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秋の収穫祭 その3

 いつものようにコンビニおもてなし本店で接客をしていた僕なのですが、

「店長ちゃん、なんかお客さん? みたいな」
 ララコンベにありますコンビニおもてなし4号店の店長クローコさんが、本店に顔を出してそう伝えてきました。

 それを受けて僕は、クローコさんと一緒に転移ドアをくぐってコンビニおもてなし4号店へと移動していきました。

 そこにいたのは、ララコンベ温泉宿を切り盛りしている3代目女将のチャルピナさんと、ララコンベ温泉郷の一山隔てたところにあるオザリーナ温泉郷の責任者オザリーナの2人でした。

 その2人の顔を見た僕は、話を聞く前にだいたい要件を察しました。

 いえね、以前からブラコンベ辺境都市連合が開催するお祭の際にはですね、コンビニおもてなしが運行しています定期魔道船のチケットと、主催都市の宿泊予約をセットにしたチケットを販売しているんです。
 で、2人は
『今回もセット販売をよろしくお願いします』
 と言いに来たんだろうな、と思っていたのですが……

「と、いうわけで、今夏も宿泊施設のとのセット販売をして頂きたく思いまして」
「お願いに参りました次第ですの」
 4号店の応接室で面会した2人は、予想通りそう切り出してこられました。

 まぁ、遅かれ早かれそう言ってこられるだろうなと予想していましたので、コンビニおもてなし側ではすでに準備は整っていました。
「わかりました、こちらこそよろしくお願いします」
 そうお返事させてもらった次第です。

 この宿泊施設と定期魔道船のチケットのセット販売はですね、

 まず、宿泊施設側から販売する部屋の数や部屋の詳細などを教えてもらいます。
 で、それをですね、コンビニおもてなし各店舗のレジでお客さんに一覧を提示させて頂きまして、それを見ながら宿泊する期日や部屋を選んでもらっていました。
 そして宿泊予約が出来たら、次に定期魔道船のチケットを必要な枚数購入していただく、と、こういう仕組みになっています。

 ちなみに……

 この、宿泊希望の部屋を選択するシステムなのですが、以前は一覧表などを使った手処理で対応していたのですが、今回から新兵器を導入することになっています。

 僕が元いた世界で言うところのip●dのような板状の魔法具を使用する準備を整えたんですよ。

 この魔法具の画面をタッチすると、その画面に、

 宿泊希望都市名
 宿泊人数
 宿泊日時
 食事の有無

 こういった内容を入力する画面が表示されます。
 いわゆるタッチパネルの要領で、それらの項目に入力出来るようになっています。

 これ、僕がですね
「こんなシステム、魔法で出来ないかな?」
 と、スアに相談いたしまして、2人してあれこれ試行錯誤してようやく完成したシステムなんです。

 この魔法具なのですが
「タクパッド」
 と名付けています。
 
 タクラ家の「タク」ですね。

 で、このタクパッドは、魔導レジに接続されています。

 というのもですね、各本支店ならびに出張所に置かれている魔導レジはですね、スアの魔法ですべて連動していまして、本店のレジで一括管理されているんです。
 これによって、本店にいながらにして各店舗の売り上げ金額や売り上げた品目などの詳細なデータを収集・データ化したものを確認することが出来る仕組みになっているんです。

 で

 そのネットワークを利用してですね、宿泊施設の埋まり具合をすべてのタクパッドでリアルタイム検索出来るようにしているわけです。
 こうしておけば、宿泊施設の予約を受けたもののダブルブッキングやオーバーブッキングになっていた!? ってなって、あとで慌てなくて済みますからね。

 この日、早速宿泊施設のデータを2人からもらった僕は、そのデータをタクパッドの親機にデータ入力していきました。

 これを受けて、翌朝から定期魔道船のチケットと秋の収穫祭の宿泊チケットの抱き合わせ販売が始まった次第です。

 このタクパッドの初陣でもありますので、各店にタクパッド説明用店員を配属しました。

 配属したのは、先日やっと人型に変化することが出来るようになったウルムナギ又5人娘達です。
 まだ魔王ビナスさんによります新人研修の真っ最中の5人ですけど、このタクパッドの使用方法は割と早くマスター出来たので、接客の実地訓練を兼ねて各店に出向いてもらった次第です。

 ……ただですね、これに関しては1つ問題があるといいますか……

 いえね、魔王ビナスさんが飴と鞭を使い分けながら巧みに新人研修を行ってくれているのですが……この5人ってばなっかなかそれが身につかないといいますか……前日の研修内容を5人揃ってすっかり忘れているなんてことも多々ありまして、

「うふふ……この5人ってば、ホントに教え甲斐があるといいますか、ないといいますか……」
 と、魔王ビナスさんが背後に絶望のオーラをチラチラさせながらクスクス笑い出している程なんですよね……

 とにもかくにも、今回の実地研修で気分転換して、改めて新人研修を頑張ってほしいものです……出来る事なら、魔王ビナスさんの堪忍袋の緒がぶち切れるまでに、うまくいってほしいなぁ、と、心の底から思っている僕だったりします。

 ただですね、このタクパッドの説明要員として派遣した5人は、思った以上にスムーズに対応してくれていたようです。
 最初は各本支店から、このタクパッド関連で問い合わせが殺到するんじゃないかと思っていたのですが、そういった問い合わせはほとんどありませんでした。

 あとで、各支店の店長にも確認してみたんだけど、

「いや、あのウルムナギ又、結構しっかりやってくれたよ。レジ対応はさっぱりだったけど」
 2号店店長シルメール

「そうですね、タクパッドに関しては及第点でした。ですが、レジ対応は赤点でしたね」
 3号店店長エレ

「タクパッドに関しては問題ありません。ですが、レジには触らせませんでした」
 5号店東店店長スシス

 ……とまぁ、そんな感じでですね、どの店でもタクパッドの説明業務は問題なくこなせているウルムナギ又のみんななのですが……これがレジ業務になるとからっきしだったみたいでして……

 で、それを伝え聞いた魔王ビナスさんがですね
「うふふふふふふふふふふ……あの方達、戻って来たらどのように指導いたしましょうか」
 そんな事を言いながら、厨房で包丁を研ぎ始めたといいますか……えっと、魔王ビナスさん、それなんですか? なんかどう見ても巨大な鎌にしか見えないんですけど……あの、悪魔が命を刈り取る時に使用するような……

 と、まぁ、そんな事がありながらも、新たなシステムもどうにか軌道にのりそうですね。

 このタクパッドはですね、今後はコンビニおもてなし3号店と同じ建物に入っています魔法少女戦隊キュアキュア5ランドや、テトテ集落の果物狩りのチケットなどとの抱き合わせ販売も考えている次第です。

 うまくいけば、このタクパッド限定予約商品販売とかも出来たりするかな、なんてことも考えています。
 
 こうして、コンビニおもてなしでは秋の収穫祭に向けての準備をおこないながら、同時にお店の設備も充実させている次第です。

 この調子で、さらに頑張っていきたいものですね。

 本店でタクパッドの取り扱い説明係を兼務している僕は、その使用方法をお客さんに説明しながらそんなことを考えていた次第です。

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