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第75話 Why don't you say anything?

 物心ついて最初の記憶は、父と母の自分への好意に対して花占いするように分割されていくバッタと、両手の平に七分割されたバッタを乗せた私に苦笑いする両親の顔……いや、あの顔が苦笑いと私が気付いたのは両親があの人に殺されてからだから――。
 占いの結果は確か好きのはずでしたが、今の私の記憶では私が風邪で寝込んだときと、入院したときぐらいしか両親に気にかけられた記憶がありません。

 私を叱ってくれたあの人に出会えて、あの人について父が複雑そうな表情で話したり、あの人もいる両親の卒業アルバムを眺めたりしていた頃のある日、当時私の近所に住んでたアーサーの家の犬――プリストラといるときは比較的大人しいのに、私一人のときや母と二人でいるときに通りかかると、よく吠えたり唸ったりする――の首を氷ではねたことを母に報告し、ついでに証拠として凍らせた犬の首も見せました。
 その時を境になぜか母は、私と目を合わせなくなり……私が母の視界に入ろうとしたら時々「ひっ」などといった短い声が上がるようになりました。

Why don't you (どうして) say anything(なにもいわないの)?

Why don't you(なにか) say anything(言ってよ)?

 短い声じゃなく、一音じゃなく、目をそらさず、私から逃げず!!
 そんな思いで眠れない夜は、両親の寝室へ行き、母と背中合わせで眠り、母は無論父よりも先に目覚めて、プリストラと同じ部屋のベッドで起こされるのを待ち、五歳の誕生日を祝われた夜も、眠れなかったので両親の寝室へ行ったら――。


 ……両親が死んだことと、警察にあの人ことロリアス・パソビエが両親を殺したのを報告したこと、それと、施設でウリッツァとヴィーシニャさんに出会ってウリッツァが魅力的に見えたことは、なんとか覚えているものの、そこからは、覚えていたりいなかったり、情報としてしか把握していなかったり……。
 ウリッツァの寝込みや、昔格闘術の授業でアーサーを物理的に襲ったのは情報としての把握にとどまる一方、トロイノイに告白したことやトロイノイと……愛し合ったことはちゃんと覚えているんです。この差は一体……?
 あ、でも、この前ウリッツァに乱暴したのは私だし……ああもう、『乱暴なのは嫌』と言われた矢先に乱暴して……今度こそ本気で嫌われたらと思うと……ああ本当私のばかばかばか――。

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