと

 そう指示を出していたんですけど……

「クローコさん、どうしたんだいこれは?」
 僕が慌ててレジに顔を出すと、
「あ、店長ちゃん、クローコ一生の不覚っていうか、入場制限するはずだったツメバが人並みに押しつぶされたっていうか」
「は!?」

 クローコさんに言われて、入り口の方へ視線を向けて見ると……うん、確かに、お客さんの足下にツメバっぽい姿が見えなくもないというか……

 ツメバって男性ですけどかなり小柄なんですよね。
 なので、開店と同時になだれ込んできたお客さんを制御しきれなかったんでしょう。
 ということは、一応指示は守ってくれていたけど、選択ミスだったってことですね。

 それを察した僕は、早速店の前にでて入場制限を開始しました。

 こういうとき、身長190cmを越えているのって役にたちます。

 この異世界でも、僕は背が高い方に分類されています。
 そんな僕が手を振って
「お客様、一度立ち止まってください。店内只今満員です」
 そう声をかけると、皆さん一斉に立ち止まってくれた次第です。

 僕は、安堵の息をもらしながら、入場整理を開始しました。

 人波に押しつぶされていたツメバも、人の波が途切れたことでようやく息を吹き返しまして、バイトとして勤務してくれている奥さんのチュンチュと一緒に店内接客に回ってくれました。

 ただ

「あんた、あの醜態は何? 店長さんにまで迷惑かけて!」
「め、面目ない……」
 なんか、そんな感じで、ことあるごとにチュンチュにドヤされていたツメバでして……

 以前、チュンチュがこの店でバイトすると言った時に
「店でまで一緒はちょっと……」
 そう言っていたツメバの言葉の意味が少し理解出来たといいますか……

 そんな僕の脳内には、『鬼嫁』って言葉が浮かんでいた次第です。

 まぁ、僕の奥さんには当てはまらない単語ですけどね。

◇◇

 そんな感じで、一気に人が押し寄せてきたコンビニおもてなし4号店ですが、これには立地的な理由もあるように思います。

 というのも、コンビニおもてなし4号店は、ララコンベで一番大きい温泉旅館のすぐ隣にあるんです。
 なので、今日のお祭に備えて前日から温泉宿に宿泊していたお客さん達が一斉にやってきたのでしょう。

 しかも、コンビニおもてなし4号店には定期魔道船の乗降タワーも設置されているんです。
 なので、その乗降タワーから降りてきた定期魔道船の乗客のみなさんまでもが、店内に殺到してきたのでしょう。

 とにもかくにも、どうにか一山超した感じの店内です。

 売れ筋はやはり弁当やパン類ですね。
 特に、朝一番の定期魔道船でやって来た皆さんの多くが、まずは腹ごしらえとばかりにコンビニおもてなし4号店の中で食べ物を購入していかれていました。
 同時にスアビールやパラナミオサイダーも飛ぶように売れています。

 タクラ酒は……えっと、いいんですよ、気を遣ってくださらなくても……い、以前よりはジワジワ売れているんですからね!

 あと、スアの薬も大人気です。
 過去のブラコンベ辺境都市連合のお祭の度に大人気になっているだけあって、お客さんにも広く認知されている感じなんですよね。

 この薬を買うために、かなり遠方の辺境都市から来られているお客さんも少なくないそうです。

 そんなお客さんのおかげもあって、秋の収穫祭は順調な滑り出しになっているようです。

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