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「男としてお前よりもっと背が高かったら良かったのにとか。そういうつもりで言っちまっていたんだが……お前にとっては嫌な言葉だったんだな。悪かった」
 すべて話してくれて、でも付け加えられた。
「そういう意味じゃ、俺だって心配になるよ。もっと上背があって、スマートにエスコートできる男に憧れるんじゃないかとか」
 それはちょっと拗ねたような響きを帯びていた。
 こんな状況だというのに、ライラは少しおかしく思ってしまった。おまけに安心すら。
 ああ、リゲルも不安を覚えていたのだ。
 自らのコンプレックスが生んでしまった、不安。
 だいすきなひとがいるからこその、不安。
「そんなわけない……」
 ぐす、と鼻を鳴らしてしまった。直後恥ずかしくなる。みっともなかったろう。
 でもリゲルの声は嬉しそう。
「じゃあ同じだろ。好みよりも、互いを想ってることのほうが大切なことじゃないか」
「……うん。そうだね」
「そうだろ」
 言って、そっとライラの体を引きはがした。こういうときは決まっている。
 リゲルの手はライラの頬に触れた。きっとぐしゃぐしゃになっているだろうところなので恥ずかしい。でもリゲルはそれを拭うように撫でてくれた。
「泣かせちまったな。俺のせいだ。悪かった」
 埋め合わせをしてくれるように、顔を近付けられて、くちびるにくちびるで触れられる。
 しょっぱい味がした。自分の涙が、リゲルのくちびるから伝わってきたのだろう。二人、それぞれ抱えていた不安を表しているような味だった。
 でももうそれを抱えている必要は無い。ぎゅう、とリゲルの服の胸元を握る。ふわりと胸があたたかかった。
 いつだってリゲルは自分にあたたかい感情をくれる。
 あかるい光で照らしてくれる。
 もう心配なんてない。言ってしまえて良かった、と思う。
 抱えたままではほんとうの意味でリゲルに向き合えなかっただろうから。
 涙の味のキス。一度くちびるは離されたものの、間近で見つめ合って、リゲルは、ふっと微笑んだ。ライラの頬を両手で包み込む。
 視線からライラの望みをまるで読んだように、もう一度優しくくちづけてくれた。

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