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ニアノ村の案件と、秋の収穫祭序

 おかげさまで、秋の味覚フェア第二弾はなかなか盛況です。

 どの店でも一番人気なのはバックリンご飯とカゲタケご飯をメインにしたお弁当で、次にヤルメキススイーツの新商品大学芋といった感じです。

 レジ横販売では思ったほどの売り上げがあがっていなかった焼き芋も、店の前で実演販売よろしくたき火の中で焼き上げたばかりの物を販売する方式を採用してみたところ、これがかなり好評となっていました。
 
 特に、ナカンコンベにあるコンビニおもてなし5号店西店では、店の真正面にあるドンタコスゥコ商会で働いている女性の皆さんがこぞってこれを購入してくれているんだとか。
 当然、僕と同じ転移者であるユキカもその中の1人なわけです、はい。

 そんな中……5号店の様子を見に行ってみた僕はあることに気が付きました。
「あれ? ドンタコスゥコはいないのかな?」
 そうなんですよ。
 こういった新商品を投入すると、いつも真っ先にやってきては
『こ、これ欲しいですねぇ』
 と、仕入れ交渉を持ちかけてくるドンタコスゥコの姿が見えなかったんです。

「あぁ、ドンタコスゥコ会長なら遠征に出てるんですよ。なんでもニアノ村ってとこで販売している缶詰を仕入れるとかで」
「へぇ、そうなんだ」
 ユキカの言葉に、そう言いながら頷いた僕。

 そうなんですよね。
 ドンタコスゥコは、こうして人気の商品があると聞くとフットワーク軽く仕入れに向かっているんです。
 この積極性は、ホントすごいなと思った次第です。

「……そういえば、最近ミミー商会っていうところが販売している缶詰が人気だってルアが教えてくれたけど、ひょっとしてそれと関係があるのかな?」
 そう思った僕は、早速それを入手してみようと思ったんだけど……

 ミミー商会の店舗はこのナカンコンベにはないそうで、そのため冒険者組合の一角に屋台を出して販売しているそうなんでだけど、その屋台の管理をしている女の子の話だと
「ごめんなさいね、入荷してもすぐに売り切れちゃうんですよ」
 とのことだった。

 当然、この日もすでに売り切れていたんだよね。

 そこで僕は、冒険者組合の職員で、よくコンビニおもてなしにも買い物にきてくれてるもんだからすっかり顔なじみになっている職員の兎人さんに
「今度入荷したら1つ買っておいてもらえるかな?」
 そうお願いしておいた。

◇◇

 
 ナカンコンベであれこれ用事を済ませた僕は、最後にルア工房へと顔を出した。
 ルア工房は、ガタコンベが本店で、ナカンコンベは支店なんだけど、店の規模でいうとここナカンコンベ支店の方が大きくて、社長のルアは最近はこっちに籠もりっきりになっているんだよね。

 少し前までは、こっちの支店はルアの片腕的存在のパラランサくんが取り仕切っていたんだけど、今はほら、奥さんのヤルメキスが12つ子を産んで間がないもんだから、パラランサくんはルア工房ガタコンベ本店勤務に配置換えになっているそうなんだ。

 そんなわけで、ナカンコンベ支店を仕切っているルアなんだけど
「ほらみんな準備を急いで!」
 なんか、あれこれ忙しそうに準備している真っ最中のようだった。

「ルア、どうかしたのかい?」
「あぁ、店長、最近商売繁盛というかさ、新しい顧客も見つけてね」
 ルアはそう言って笑っていた。

 なんでも、北方のニアノ村というところで治水工事の仕事を新たに受けたそうで、
「さすがにアタシがそこまで出向くわけにはいかないんでね、ここから材料の輸送とかの指示をしてるんだ」
 とのことだった。

 ドンタコスゥコだけでなく、ルアもまたあちこちにアンテナを伸ばしてあれこれ仕事を頑張っているようですね。

 ほんと、2人のこのやる気は僕もしっかりと見習わせてもらわないと、と、改めて思った次第です。

◇◇

 数日後、僕は辺境都市ガタコンベの領主代行として辺境都市ブラコンベへと出向いていきました。

 ガタコンベのある一帯は辺境都市ブラコンベを中心とした辺境都市連合が形成されているんですけど、その辺境都市連合主催で開催される秋の収穫祭を開催する時期が今年も近づいてきたもんですから、その打ち合わせをおこなった次第なんです。

 ちなにに、このブラコンベ辺境都市連合には、

 僕が領主代行を務めているガタコンベ
 辺境駐屯地の隊長ゴルアが領主代行を務めているブラコンベ
 同じく副隊長のメルアが領主代行を務めているララコンベ
 極楽鳥人のグルマポッポが領主を務めているルシクコンベ

 この4都市と、その周辺に点在している集落や街や村が所属しています。

 で、これらの都市は年に3回持ち回りで大きなお祭を開催しているのですが、その中の1つが今回開催される秋の収穫祭なんですよね。

 ただ、4辺境都市が所属しているこの辺境都市連合ですが、ルシクコンベは原則話し合いにも参加しませんし、祭りにも希望者しか参加してないんです。
 持ち回りの祭りですけどルシクコンベが開催地になることもありません。

 これは、地理的な条件のせいといいますか、ルシクコンベって、雲の上まで突き抜けている山の頂上にあるもんですから、そこまで行くのも大変ですし、そこから祭りに参加するのも大変なわけなんですよ。
 まぁ、それが理由でルシクコンベは祭りとは無縁となっているわけです。

 で、

 今回開催される秋の収穫祭は、ララコンベで主催されることになっています。

 ちなみに、このララコンベの近くには、数ヶ月前にオザリーナ温泉郷もオープンしていまして
「今回の秋祭りは、オザリーナ温泉郷も含めた開催にさせていただきたい」
 と、ララコンベの領主代行を努めているメルアが申し出ている次第です。

 この申し出は、僕もゴルアも即座に了承しました。
 僕としては、このオザリーナ温泉郷にコンビニおもてなし6号店がありますしね、むしろ願ったり叶ったりともいえるわけです。


 実務的な打ち合わせは、各都市の商店街組合で働いている蟻人さん達がお互いに話し合いを行ってくれますので、僕達領主代行の3人は、蟻人達から結果を聞くだけでいいんですよね。

 そいった意味では、僕もゴルアもメルアもみんな助かっているわけです。

 今日の話し合いも、
「今回は、ララコンベを会場にして開催します」
 という確認作業が行われた以外には、特に目新しい話し合いはなかった。

 時間にして20分ほどの会議を終えた僕は、ゴルアとメルアと一緒に、スアが作成してくれている転移ドアをくぐってガタコンベへと戻った。
「じゃあ、2人とも、本番の際にはよろしくね」
 僕の挨拶を受けて、ゴルアとメルアは
「うむ、こちらこそよろしくたのむ」
「私からもお願いしますね」
 それぞれ、そう口にすると、コンビニおもてなし本店裏にとめていた馬にのって辺境駐屯地へ帰ったいった。

 ちなみに、この秋の収穫祭には、コンビニおもてなしももちろん参加することになっています。

「さて、何をどう売ろうかな……」
 ゴルアとメルアを見送った僕は、早速そんなことを考え始めた次第です。

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