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竜の国で大人になること

 何故そんなに驚くのか私にはよく分からなかった。

「すみません。職務がありますので」

 そう言うとマクスウェルは立ち上がって一礼して立ち去った。
 何が起きたかわからず私は少し驚いてしまった。

 気分を害したという感じではなかったけれどちょっと意味が分からなかった。

「あらあら、彼も大人への階段を昇ってしまうのかしら」

 面白そうにメアリが言った。

「この国の大人と子供の違いってなんでしょう?」

 私がメアリに聞く。
 メアリはあら、ご存じなかったのですか? と言った後こちらを向いて答えてくれた。
「竜は大切なものができると大人になります」

 言われた瞬間ごくんと思わず唾を飲み込んでしまった。

「それは婚姻をしないと大人として認められないというお話でしょうか」

 大陸にそんな国があると聞いたことがあった。

「大切というのは、何も伴侶に限ったものではありませんわ」

 メアリが言う。

「それに対象は人でもものでもいい。
黄金に魅せられてそれで大人になる同族は結構おりますわ」

 ふふっ、と面白そうに笑った。

「勿論伴侶を見初めて大人になるものもおりますがごく少数です」

 シェアリが私の爪を整える準備を始めながら言った。

「お二人は何を大切に思って大人になったのですか?」

 勿論こういうことを聞くことがマナー違反であればお答えしなくてもいいです。と私は言った。

「公の場で聞くことはマナー違反になりますがこういう場であれば問題ありませんわ」

 メアリが笑う。シェアリが私の手を取ってクリームを塗り始めた。

「私たちは“お互い”が大切だと知った瞬間大人になりました」

 メアリが言う。
 姉妹が大切。家族が大切。そういうものでもいいのかと思った。

 そこで気が付く。
 彼にはそういうものが今までなかったのだろうか。

 だから子供なのだろうか。

 それとも……。

「大人になれない竜はいるんですか?」
「めったにおりませんが」

 自分を大切に思うでも大人になれますので。
 メアリはそう言った。

 なぜかその言葉に私は何度もやり直した精霊召喚の儀式を思い出した。

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