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 月の綺麗な晩。あまりに月があかるいので、カーテンを開けたまま、窓辺でライラはリゲルから預かったノートを手にして何度も詩を読み返していた。頭の中に焼き付けるように。
 そしてそのうち、読むだけでなく、調子をつけていく。まだメロディとは遠いが、ここからスタートするのである。
 手の中にある、自分のプレゼントしたノート。それにリゲルの考えた、うつくしい詩(うた)が書かれていると思っただけで幸せだ。
 文字をそっとなぞる。
 リゲルの書いた文字。
 彼の一部。
 ふん、ふん、と軽くくちずさむ。綺麗だけど、どこか物悲しい部分もある、夜の詩。
 藍色の夜空を見る。自分のことを考えて作ってくれたなら嬉しいな、と思って、笑みが零れてしまった。
 今なら自信が持てる。
 リゲルは「こないだ見た星空のことを考えてたら浮かんだんだ」と言った。当たり前のように、二人、公園のベンチで夜空を見たときのことだろう。だからきっと、夜空と星だけでなく、自分のことも考えて作ってくれたはず。そう考えるとくすぐったい。
 でもだからこそ、特別なうたにしないといけないな、とちょっと心が引き締まる思いも浮かぶのだった。
 時折、窓越しに夜空を見て、空の色をメロディに反映させるような気持ちで、ライラはどんどん手を加えていった。
 しかし、ある部分で詰まってしまった。
 それは星について書かれている一節だった。詩の中でも特に哀愁が詰まっている部分だとわかる。そして、ここが要(かなめ)になっていることも。
 とてもうつくしい言葉。
 でもここ、少し難しい。
 ライラは思わず眉根を寄せていた。
 ここを一番うまく仕上げないといけないのに。
 どうしよう、なにか楽譜でも見たらいいかな。
 そこでライラの頭に、ぽっと浮かんだこと。それはあまりに唐突で、ライラは数秒固まってしまった。
 でも、すぐに気付く。
 あ、私、見つけたかもしれない。
 自分のしたいこと。それはとても、大切なこと。
 ずっとほしいと思っていたこと。自分の『芯』になるかもしれないこと。

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