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「よー、香ちゃん。今日はずいぶんゆっくりと登校してきたなぁ」



 昼休み、席を立とうとしたとたん、がしっ、と後から押さえこまれた。



「だぁっ、放せ円城寺っ」



 ハードロックする腕を振り払って、机にぶつけた額をさすりながら立ち上がると、しょーもないことしーの円城寺の首を締め上げた。



「あーもおっ、今日はやたらについてねーんだよ!食堂行こーぜ、食堂」



「ベントーは?」



「おふくろも寝坊して、なし。くっそ、朝メシも食ってねーんだ。ラーメンと焼きメシ食おっと」



 ぶちぶちとぼやきながら、円城寺を引きずって食堂の席を確保させると、俺はラーメンと焼きメシを持って席についた。



「そーいやさ、朝会った妙な女って話、最後まで聞かせろよ」



 きつねうどんをズルズルといわせながら、円城寺が休み時間に話した続きを急せた。



「あー、あの話?だからー、そいつが言うには、魔女らしいんだけどさ、今時いると思うか?魔女だぜ、魔女」



 ずずず、とラーメンをすすって、俺は一時間目を完全にぽしゃった恨みを込めて、がんがん、とテーブルを叩いた。



「魔女の宅急便じゃあるめーし、空飛んでみろってんだ!」



 まったく、どんな方法で隠れたんだか、あの後どこ探してもいなかったし、気味悪いったらありゃしねぇ。



「どんな格好してた?顔は?」



 興味本位でしか聞いとらんなー、と円城寺を見て思いながら、俺は愚痴を込めてうだうだと話してやった。



「それが見たこともないセーラー服でさ、どー見てもフツーの女子高生って感じ。髪がふわって背中くらいまであって、顔は…まあ、可愛いほうだったかな?」



「おいしーじゃねーか」



「…うどんが?」



 わざとはずして言うと、円城寺が割り箸を伸ばして、ラーメンのぺらぺらのチャーシューをさらっていった。



「チャチャ入れんな、阿呆。なんでそんなセーラー服の女子高生と、朝から待ち伏せされてふてくされてんだよ、贅沢者」



「あーのーなー…おまえ、人の不幸を楽しんでないか?」



 ラーメンが終わって焼きメシに手を付けながら、俺は恨みがましく円城寺を睨みつけた。



「人のフコーは大好きサっ」



「懐かしい歌ってんじゃねーよ、タコ。あーあ、今日の朝連サボリになるし、体調崩したとか言って、放課後もサボっちまおーかなぁ」



 ここは無難に、家に直行したほうがいいかもなぁ。あの口調だと、また会いそうな感じだし…。ああやだ、出来れば二度と逢いたくない。いくら顔がよくっても、得体のしれん女なんて俺はいやだっ。



 ばくばくと焼きメシを口に運びながら、パックの烏龍茶で流し込んだ。



「いーのかぁ?サッカー界の新星、我が校のストライカーともあろー柚木香くんが、さーぼーりーだーなんて」



 ふざけた口調で言った円城寺に、俺は慌てて口を塞いだ。



「わざとでかい声で言うな、バカ。いーかげんやめろよ、新星なんて一年もたちゃ…」



 自分の言った台詞に、びくっとした。



 確か、FWでストライカーだった佐竹先輩が骨折して、補欠だった俺がFWに抜擢されたのは…ほとんど、一年前!



『今のままのあなたでいるか、昔のあなたに戻るか』



 あの女はなんて言った?去年の契約、って…まさか、俺は…!

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