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ジャッケが奏でる狂想曲 その2

 ……間違いありません。

 コンビニおもてなし本店の裏を流れています川の下手のほうから、

 パラリラパラリラ
 パラリラパラリラ
 パラリラパラリラ
 パラリラパラリラ

 と、あの忘れもしない大音量が聞こえてきていたんです。

 ……えぇ、間違いありません。

 あの音、あのメロディー……ジャッケが遡上してきたに違いありません。

 ジャッケは、僕が元いた世界で言いますところの鮭によく似た魚でして、毎年秋になりますと産卵のために自分が生まれた川を遡上してくるのです。

 鮭と大きく違うのは、その口です。
 ジャッケは、遡上途中に魔獣達に食べられてしまわないようにと、トランペット状に進化しているその口でパラリラパラリラといった大音量の音楽を奏でながら、横一列になって川を遡上してくるんです。
 
 ここガタコンベの中を流れています川も例外ではありません。
 産卵時期であるこの時期がまいりますと、こうしてきっちり遡上してくるわけです、はい。

 おととし、僕がまだこの世界にやってくる前はですね、ルアを中心にしたガタコンベの住人の皆さんが総出でこのジャッケを狩っていたそうなのですが……そんなもんではまったく追っつかないくらい、ジャッケは遡上してくるんです。

 で、昨年はですね、この世界にやって来ていた僕が、スアや、コンビニおもてなし4号店店員のクマンコさんとそのお子さん達に手を貸してもらって被害を最小限に食い止めることが出来たんですよね。

 クマンコさんは熊人さんでして、ジャッケは大好物の1つなんだそうです。

 で、子だくさんのクマンコさんなわけです。
 そんなクマンコさんのお子さん達に総出で来てもらいまして、みんなが飽きるまでジャッケを狩ってもらっていたのですが、そのおかげでかなりの数のジャッケを仕留めてもらえた次第です。
 ただ、さすがにクマンコさんの子供達だけで、すべてのジャッケを狩ることは出来ませんでした。

 なので、ここからはスアの出番だったわけです。

 スアは、木人形を複数作成いたしまして、そいつらに遡上してきたジャッケを狩らせた次第です。

 ちなみに、このジャッケですが、味は僕の世界に存在しています鮭にそっくりだったもんですから、狩ったジャッケをコンビニおもてなしではその切り身を利用した焼き魚弁当や、ジャッケのハラミおにぎりなんかを展開していまして、どれもなかなか好評なんですよね。

 とまぁそんなわけで、コンビニおもてなしといたしましても魔法袋に保存しておりましたジャッケの在庫がそろそろ少なくなってきていただけに、ジャッケ襲来をつげるパラリラパラリラ音を、僕はどこか嬉しく思いながら聞いていた次第です。
「さて、とりあえず、スアに木人形を準備してもらおうかな……」
 僕はそう呟きながらコンビニおもてなし本店の店舗裏にあります僕達の家、巨木の家へと向き直ったのですが……

 そんな僕の目の前に5人の女の子が立っていたのです。

 ……っていうか……君達誰?

 僕がそんな感じで目を丸くしていますと、そんな僕の前で、その5人の女の子達は、
「店長さん、ここは私達」
「ようやく尾が二つに割れて、人型になることが出来た」
「ウルムナギ又5人娘」
「に」
「おまかせください!」
 と……やけにバランスの悪いところで言葉を切りながら、同時に派手なポージングをしていたのです。

 えー……一応説明しておきますと……

 ウルムナギ又っていうのは、ウルムナギ~僕の世界で言うところの鰻みたいな生物なんですが、そいつが長年生きたことにより、尾が2つに割れると人型に変化することが出来るようになるんですよ。
 長年生きた猫が、尻尾が2つに割れて人になれるっていう、妖怪の猫又みたいなもんですね。

 で、

 このウルムナギ又ですが、現在コンビニおもてなし5号店西店で、店員兼試食配布員として働いてくれているルービアスの配下といいますか部下といいますか、まぁ、そんな存在なんです。
 なかなか尾が割れなかった5匹は、スアの使い魔の森で、ウルムナギ又に進化することが出来ない種族のウルムナギの養殖事業を手伝ってくれていたのですが……そうですか、割れましたか、ついに……

「お任せって……捕まえてくれるのかい? ジャッケを?」
「「「はい!お任せください!」」」
 僕の言葉に、5人は同時にポージングを決めながら、一斉にそう言いました。
 そんな5人の顔には、見事なまでのドヤ顔が浮かんでいました。

 ……とはいえ、僕の世界で言うところのいわゆる日朝の戦隊がやってるポージングに比べると相当しょぼいのですが……5人は、どこか「やりきりました」的な表情を浮かべながら、ポーズを取り続けていた次第です。

「じゃ、じゃあお願いしてみようかな」
 そんな5人のドヤ顔に気圧された格好の僕がそう言うと、5人は、
「おまかせください!」
 そう言うが早いか、川に向かって駆け出していったのですが……その途中でピタッとその足を止めました。
「店長さん」
「ジャッケを捕獲した暁には」
「私達ウルムナギ又5人娘」
「に」
「イカした名前をよろしくお願いします!」
 再び、やけにバランスの悪いところで言葉を切りながら、同時に派手なポージングをしていったのでした。

 ……そういえば、ルービアスにも名前をつけてあげたんでした。
 ちなみにルービアスの名前は『無類のスアビール好き』なのにちなんで、スアビールを逆から読んだものをその名前に採用した次第なんですよね。
 安直過ぎたかな、と、思わなくも無かったのですが、ルービアス本人がこの名前をいたく気に入っていましたのでそのまま採用したわけです。

「わかった、考えておくよ」
 僕が笑顔でそう言うと、それを確認した5人は
「「「ありがとうございます!」」」
 一同一斉に僕に向かって頭を下げた後、川に向かって再度駆け出していきました。

 ……そして数時間後

「ジャッケだジャッケだ!」
「お兄ちゃんそっちにいったよ!」
「よし任せろ!」
 コンビニおもてなし本店裏にあります川の中では、急遽駆けつけてくださったクマンコさんとその子供達が遡上してきたジャッケを一網打尽にしているところでした。
 横一列になって遡上してくるジャッケに対しまして、横一列になって待ち構えているクマンコさんとそのお子さん達。
 その耳にはスア特製の耳栓がはめられています。
 この耳栓なのですが、ジャッケのあの「パラリラパラリラ」音だけを魔法で遮断してくれる優れものなんです。
 
 クマンコさん達に気が付いたジャッケ達は、トランペット状態の口を激しく動かしながらパラリラパラリラ音を奏でていたのですが……耳栓のおかげで全然それが気にならないクマンコさん一家は、そんな音なんてお構いなしとばかりにジャッケを狩りまくっていた次第です。

「いやぁ……ほんとたくましいなぁ」
 そんなクマンコさん一家を、僕は頼もしげに見つめていました。

 ……で

 そんな僕の足下には、ジャッケの一斉パラリラパラリラ音をくらい、一発で気絶してしまったウルムナギ又5人娘が転がっていた次第です……

 ……なんだかなぁ

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