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第12話 放置されしもの。

 全身が白で埋め尽くされたその青年は岩の影からチラチラこちらのぞき見ている。もう怒られそうにないと思ったのか、おずおずと岩の前に進み出たかと思えば、まるで三文芝居の大根役者の様な大仰な態度で俺達に向かって語りだした。

「やあやあ我こそは伝説の(つるぎ)にして、最強の盾(・・・・)【聖剣ナーゲイル】である! 300年前、我は伝説の魔獣討伐のため召喚され、勇者と共にこの地に参った。新たなる勇者の到来を待つこと幾年月……我はこの時を待っておった。新しき勇者よ、我と契約し秩序と安寧をこの世界にもたらすのだ!!」

「『………』」

「……もたらすのだぁ━!!」

「俺、母ちゃんに『知らない武器と話したらいけんよ』って言われてるからわりぃな!」

『マスター、エルム様もそんな様な事をたぶん言ってました』

「あ━━っ、待って、待って待って! それ嘘だよね、お母さんも女神様も絶対そんな事言ってないよね」

 白い青年はあたふたと慌てふためき、急いで俺たちを呼び止めようと必死になる。立ち去ろうとする俺達に土下座までする有り様だ。

「ま、待って下さ━━い、この地に放置されて300年ようやく……ようやく言葉が通じる勇者さまが現れたのです。置いて行かないで━━━━っ!!」

 白い青年は涙と鼻水まみれになりながら必死で足に絡み付いてくる。かなりうざい。

「昨日、ゴブリン共に取り囲まれて怖くてビクビクしてた(わたくし)に、勇者さまは手を差し伸べて『俺に付いてこい!』って言ってくれたじゃないですか━━ぁ」

「………」

 う~ん、全く記憶にないんだが。

『あっ、この岩ってシスターモモがすねて泣いてたあの岩じゃないですか?』

 ティーの言葉にあの時の風景が甦る。おお、そういえばそうかも知れない。あの時は周りをゴブリン共に囲まれて余裕がなかったし、今は一面焼け野原で見通しのよい広場になってしまったのであまりに印象が違い過ぎてすぐに気が付かなかったのだ。暫く考えるとあの時の台詞を思い出した。

「あっ、もしかしたら第8話の64行目で言ったあの台詞か?」

『マスター、細かいです』

「そ、そうです、それです! 思い出して頂けましたか。あの時も岩の影からお声を掛けたのですが、ガン無視された挙げ句、爆風と炎で焼き尽くされて……いゃあ、死ぬかと思いましたよ」

「うん、死ななかったんだ。それは良かった。あれお前に言った台詞じゃないし、君の勘違いだからもういいよね。それじゃあ!」

「あわゎわゎゎゎ……まっ、待って下さい勇者さま! 聖剣ですよ、伝説の武器なんですよ、人として……いや勇者としてスルーってそれは無いんじゃないですか!?」

 正直な所ものすごく気にはなるのだ。だが、この白い男の語った内容と、とてもマトモとは思えない雰囲気に、俺の中の何かが関わるべきでないと警鐘(けいしょう)を鳴らしているのだ。大体、聖剣なのに最強の盾(・・・・)って何だ? それに300年放置って、確実に前の勇者に棄てられてるだろ。それもこんな誰も来ない森の奥に。明らかにヤバイ匂いしかしない。

 俺はナーゲイルを上から下まで値踏みするように見回した。もちろんいちゃもんを付ける気満々だ。

「だいたいお前のどこが剣だよ。上から下まで全身真っ白のバカっぽいエルフにしか見えないぞ!」

「バカっぽい……あははは。勇者様は辛辣(しんらつ)ですね」

 ナーゲイルは涙目でうなだれながらも自分が聖剣のイメージビジュアルの実体化である事を告げ、本体はこの岩の中にあるのだと指差した。

 岩は良く見ると、高さは1メートル位で登頂部に三本の角の様な突起があった。ティーによると岩からはじんわりとだが光の波動が放出されており、そのお陰かこの場所は深い森の奥であるにも関わらず、木々に飲み込まれる事なく、この岩を中心に光のあたる広場となっていたようだ。

「お願いです、私と契約して私を貴方の所有物(もの)にして下さい!」

 ナーゲイルはひざまづいたまま両手を組み、目を閉じて唇を突き出してきた。

「キモいわ!」

 強烈な悪寒に襲われた俺は、反射的に彼を蹴り飛ばすと5メートルほどぶっ飛んで頭から豪快に着地する。

 俺はキョロキョロと周りを伺うとホッと胸を撫で下ろした。この手の何か勘違いされそうな台詞が出た時は決まってシスターモモが顔を真っ赤にして固まっているからだ。

『良かった、今回はいなかった』

 安堵のため息を洩らした俺の足元には、盛大に尻尾を振る子犬の様な表情(・・・・・・)をしたナーゲイルがすでにお座りしていた。

 もう一度蹴り飛ばしてみるが、一瞬にして足元に戻りお座りをしている。俺はバリバリと頭を無造作にかくと『参りました』……と言う表情で大きくため息をついた。

「あーもう分かったよ。実際、武器も防具も必要だし、伝説級ならなおさらだ。気にいらない事も多々多々(・・・・)あるがそれも入手条件を満たす為と諦めよう」

「やった━━! ありがとうございます、ご主人様! それでは早速契約を!!」

 ナーゲイルはひざまづいたまま両手を組み目を閉じて唇を突き出してきたので、顔面にパンチを叩き込むと二度、三度バウンドしながらゴロゴロと転がり3メートル程後方に頭から着地した。それからすぐに俺の足元に戻ると満面の笑みでこう言った。

「ご主人様、私こういうプレイも嫌いじゃないです!」

「プレイじゃねぇ!」

 なんとなく前の勇者が何でこんな森の奥に埋めて行ったのか分かる気がしてきた。

 俺は両手を握り拳にしてナーゲイルのこめかみをグリグリと締め付けながらそれが本当に契約方法なのかと問いただすとあっさり別の方法があるとゲロした。300年ぶりの主従契約なのでちょっとしたスキンシップをしたかったのだとぬかしやがった。とんでもない変態聖剣だ。

 本気で主従契約辞めようかとも思ったが、これも乗り掛かった船だと諦めた。しぶしぶ今度は素直に契約する事になったナーゲイルのひたいに小さな角が現れる。その角に親指を押し当てると指先から僅かばかりの血が(したた)った。角がその血を吸収すると俺の胸がドクンと波打つ。何だろう、身体の奥から力が湧いてくる気がした。

「はい、契約終了です。これで貴方も今日から聖剣マスター。何なりとご命令下さい」

「お前はランプの魔神か! とりあえずあの岩の中から出すにはどうすりゃいいんだ? 聖剣イベントらしく、柄でももって引き抜くとかなのか?」

「いえ、ただ埋まっているだけなので名を呼んで『来い!』と命令して頂くだけです」

 何だよ、見た目もイベント的にもがっかり感満載だな。とりあえず『ナーゲイル来い!』と叫んでみると、突然岩が爆発し中から蒼い光が空中へと飛び出した。
 空高くへと上がった光は、俺の方に向かって急降下Uターンすると思わず突き出してしまった右手の中にスッと収まった。長さ50センチ程の棒状の光の塊を握ると、一瞬にして光は剣の形状へと変化した。

「なんだこれ……すげぇ」

 俺の握った柄から大輪の花が大きく開いた様な形状の(つば)、この部分だけでも幅が70センチ以上ある。中央の柄の他に左右に短めの柄が二本伸びており、コレがあの岩の三本角になっていたのだ。
 刀身は蒼く光り、切っ先まで120センチはくらいありそうだ。中央のブレイドと片刃の(つるぎ)を三本合わせたような幅広の刀身は、とても俺のようなひ弱な【村人A】が持つことなど出来そうにもない重量がある様に見える。だが、しかし……俺がこの剣を持った時の感想は『まさか、ハリボテか?』だ。

 盾をも思わせる巨大さで、柄頭(つかがしら)から切っ先まで合わせると俺の身長とそう変わらないサイズである。それ程の大きさにも拘わらず重量をまるで感じない。片手でも簡単に振り回せるのだが、しっくりとくる程度の握りの重さは感じる。振るった手の動きに合わせてスッと動き、大地に落とした切先は力も入れずに深々と地を切り裂いてめり込んだ。まるで、ニュートンのリンゴも真っ二つの軽さだ!……と言った感じだろうか。

「ナーゲイル、お前からはど変態臭しかしないが、この剣は凄いな。前の勇者が何でお前を捨てたのか分からなくなったよ」

「一度(おとし)めてからのお褒めの御言葉、いゃあ、さすが私が認めたご主人さまでございます」

「何だろう、ひとつも嬉しくない」

 渋った顔をした俺の言葉をスルーしてナーゲイルは続けた。間違いを訂正するのだと。

(わたくし)、捨てられてなどいませんよ。魔獣を倒しに来たご主人様が返り討ちにあって死んじゃっただけですから。はははは……」

「………伝説の魔獣って、倒してないの?」

「はい、300年前から誰にも倒される事なく、人に関わらぬようにひっそりと暮らして来たようです、昨日までは」

「昨日までは……?」

 ナーゲイルはにこやかに俺の後ろを指差した。遥か遠く、焼け残った森の端からこちらを見据える赤く光る目、憎悪の(ほむら)をたたえた目を。そしてその背筋をも氷付かせるような威圧感を含む光は、確実に俺へと向けられていた。



ーつづくー

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