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 言われた言葉が嬉しくて、ライラはリゲルに身を寄せていた。カーネーションではなく、やさしい手は自分に触れてほしい、と思って。
 リゲルもすぐにそれがわかったのだろう。花束は片腕に移して、空いた腕でライラを受け止めてくれた。
 やさしくも力強い腕。成長したのはライラばかりではない。リゲルだってそうだ。
 一人前の大人になった。ライラを護り、そして導いてくれる、立派な男のひとに。
「しかし、なんで唐突に花なんか」
 しばらくライラを抱いていてくれて、そのあと言われた。当然の疑問だろうが。
「お礼だよ」
 ライラの回答にはもっと不思議そうな声が返ってきた。
「お礼? 俺、なんかしたか?」
 すぅ、と息を吸って、ライラは言った。
 これをひとに言うのは初めてだった。決めるにあたって相談した教師は別枠として。
「あのね、私、高等科に行くことにした」
 リゲルは、きょとんとした。
 それはそうだろう。
 唐突すぎる。
 お礼と結びつきやしないだろう。
「そ、そうか。でも花となんの関係が」
 そのとおりのことをリゲルは口に出したのだけど、ライラはそっとリゲルから離れた。数秒だけ見つめて、「ゆっくり聞いて」と腰を落ち着けるようにお願いする。
 そういうわけで、丘の上のベンチへ移動した。
 公園のときと同じ、夜空の下、ベンチに座ってライラはゆっくりと話していく。
 お礼、高等科、そして決意。すべての詰まった言葉を。
「作曲の勉強がしたいと思ったの」
 リゲルはただ聞く姿勢に入ってくれる。ライラがしっかりと、自分の心を決めて話しているとわかってくれているはず。花束はライラの座るのとは逆側に置かれていた。

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