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第11話 燃え残りし物。

 ドアの外にビート様がいる。西の森の様子見に行くようだ。帰ってきたら話しがあるって………。自分の想いが拒否されたらと思うと怖い。

 パートナー登録………。女神エルム様がお作りになった恋する者達をサポートする為のシステム。相手に想いが伝わるとステータス上に名前が登録される。

 恥ずかしいけど、ビート様には私の想いは伝わっているようだ。でも……私のステータスにはビート様のお名前はない。

 やっぱり私じゃダメ……なのかな。

 昨日の夜、ステータスを開いてみた。

[ステータス]
 名前:フィルス・モモ・アルスラ
 名称:[シスターモモ]
 職業:シスター【Lv35】
 HP:85
 体力:77
 腕力:98
 敏捷:45
 運 :15
 魔力:00

[攻撃装備【1】]
 武器 :ひのきの杖  【1】
 装備 :簡易召喚陣

[防御装備【5】]
 防具 :ロザリオ   【0】
  頭 :ウインプル  【1】
  体 :トゥニカ   【2】
  手 :布の手袋   【1】
  足 :皮のブーツ  【1】
[経験値]
 563/0600

[スキル]
 召喚術【Lv15】
 ◎召喚獣
 マイマイン/ウルウルフ/アッタ貝/
 テントー虫/スイマー

[パートナー候補]
 ヒビト・タダノ

 パートナー登録に名前が入っている。聞いた事ない名前だけど誰だろう。村にこんな名前の人はいない。名前が登録されたという事は想いを受け取っているという事なんだけど全く思い当たらない。この人には悪いけど私の気持ちは変わらない。ビート様一筋だ。

 とはいえ、彼の前に出ると緊張して何も言えなくなる。今もビート様に拒否される様な事を言われたらと思うと怖くてたまらないのだ。

 二階の窓から西の森を目指して歩いていく彼を隠れるようにして見送る。そして、そっと唇に触れると昨日の晩にエルザおばさんが語ってくれた話しを思い出す。

「モモちゃんの唇を吸ったり、胸を揉みしだいたり、勇者さまのしてる事はホントに見るに絶えなかったのよ。だからマルドが『未婚の女の子に何やってんだ!』って怒鳴りつけたの。死者を冒涜(ぼうとく)するにも程があるってね。そしたら勇者さまがそれは必死な形相で『彼女が死にかけてるんだ、黙って見てろ!!』だって。マルドも私もその迫力に気圧(けお)されちゃってね。それでもさすがに見ていられなくなったマルドが止めようとした時にモモちゃんが息を吹き返したのよ。私もマルドもびっくりしちゃって、二人して勇者さまの方を見たの。そしたら『よかったー』ってしりもちついて泣いてるのよ。伝説やお話に出てくるカッコいい勇者様とは大違い。でもね、少なくともあの人はモモちゃんの勇者さまだと思う。きっとああいう人が本当に私たちを救ってくれるんじゃないかな」

「エルザおばさん……」

「あとはモモちゃんの気持ちと行動しだいかな。勇者さまは奥手そうだしね。ふふふ……」

 私の気持ちを察して優しい笑顔で笑うおばさんの顔を思い出して、背中を押された気がした。

 そうだよね、結果を恐がってびくびくしてても何も始まらない。勇者さまの気持ちを動かしたいならまず私が動かなくっちゃ!
 きちんと気持ちを伝えて、私が勇者さまのお役に立てる事を見せなくちゃダメだ。

 シスターモモは急いで修道服に着替える準備を始めた。トゥニカの袖に腕を通し、ウインプルを被って鏡を見る。ブーケの帯を頭の後ろで縛ると『よし!』と気合いを入れた。

 髪の毛をパッと後ろに払うようにしてふわっとさせると、装備品を肩掛けカバンに詰め込み紐を左の肩から斜めにかけて準備完了だ。教会を飛び出し、ヒビトを追って駆け出したフィルスの目にはもう迷いの色は残っていなかった。



 一方、教会を出た日比斗は焼け野原となった西の森へと歩みを速めていた。教会を出てすぐに大勢の村人たちに囲まれて、声を掛けられたのだが………。

「「「勇者さま、ゴブリン共を退治してくれてありがとう!」」」

「「爆炎の勇者ビート、ばんざーい!」」

「「村にもちょっとばかし被害が出たけどありがとう!!」」

「「勇者さま、ありがとう! 流石、手が
 早いのはゴブリン退治ダケジャナーイ!」」

「「ありがとう、ありがとうビート様! 炎と熱風の勇者ビート!! うちの子供たち驚いて倒れちまったけど、本当にありがとう!」」

 うーん、みんな笑顔だが、目が笑っていない。これでも一生懸命頑張ったのにめちゃくちゃ責められてる感じだ。いたたまれなくなって急いで村を飛び出したのだ。

 それにしても村の人達はいつになったら俺の名前をちゃんと呼んでくれるのだろうか。いくら否定してもビート、ビートって。いちいち訂正するのが面倒になってきて、もうビートでもいいかなって気持ちに若干なりつつある。

 この村の人達だけかも知れないが、基本的に人の話しを聞かないよな。フィルスさんにしても結構聞き間違えたまま暴走して突っ走るしね。子犬みたいにちょこちょこくっついて来てとても可愛いとは思うけど、そういう所でドン引きするんだよね。

 でも、下からこちらをジッと真っ直ぐな目で見つめてくる時とかあまりに可愛くて、危なくハグってしまいそうになる。恋愛経験値の低い俺には本気でヤバいのだ。シスター相手に俺は何やってんだ!……と自分を律してはいるが、いつ限界が来るか分からない。

 だからこそ、とっととダグの村でのクエストを終わらせて次の村へと行かなきゃならない。いつどうなるかも分からない勇者の借金まみれのクエスト旅に、あの娘を付き合わせる訳にはいかないんだ。

 ゴブリン共の全滅を確認したら残りは畑を荒らす害獣だけだ。そちらはゴブリンみたいな魔物とは違う。罠や案山子(かかし)の様な物を使って村人自身で対応してもらう事になるだろう。

 あの爆発で生き残っている魔物はいないと思うが、とっととゴブリン共がもういない事を確認して帰ろう。焼けた木の(くすぶ)った匂いがとてもキツイ。焼け野原となった西の森の中へと歩みを進めて行った。

 暫く歩くとそこかしこにに魔石が落ちている。焼け死んだゴブリン達の物だろう。かなりの数が転がっている。

「これ役に立つのかなぁ。さすがに全部拾うのは無理だろ」

『そんな時は四次元ポシェットを使いましょう、マスター!』

「いたのかよ、ティー」

『ボクはマスターのサポート精霊ですからね。置いて行くと言われて【はい、そうですか】とはいきませんよ! ただ、邪魔はしないようにと思って背中にへばり付いて黙ってジッとました』

「忍びかよ! でも気は使ってくれたんだ、ありがとうな」

 ティーの頭を軽く指で撫でてやると目を細めて気持ち良さそうにふよふよしている。そんなティーからポシェットの使い方を聞いて試してみる。

 右手をポシェットに添えて『アイテム回収!』っと唱えた。焼け野原となった大地からとんでもない数の赤い光が浮き上がり、一瞬空高くに舞い上がると光の尾ひれを引いて一気にポシェットめがけて飛び込んできた。

「あわ、あわゎわゎゎ………!!」

 空を埋め尽くす赤く光る魔石が凄い勢いでポシェットに吸い込まれている。 落ち着いて見る事が出来たのなら、それはとんでもなく圧巻な風景だったのだが、ビビリーな俺にはこれっぽっちの余裕もなく、大きな口を開けたアホ面で震えながら立ち尽くすのみだった。

 最後の光がポシェットに飲み込まれると(ふた)が閉じてアイテム一覧が表示された。

[ステータス]
 名前:タダノ ヒビト
名称:[爆炎の勇者 ビート]
 職業:村人【Lv1】
[経験値]
 026/0100

[精霊・獣魔]
【アシスト精霊ティー】

[スキル]
 召喚術【Lv52】
 ◎召喚獣
 キングマイマイン

[アイテム一覧]
 所持金【金貨(ゴールド)160枚】
    【銀貨(ナイト) 54枚】
    【銅貨(ポーン) 62枚】
    【魔石E:1554】
    【魔石F:  62】
    【マジャ芋: 84】
    【マドマド: 25】
    【マスナス: 38】
    【シシニク: 18】

 なんだろう、魔石だけかと思ったらいろいろ入ってる。ティーが言うには魔石を回収した事で討伐報酬の現金が入った事と爆炎で焼け残った天然の野菜や動物などが食材アイテムとして回収されたのだろうとの事だ。

「それにしても魔石の数からして1500体以上のゴブリンと60体位の低位の魔物がいたのか。普通に戦ってたら確実に死んでるな」

『そですね。マスターの実力でしたら完全にフルボッコでしたね』

「『あはははは…………』」

 渇いた笑いが二人の間に木霊(こだま)していた。そして笑いが途切れた瞬間、(せき)を切ったように怒鳴り合いが始まった。

「お前、最初のミッションで、即死級の難易度ってゲームバランス悪過ぎだろ! 経験値もあんまり入ってないし!!」

『マスター、ここはゲーム風であってもゲームではありません。いきなり魔王の目の前に召喚なんて事だってあり得るんです。それを考えれば数は多かったとは言え、最弱クラスのゴブリンが相手でしかも召喚術が使えたシスターモモがいた! これを幸運(ラッキー)と呼ばずして何が幸運ですか!! 経験値だってほとんどがマイマインの爆発で倒してる訳だし当然じゃないですか!!!』

「うぬぬぬぬぬ………」

『…………せん。あのー………ません』

『他にもマスターはシスターモモにちゅーしてその気にさせといて放置プレイとか。信じられない、あり得ない、あり得ない!』

『すみませ━━━━ん!』

「はあっ? それ言う? あれは救助行為だってお前は分かっててそれ言う!?」

『あのすみませ━━ん、お話し聞いて下さ━━い!』

「うっせぇ!」
『うるさい!』
『あひゃあ、怒らないで━━━━っ!』

 俺とティーが声を揃えて怒鳴った先にはいつの間に現れたのか、背中まで伸びた真っ白な長髪に長い耳、真っ白な肌で白いローブの上に更に白のケープのような外套を羽織った上から下まで全身真っ白けの、気の弱そーな青年が大きな岩の影からオドオドしながらこちらをのぞき込んでいた。

「なぁ、ティー、この世界には妖怪真っ白シロ助なんてものがいるのか?」

『知りませんよ、ボクに聞かないでよマスター』



 ーつづくー

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