コンビニナカンコンベ その5
ユキカが陣中見舞いと称してコンビニおもてなし5号店西店へとやってきてから数日が経ちました。
相変わらずコンビニナカンコンベは閉店したままのようでして、その噂話を聞くこともありませんでした。
(……ホントに、大丈夫なのかな)
さすがに心配になってきた僕だったわけなのですが……
「りょ、リョウイチお兄様!大変ですわ!」
コンビニおもてなし本店で接客をしていた僕のところに、シャルンエッセンスが駆け込んで来ました。
営業時間にもかかわらず、慌てふためきながら転移ドアをくぐってやってきた次第です。
「ど、どうしたんだい、シャルンエッセンス!?」
僕がそう聞くと、シャルンエッセンスは
「と、とにかくおいでくださいまし!」
そう言いながら、僕の腕を引っ張っていきました。
で
そんなシャルンエッセンスに引っ張られて、ナカンコンベにありますコンビニおもてなし5号店西店へとやってきた僕なのですが……
「あ、タクラ店長!おはようございます」
僕に向かって、そう言って元気に挨拶してきたのは、誰あろうユキカでした。
その後方には、魔法使いのマリリンと、女騎士の女性が立っています。
いわゆる、コンビニナカンコンベのフルメンバーが、コンビニおもてなし5号店西店の中に立っていたのです。
「タクラ店長、折り入って相談があって今日はお邪魔させて頂いたのですが……」
そう言ったユキカと、他の2人を僕は応接室へと通しました。
「で、なんだい、相談って?」
僕がそう切り出すと、ユキカは
「はい、実はですね、私達3人をコンビニおもてなしで雇っては頂けないかと思った次第でして」
そう言いました。
「雇う? 君達をかい?」
「そうなんです……だが、当然それには思惑がある次第ですが」
ユキカは頭を下げながらそう言いました。
ユキカの話はこうでした。
「恥ずかしながら……私には、日本でのコンビニセブンセンテンスの営業ノウハウはあるものの、この世界でコンビニを経営するためのノウハウが全くありません。
そこで、この世界でのコンビニ経営の先輩であられますタクラ店長のコンビニおもてなしで働かせて頂きながら、そのノウハウを勉強させていただきたいと思っている次第です」
同席していたシャルンエッセンスは、その話を聞くなり目を丸くしました。
「ちょ、ちょっとあなた、いくらなんでもそれは虫が良すぎませんこと? それってつまり同御者の仕事のやり方を盗ませてくれって言ってるようなものでしょう? 盗人猛々しいにも程がありますわ」
「シャルンエッセンス殿の言われること、もっともだ。虫の良すぎる話をしているのは百も承知なんだが……」
そう言うと、ユキカはその場で深々と頭を下げました。
「そこを曲げて、どうかお願い出来ないだろうか」
そして、そんなユキカに続いて、マリリンと女騎士~名前をカリントと言ったのですが、そのカリントも一緒に頭を下げてきた次第です。
で
そんな3人を前にして、僕はいいました。
「えぇ、いいですよ」
「ちょ!? りょ、リョウイチお兄様!?」
僕の言葉を聞いたシャルンエッセンスが目を丸くしていました。
そんなシャルンエッセンスの前で、僕は言いました。
「ただし、3人をバイトとして雇わせていただくということでよろしいですか? そのバイトを通じてコンビニおもてなしがどのように営業しているか、そのノウハウを勝手に学んで頂くのでしたら、このお話をお受けしてもかまいません」
我ながら甘いと思います。
そこまでしてあげる義理は、実際ありません。
この話を受けなければ、ユキカはコンビニを続けることは100%不可能でしょう。
かといって、バイトとして雇ったからといって、コンビニを今後も経営していけるかどうかも未知数なわけです。
それはユキカもわかっているはずです。
彼女はそれを百も承知で、こうして頭を下げているわけです。
同じ日本からこの世界に飛ばされてきた身としては……これぐらいのことはしてあげたいな、と、思った次第です。
◇◇
この事は、週に1度おこなっている店長会議でも議題にしました。
最初、この案に賛同してくれたのは3号店の店長エレ一人だけでした。
もともと3号店の入っている屋敷のメイドだったエレですので、
「それがご主人様のご意向なのでしたら」
そう言って了承してくれた次第です。
他のみんなは、シャルンエッセンス同様に難色を示した次第です。
ですが、そんなみんなに僕は、
「バイトとして働きながら、この世界でのコンビニのノウハウを学ばせてほしいと、真摯に頭を下げているわけだし……」
そう言って、粘り強くみんなを説得した次第です。
その甲斐あって、
「店長がそこまで言われるのでしたら……」
と、みんなもどうにか納得してくれました。
言い出しっぺでもありますので、3人は僕が店長を務めていますコンビニおもてなし本店で雇用させてもらうことにしました。
期間は一ヶ月。
その間、バイトとしてしっかり働いてもらい、この世界でのコンビニ経営のノウハウを学んでもらおうと思った次第です。
そのことを伝え聞いたユキカ達は
「「「ありがとうございます!」」」
そう言って、揃って頭を下げた次第です。
そんなわけで、コンビニおもてなし本店に、新しいバイトが3人加わることになりました。
ユキカは、僕と同じようにこの世界になんらかの力が作用して転移してきた女性です。
マリリンは、ユキカの店が転移してきた先で、魔法道具の店を営んでいた魔法使いです。
カリントは、マリリンの親友でユキカがやってくるまでは冒険者をしていたそうです。
マリリンとカリントは、転移してきたユキカに説得されて、コンビニナカンコンベの店員として働くことに同意していたのですが……結局うまくいかなかったわけです。
ですが
「ユキカと一緒に頑張ろうと決めたので……」
「最後まで頑張りたいのです」
2人はそう言って頭を下げた次第なんですよね。
3人には、本店の2階にありますおもてなし寮の1室に住み込んでもらうことにしていたのですが、
「こ、こんなに早くから作業を開始するんですね……」
ユキカはそう言いながら、寝ぼけ眼を必死にこすっています。
コンビニおもてなしの朝は、まず全店で販売する弁当類の作成作業から始まりますからね。
僕と魔王ビナスさんを始め、ヤルメキス・ケロリンの合計4人は夜明け前後から仕事を開始しています。
元の世界では24時間営業が当たり前だったコンビニですが、この世界では基本的に朝7時頃から夕方7時頃までの営業が常となっています。
それは、ユキカも情報として知っていたようなのですが、作業そのものがこんなに早くから行われていたとは思っていなかったようです。
寝ぼけ眼の3人に、盛り付け作業などを手伝ってもらう僕ですが、
「この弁当の容器は、向かいにあるルア工房にお願いして作成してもらっているんです。それを毎日納品してもらっていて……」
そんな感じで、説明を交えながら作業の指示をしていきます。
それを聞きながら、ユキカは
「ほうほう、なるほどなるほど」
そう言いながら、何度も頷きつつ、同時に僕から指示された仕事をこなしていました。
まだまだ始まったばかりですが、ユキカと他の2人の研修はこんな感じで始まっていった次第です。