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ジャッケが奏でる狂想曲 その1

 コンビニおもてなし5号店東店が開店して1週間が経ちました。

 辺境都市ナカンコンベの中心にある役場の東方、表街道から1本中に入った場所にあるマクローコ美容室兼コンビニおもてなし5号店東店は、立地でいえば決して恵まれているとは言えません。

 にもかかわらず、この1週間の売り上げはなかなかのものになっていました。

 元々マクローコ美容室がメインであり、そのお客さん達の待合時間に買い物をしていただく意味合いが強かったコンビニおもてなし5号店東店ですが、朝の通勤時間帯はかなりのお客さんで賑わっているとのことでした。

 これはやはり、街の東方にある住宅地帯から中心街に向かって出勤してく皆さんの多くが利用してくださっているおかげといえました。

 コンビニおもてなし5号店東店は建物の2階にあります。
 マクローコ美容室は夕方から開店しますので、午前やお昼の時間帯はお客さんは建物の横に設置されている階段を使っていただかないといけなかったのですが……

 今、僕の目の前にありますコンビニおもてなし5号店東店は、建物の1階で営業をしています。
 で、この時間は閉店しているマクローコ美容室が建物の2階にあるのです。

 これは、ルア工房のルアによりますカラクリによるものなんです。

 いえね、マクローコ美容室が開店している夕方からは、マクローコ美容室が1階にあって、コンビニおもてなし5号店東店は2階にあるわけです。
 で、両方のお店が閉店します深夜になりまして片付けが終了しましたら、マクローコ美容室の中にありますボタンを押すんです。

 すると、建物の2階部分が少しせり上がりまして、ゆっくり前方にせり出しながら下降していきます。
 その動きに連動して、1階部分が後方に引き下がりながら上昇していくんです。
 円状の鉄枠で支えられている両階層部分をそうやって回転させて、一階と二階を入れ替えることが出来る仕組みになっているんです。
 幸い、建物の後方は川ですので少々せり出しても問題ありません。
 街道側には、スシスやマクローコ達が出て交通整理もしています。

 で、この階層の回転は、この1週間ですっかり有名になっていまして。特に子供達に大人気になっているんですよね。
 深夜と、夕方の2回行われるこの作業ですが、夕方の際には、

「ママ、早く早く!」
「はじまっちゃうよ!」
 あちこちからそんな声をあげている子供達が、階層移動を人目見ようとすごい数集まっているんです。

 で、そんな子供達の付き添いでついてきた親御さん達が
「こんなところに美容室があったのね……」
 とか、
「あらあら、コンビニおもてなしがこんなところに」
 口々にそんな事を言われながら、せっかくここまで来たんだし、ちょっとのぞいていってみようかしら、と、両店に寄ってくださったりしてくださっているんですよね。

 ルア工房のカラクリが、客寄せにも貢献してくれているというわけです。

 ちなみに、ルアによりますと、
「あのカラクリを見た人達からさ、問い合わせが殺到してるんだよ」
 とのことでして、この工事を行ったルア工房としても万々歳だったわけです、はい。

◇◇

 ちなみに、このコンビニおもてなし5号店東店の中には、広めのイートインコーナーを設けているのですが、そこがなかなかな人気なんですよね。

 朝や昼もそれなりに利用があるのですが、閉店1時間前の深夜帯の利用が特にすごいことになっています。

 そのお客さん達の多くは、風俗街で働いている方々なんです。
 なんでも、この方々がお店の仕事を終えて家路につく深夜の時間帯までやってる食堂がほとんどないそうなんですよ。
 酒場などならあるものの、ナカンコンベにあります酒場の大半はお酒がメインで食事は二の次といいますか、あまり美味しくないお店が多いそうなんです。
「だからさ、このコンビニおもてなしさんのあったかくて美味しい食べ物や飲み物を店内で食べられるのがホントありがたいのよね」
 お客さん達は、そう言いながら嬉しそうに笑ってくださいました。

 そんなわけで……

 ここ、コンビニおもてなし5号店東店には、深夜の時間帯だけ調理人を配置することにしました。
 イートインコーナーの一角に調理場を設けまして、ちょっとしたレストラン的な営業もしてみようかな、と思ったわけです。

 このコーナーには、辺境都市ブラコンベにありますコンビニおもてなし食堂エンテン亭で働いている猿人の調理人の一人、チョキ子にお願いすることにしました。
 チョキ子がここで作業するのは、深夜10時から閉店までです。
 エンテン亭の営業が10時で終わりますので、チョキ子だけ少し早めにあがらせてもらって、こっちの作業を行ってもらうことにした次第です。
 エンテン亭も、オーダーストップが9時半ですので、大きな問題はありません。

 で、チョキ子がいる間は、イートインコーナーでは簡単な定食を提供することにしています。
 ぶっちゃけ、エンテン亭でだしている定食メニューがメインなんですけど、

 タテガミライオンのお肉のステーキ定食
 デラマウントボアのお肉の照り焼き定食
 
 こういったメニューを中心に、

 それぞれのお肉を使ったビーフシチューやカレー、女性客が多いことを考慮して野菜炒め系や豚汁なんかをメインにした定食も取り入れています。

 まだサービスを始めて数日ですが、利用者の皆さんからは概ね好評な様子です。

 営業時間が短いもんですから、実利でいうと知れているのですが、
「ホント、こんな時間にこんなに美味しいご飯を食べられるなんて」
「あったかくて、ありがたいねぇ」
 風俗街で働いている皆さんが、口々にそんなことを言われながら嬉しそうに食事をなさっている姿を拝見するにつけまして
「やってよかったな」
 そう思った次第です。

 そんな感じで、コンビニおもてなし5号店東店は、ジワジワ売り上げが右肩あがりとなっているわけでして、店舗を推進した僕としましても安堵しきりだったわけです、はい。

◇◇

 そんな感じで、新たに開店したコンビニおもてなし5号店東店は、徐々にですが軌道にのっている次第です。

 それを確認した僕は、自らが店長を務めていますこのコンビニおもてなし本店の業務へと戻りました。
 この1週間、仕事の合間を縫うようにしてこのコンビニおもてなし5号店東店内の様子を見に行っていた僕なんですけど、この調子なら、それももう不要だろうと判断したわけです。

「そういえば、そろそろジャッケの季節でございますわね」
 副店長の魔王ビナスさんがそんな事を口になさいました。
 
 そう言えばそうでしたね……昨年もこれくらいの時期に、店の裏にある川を遡上してきたんでした。

 ジャッケっていうのは、ザッケとも言うそうなのですが……
 僕の世界でいいますところの、鮭によく似た魚です。
 毎年秋から初冬頃にかけて川を遡上してくる魚です。

 味は鮭に似ているのですが……このジャッケってば、とにかくうるさいんです。

 大型の魔獣達に食べられないように、と、トランペット型に進化したその口で爆音を奏でながら遡上してくるもんですから、この時期の川沿いの都市の多くが、ジャッケの騒音被害に悩まされているとのことなんですよね……

「北の辺境都市ではもう出たそうですわ」
「うへぇ、そうなんだ……」
 魔王ビナスさんの言葉に、僕は思わず苦笑していきました。

 と、その時です。

 店の向こう……かなり遠くの方から、何やら音響が聞こえてきたような気が……なんか、パラリラパラリラいってる気がしないでもありません……

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