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激辛カレー早食い競争

 今日はまたしてもヘンテコな大会が開催される日だ。毎回、毎回たいした賞品があるわけでもないのにわざわざこの手の大会に参加して一生懸命頑張ってしまうのはなぜなのだろうと疑問を抱きつつ、エントリーシートに名前を書いた。今日も大勢の猛者共が参加するみたいだ。今日行われる種目は全部で3つ。
 まず一つ目は激辛のカレーを誰が一番早く食べられるかを競う早食い競争だ。水が飲み放題なのだが、毎回腹を壊してしまう人が多数出るほどの辛さだ。俺は胃は丈夫な方なのでたぶん大丈夫だろうとたかをくくっている。
 二つ目は重量物の運搬競争だ。ただ重い物を運ぶだけなのだが、重量物の重さは30キロもあるので、足に落としたりすると結構痛いだろう。
 三つ目は平衡感覚を魔法で少し失わせて走るパニック競争だ。みなまっすぐ走る事ができず、ゴールにたどり着ける者は半分ぐらいしかいない。
 以上の3種目だ!今日も張り切って頑張ろう!

「あーあ、カレー食べておなか壊さないか心配だなぁ」

 ナレアは不安そうな顔をしながら言った。

「腹壊してもよく効く胃腸薬あるからすぐに治せるじゃん」
「そういう問題じゃないでしょ。私は少しでも苦しみたくないのよ」
「だったら参加しなければいいんじゃない?」
「私も迷ったけどなんだか楽しそうだからつい参加しちゃったのよ」
「変な奴だなー。やるならやるで覚悟決めなきゃ」
「そうね。私頑張る!」
「その意気だ!やってやろうぜ!」

 やる気が高まったところで、激辛カレーの早食い競争が始まった。俺は、恐る恐るカレーをすくい、口に入れた。
 
 からーーーーい!!!
 
 なんて辛さのカレーだ…まさかここまでとは想像していなかった。今まで食べたどんなものよりも辛い。こんなに辛いものをお皿いっぱい食べる事なんてできるのか?俺?でも味自体は悪くないから辛くなければ普通においしく頂けていたはずだ。なんだか勿体ない気がする。
 そんな事を考えながら俺は辛さをなんとか堪え、カレーをすくい、口の中へと入れていく。
 食べ始めて3分ぐらい経過した頃、唇が痛くなってきた。触ってみるとはれあがっている。
 唇に異常がでるようなもの食べさせるなよ!これ絶対体に毒だろ!
 と、つっこんでみたがこれぐらいのリスクは覚悟していた。体がぶっ壊れてもこの大会で一番をとりたいのだ。
 俺は水を流し込みながらガツガツ食べた。しばらくすると不思議な事に唇の痛みがなくなってきた。どうやら感覚が麻痺してしまったようだ。今の俺の唇どうなってるんだろう…俺は周りの人達の唇を見てみた。

 ぷっ!

 俺は思わずふきだしてしまった。みんな唇がブクブクにふくれあがってなんとも滑稽な顔になってしまっているのだ。これは面白い。でも俺の顔だって同じようなもんなんだろうな…
 おっと、唇の事なんて気にしてる場合じゃない。早く食べつくさなければ!
 食べるのを諦める人達がいるなか、俺はラストスパートをかけた。

 うおおぉぉぉお!

 心の中で叫びながら次から次へと口の中へカレーを運んでいく。
 これが最後の一口だーーー!!
 唇をパンパンに膨らませながら俺はなんとかカレーを食べ終える事ができた。結局この種目の順位は5位だった。俺よりはやい奴がいるなんて驚きだ。上には上がいるもんだ。
 俺が水をガブガブ飲んでいるとナレアがやってきた。ナレアの唇はなんともない。

「唇すごい事になってるよ…よくそんなになるまで頑張れたね、ロテス」
「ナレアはなんでなんともないんだ?」
「私は途中で唇が痛くなってきたから食べるのやめちゃったのよ」
「ある意味賢い判断だな。俺も途中で諦めれば良かったかも…」
「そうでしょー。まぁ何事も最後までやり遂げる精神は大事だと思うけど」

 少し後悔しながら待機しているとすぐに次の種目が始まった。
 俺は四角い30キロの塊を抱えて走り始めた。たいした重さではないが手で抱えながら移動するのは結構厳しい。全然スピードは出ていないが自分では走ってるつもりである。
 ベンチプレスではこの何倍も重たい重りで鍛えてるけど、持続して持ち続けるトレーニングはやってなかったから結構キツイ…
 重りを地面に置いてしまうと失格になってしまうのだが、早くも地面に置いてレースを諦めてしまう人達が続出している。
俺は最初はトップ集団にいたのだが、だんだん差をつけられてしまって今は4位だ。
 ちくしょー…あいつらもしかして魔法使ってるんじゃないのか?俺がおくれを取るなんてありえん…
 納得のできない気持ちを抱えて走り続けた。そろそろ半分近く走っただろうか?
 腕がいてぇ…まさか30キロ程度でこんなに痛くなるなんて思わなかった…持ち続けるとこうなるんだな…
 俺は腕の痛さを堪えてスピードを落としながらもなんとか進んでいた。既に歩くスピードとたいして変わらないが、あと70メートルでゴールだ。途中だいぶ差をつけられたが、なんとか巻き返して、俺はついに1番の奴を追いこした。
 
 よっしゃー!俺が一番だ!

 俺は後ろを振り返り、2番との差を確認した。すると…

 ぷぷぷ…

 俺は2番の奴の顔があまりにおかしくてつい笑ってしまい、手を離してしまった。

 いってぇーーー!!!

 重りが足に直撃した。俺は足を押さえながらのたうち回った。他人の顔を笑った罰が下ったのだろうか?これで俺は失格だ…せっかく一番だったのに…
 俺はトボトボと待機場所に戻った。すると、既にナレアはリタイアしていたようで先に待機していた。

「ロテスなんで笑ってたの?」
「さぁなんでかな…風にでも聞いてくれ」
「はい?何言ってるの?頭でもうった?」
「うるせぇーな。ショック受けてるんだからそってしておいてくれ」
「そうだったの。でもあんまり自分を責めない方がいいよ。どうしようもない事って世の中にはあるから」

 俺はちょっと落ち込んでいたが、暗い気持ちになるのは嫌いなので、すぐに元の元気を取り戻した。
 しばらく休憩をはさんで次の種目がスタートした。
 俺は魔法をかけられフラフラしながら走り始めた。ベロベロに酔っぱらっている時のような感じだ。自分ではまっすぐ走っているつもりでも全然真っすぐに走れていない。この状態でゴールまで辿り着くのは至難の業だ。しかしどんな逆境であれそれをはねのけて俺は進まなければならない。今までどんな壁も乗り越えてきた。今回もきっとなんとかなるはずだ。俺は不屈の精神で走り続けた。
 それにしてもなかなか慣れない。いつまでたってもまっすぐ進む事ができない。平衡感覚を少しでも失うとこんなにも厄介だとは思わなかった。なんだか思考までふらついているかのようだ。
 周りを見渡してみるとやはりみんな苦戦しているようで、なかなかうまく進めていない。それにしても唇をパンパンに膨らませて、フラフラ走っている姿はとても面白い。見てるだけで楽しくなってくる。今回の大会は参加するより観戦してた方が良かったのかもしれない。
 なんて事を考えながら走っていると、気が付けばあと40メートルでゴールという所まで来ていた。順位は現在6位だがこの競技に限ってはゴールする事に意味があると思っているので、順位などどうでもいい。
 あともう少しだ…もう少し…もう少し…

 ドンッ!!

 あと少しの所で人とぶつかってしまった。俺が謝ろうか迷っていると相手はものすごい形相で俺を睨みつけ、すぐに立ち去ってしまった。俺は少し立ち止まってしまったが、すぐに走り始めた。結局6位のままゴールする事ができた。とりあえず最後まで走りきる事ができて満足だ。

「ロテスすごいじゃん!ゴールまで辿り着けるなんて!」
「ナレアは途中でリタイアしちゃったんだな。最後まで諦めるなよー」
「だってー、なんだか馬鹿馬鹿しくなってきちゃったんだもーん」
「まぁ確かにそんな気持ちになるのも理解できる」
「そうでしょー、一生懸命やる意味ないよ」
「そんな事ないだろー。豪華な賞品がもらえるんだから」
「たかがしれてるわよ」

 ナレアとしゃべっているとさっきぶつかってしまった男が怖い顔をしてやってきた。

「おい、さっきわざとぶつかっただろ?」
「何を言ってるんだ。平衡感覚がおかしくなってるんだから当たり前だろ」
「いや、俺にはわかる。お前は俺にむかついて意図的に当たりにきたんだ」

 コイツ馬鹿なのか?

「そんなわけないだろ」
「うるせー!言い訳するなー!」

 男はいきなり上段回し蹴りをかましてきた。俺はとっさに腕でガードしたが、意外に力が強く、腕が痛い。
 次に男は右ストレートを放った。俺は右に体をずらしてよけた。この男は力は強いがスピードはそれほど速くはない。
 しかし、男の猛攻は止まらない。パンチとキックで巧みに技を繰り出してくる。俺は攻める気はなかったが、なんだかむかついてきたので相手の隙をついて腹に一発パンチを浴びせた。

「ぐほぇ」

 男は一発でダウンした。

「まったく口ほどにもない。ケンカを売る相手を間違えたな」

 そう言って俺が男に背を向けて歩きだすと…

「ハミルーン」

 男は風魔法を使い、攻撃してきた。俺は後ろを向いていたので攻撃をもろにくらってしまった。

「げひぇ」
「これで形勢逆転だな」

 男は俺に近づいてきた。
 まずい…やられる…動けない…
 俺の前まで来て拳をふり上げた瞬間!

「ボラステ」

 男の体に雷が落ち、勢いよく倒れた。ナレアが魔法を使ったのだ。

「ロテス大丈夫?危ないとこだったね」
「あ…ありがと…た…たすかったぜ」

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