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コンビニおもてなしと、ナカンコンベ大運動会 その3

 かけっこ競技を終えたばかりの僕は、天を仰ぎながら地面に大の字になって倒れこんでいました。

 田倉良一 30代前半

 それなりに体力には自信があるつもりでした……が、
「……かけっことかは、また別ものだな」
 荒い息を吐きながら、僕はそんな事を口にしていました。

 スタートラインに並んだ僕。

「お父様頑張ってくださいな!」
「ぶっちぎるにゃし!」
「パパ上様!ファイトアル!」
 応援席から聞こえてきた、アルト・ムツキ・アルカちゃんの声援を耳にした僕は、

「よーい、ドン!」

 スターターの、商店街組合の蟻人の合図とともに猛然とダッシュしました。

 周囲の他の参加者の皆さんも、負けじと猛ダッシュしておられます。
 だからといって、僕もこの声援を受けて負けるわけにはいきません。

 本命穴馬かき分けて……ではありませんが、とにかく必死に走った僕。

 ゴールと同時にぶっ倒れた僕の手には、

「2等」

 の旗が握られていました。

 そんな僕の横には、「1等」の旗を手にもった男性が座っています。
 黒のテンガロンハットに、黒のジャケット、黒のズボンをはいているその男性は、
「よう、コンビニおもてなしの店長さん。なかなかいい走りだったけど、その腕前はこの運動会じゃ二番目だな」
 なんかそんな台詞を口にしていました。
 ここで「じゃあ一番は誰なんだよ」と聞かないといけない義務感のような物を感じてはいたのですが、息があがりまくっていた今の僕には、そんな余裕は残っていませんでした。
 その男性は、気のせいかわくわくした様子で僕の台詞を待っていた気がしないでもなかったのですが、結局僕は最後までその台詞を口にすることが出来ませんでした。

 競技が終わり、どこか悲しそうに退場門の向こうに消えていったその男性の後ろ姿に、僕は
「なんか、ごめんなさい」
 そんな事を口にしていた次第でした。

 ちなみに、このかけっこの子供の部に参加したパラナミオはぶっちぎりで優勝していた次第です。

 その後も、コンビニおもてなしの面々は、子供達が大活躍していきました。

 かけっこの別の組では狐人のピラミや、ペリクドさんの娘さん達が優勝を飾っておりまして、
「やったわピラミ!」
「ウチの娘もやりやがったぜ!」
 と、いつもは冷製沈着なファラさんとペリクドさんが揃って大はしゃぎしていたのがとても印象的でした。
 自分の事よりも、その子供……ファラさんにとっては面倒を見ている子供達ということになりますけど、そんなみんなの活躍は、やはり自分のこと以上に嬉しいようですね。

「さぁ、子供達ばかりにいい格好はさせておけませんわぁ!」
 そう言ったクマンコさんは、綱引きを圧倒的な力で制されました。
 この競技には、日頃商会で荷物運びを担当している男性の亜人種の猛者の方々で構成されたチームが多数参加なさっていたのですが、クマンコさんをリーダーとしたコンビニおもてなしチームは、それらのチームを全く寄せ付けませんでした。

 ……まぁ、5人一組で構成されていたチームのメンバーに

 クマンコさん
 魔王ビナスさん
 ファラさん

 と……この3人の名前がある時点で、僕的には
「優勝は揺るがないな」
 と思っていた次第なんですけどね。
 この3人は、その特殊能力を使用しなくても、ナチュラルパワーがとんでもないですから……

 ちなみに、後の2人は、ツメバとクローコさんでして、ルービアスがコンビニおもてなしの旗を持って
「オーエス!オーエス!」
 と声援を送っていた次第です。

◇◇

「……この、城塞叩きって、どんな競技なんだ?」
 僕は、その競技名をみながら首をひねっていました。

 その種目の説明には
『城塞の攻撃をかいくぐりながら、城塞の頭か天守を叩いた回数の多いチームが勝ち』
 としか書かれていません。

 この競技も団体戦でして、5人一組になっています。

 コンビニおもてなしチームは、

 僕
 ペリクドさん
 チュパチャップ
 リョータ
 ファラさん

 以上の5名で構成されています。

 で……各チームが集っている中、その中心に……日本式の城郭がでーんと鎮座していたのです。
 ……その城郭に、僕は見覚えがありました。

 以前、ポルテントチーネの部下としてあれこれ行っていた、リークさんという屋敷魔人が変化した姿のはずです。
「……でも、あのリークさんって、確かポルテントチーネと一緒に捕まったはずじゃあ……」
 そんなことを僕が口にしていると、会場内に
『なお、この競技の標的として参加しているリークさんとホワイトドルフィンさんのお2人は、現在ナカンコンベ商店街の職員として保護観察処分を……』
 そんな魔法拡声器による説明が行われていました。

 後で聞いたのですが、この2人はあくまでもポルテントチーネの部下として働かされていたとのことで、罪がかなり軽くなり、ナカンコンベ商店街の職員として働くことで罪滅ぼしを行うことになったんだそうです。
 これも、ポルテントチーネが
「全部アタシがやらせたんだ。あいつらは悪くないんだよ」
 そう取り調べで語ったからなんだそうです。
 なんか、ポルテントチーネも随分印象が変わったかんじですね……

 と、まぁ、それはそれ、これはこれです。

 競技の目標物として2人が参加している以上、こちらも手を抜くわけにはいきません。

「競技開始!」
 商店街組合の蟻人の合図と同時に、僕達はその日本式城郭に向かってダッシュしていきました。
 その天守閣部分の上部に、しゃちほこ風な感じで海老反りになっているホワイトドルフィンさんが、その口から砲弾に見立てた玉入れの玉をすさまじい勢いで乱射してきます。
 これに当たったら失格です。
 参加者は、それを必死に交わしながら城壁に殺到していきます。

「む、無念なんですねぇ」
 僕の近くで、玉の直撃をくらってぶっ倒れていくドンタコスゥコを横目にみながらコンビニおもてなしチームはぐんぐん進んでいきます。

 玉の乱射でどんどんチームが脱落しているのですが、僕達のチームはその先頭を進んでいるファラさんが
「こんなへなちょこ玉にあたるわけがないでしょう」
 そう言いながら、そのことごとくを手刀で叩き落としてくださっているものですから、正直遮るものがまったくない状態なわけです。

 それに気付いたホワイトドルフィンさんも、こっちへ集中砲火しはじめたのですが……すでに時遅し。
「往生せいやぁ!」
 城塞にたどりついたファラさん渾身のハリセンアタックを食らったホワイトドルフィンさんがまず吹っ飛ばされ、ついで本体のリークさんが吹き飛ばされていきました。

 本来であれば、叩いた回数で順位が決まる予定だったのですが、最初にその場にたどりついたファラさんがそれぞれ一発、合計2発で2人を吹っ飛ばしてしまったものですから
『しょ、勝者はコンビニおもてなしチーム……のみということで……』
 となってしまった次第です。

 そんなファラさんに、
「コン! すごいこんファラさん!」
 と、ピラミらフク集落の子供達が大歓声をあげていたので、まぁ、よし……ってことで。

 そんなことを考えながら、僕はリークさんとホワイトドルフィンさんが吹き飛んでいった方角へ向かって手を合わせていた次第です。

 あ、1時間後には、2人とも無事回収されましたからね。

◇◇

 そんな感じで、競技はどんどん進んでいました。

 わがコンビニおもてなしチームは順調に得点を重ねていまして、午前の得点競技が終了した時点で、3位という高順位をキープしていました。

 ファラさんと魔王ビナスさんが参加した競技はことごとく圧勝していたのですが……いかんせん、僕やペリクドさん、ツメバといった大人男性陣の成績がいまいちといいますか……
「ちょっと3人とも!もっと気合いをいれてくださいよ!このルービアスの声援が無駄になっているではありませんか!」
 自作してきたコンビニおもてなしの旗を手にしているルービアスが、ルービアス又5人娘達と一緒になって僕達に憤懣やるかたないといった表情を向けているのですが、

 ……そういうルービアスも、参加した全種目で最下位だったじゃないか

 と、思ったものの、その分一生懸命応援してくれていたので、口には出しませんでした。

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