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コンビニおもてなし 5号店の2 その5

 あっと言う間に研修期間が過ぎていきました。

 ルアから
「明後日には引き渡し出来るぜ」
 そう、連絡を受けた僕は、魔王ビナスさんの新人研修を受けているエルフ4人組へ視線を向けました。

 本店の店舗の中で、4人はテキパキと行動していました。
 そのすぐ後方には魔王ビナスさんが立っています。

 研修をはじめてすぐの頃のエルフ4人組は……控えめに言っても『駄目だこりゃ』と、思わず言いたくなってしまうような状態でした。

 指示を思い込みで間違える。
 作業手順をすぐ忘れてしまう。
 お釣りを渡すのを忘れる。

 などなど……挨拶だけはすぐに覚えた4人なのですが、それ以外の事に関しましては問題行動のオンパレードだったんですよね。

 そんな4人だったのですが……

 僕の前にいる今の4人は、みんなテキパキと行動しているのです。
 まだ全ては覚え切れていないらしく、

「ビナスっち、これはどこに置くんだった、みたいな?」
「ビーちゃん、これはどうするんだっけ?」

 とまぁそんな感じで、四人が代わる代わる魔王ビナスさんにあれこれ質問をしています。
 ですが、当初の頃に比べれば、その動作がすごく向上しているのが一目でわかります。

 最初の頃は、何か問題があると、
「いっか、他の仕事をしよう、みたいな」
 そう言いながら、わからないことや難しいことをことごとく後回しにしようとしていた4人だったのですが、今の4人は違います。

 わからない事があったら後回しにせず、すぐに魔王ビナスさんに質問しているのです。
 で、そんな4人に魔王ビナスさんが
「あぁ、これはですね……」
 そう言いながら、懇切丁寧に解説してくださっているのですが、それを4人は一斉にメモを取り始めていたのです。

 最初の頃は、その背後に暗黒のオーラをダダ漏れさせながら4人を指導していた魔王ビナスさん。
 そんな魔王ビナスさんに、恐れおののきながら研修を受けていた4人なのですが、
「筋は悪くありませんねぇ」
 魔王ビナスさんはそう言うと、研修の割と早い段階でオーラを出すのを辞められました。

 びっしびし指導は相変わらずなのですが、先ほどのように質問してくるエルフには懇切丁寧に解説し、時には実演を交えながらわかるまでしっかり説明してくれていました。
 で、エルフ4人組も、そんな魔王ビナスさんに、遠慮無くあれこれ質問しては、メモを取るようになっていったのです。

 その質問の頻度がかなり頻繁だったのですが、魔王ビナスさんは、
「知らないことやわからないことをほったらかしにするよりも、この方がこのましいですわ」
 そう言い、笑みすら浮かべながらみんなを指導してくれていた次第です。

 この魔王ビナスさんの熱血指導のおかげで、エルフ4人組はこの短期間で見違えていたのです。
 まだまだ至らぬ点が多いとはいえ、商品補充や接客、レジ作業といったコンビニおもてなしの基本的な作業を問題なくこなせるまでになっていたんですよね。

 相変わらずの言葉遣いではあるものの
「いらっしゃいませ!みたいな」
 そう言いながら、きちんと頭を下げていますので、研修開始当初に比べればかなり成長したといっても過言ではないでしょう。

 魔王ビナスさんも、そんな4人を見つめながら
「この状態でしたら、十分戦力になると思いますわ」
 そう言いながらにっこりと微笑んでくださいました。

 そんなわけで、魔王ビナスさんの指導と、エルフ4人組の頑張りのおかげで店員問題はほぼ解決したといっていいでしょう。

◇◇

 翌日。
 ルアに呼ばれて、僕とマクローコはコンビニおもてなし5号店東店が入ることになっている建物へと出向きました。

 ここは、元々マクローコの美容室でして、以前の建物を増改築したんですよね。

 建物の周囲は足場で覆われていたのですが、その足場の一角に
『マクローコ美容室営業中』
 の看板を出していたのは言うまでもありません。

 ちなみに、マクローコの美容室は基本的に夕方、コンビニおもてなしが閉店する頃合いから営業を開始します。

 で、ルアの工事は基本的にコンビニおもてなしが閉店する頃合いまで行われていた次第です。
 そのおかげで、マクローコの美容室の建物は、

 昼間は工事
 夜間は美容室

 そんな感じになっていたんですよね。

 店内の工事はすっかり終了していました。
「どうだい? 一応図面通りには出来てるはずだぜ?」
 そう言ったルアに案内してもらいながら、僕とマクローコは店内をくまなくチェックしてきました。

 僕が元いた世界で言うところの履行確認といった感じですね。

 ちなみに、当初は

 1階がコンビニおもてなし
 2階が美容室とクキミ化粧品作業室

 になる予定だったこの建物なのですが、ルアの提案で

 1階が美容室とクキミ化粧品作業室
 2階がコンビニおもてなし

 となったんです。

 これは、マクローコの美容室が混雑しているかどうか、街道から見えるように配慮した結果なんですよね。

 こういったあたりにしっかり気が付いてくれるのが、さすがルアなわけです。

 ルアは、このナカンコンベにルア工房ナカンコンベ店をオープンして以降、大忙しの日々を送っています。
 いえね、コンビニおもてなし5号店を作ったのがルア工房ナカンコンベ店の、この都市での最初の仕事だったわけですが、

「ほう、こんな立派な建物を」
「聞いたこともない工房が建てたとはねぇ」
 
 コンビニおもてなしに来店くださったお客さん達が口々に感嘆の声をあげていたのですが、そんなお客さん達からの発注が殺到しているみたいなんです。

 そんなわけで、ルアは工房のお弟子さん達を引き連れて、今日は南の雑貨屋の建造、明日は北の役場庁舎の改修とまぁ、そんな感じで連日仕事に明け暮れているわけなんです。

 お店や商店が多いナカンコンベだけに、注文の多くがそういったお店の店舗絡みの案件だそうで、その受注をこなしながらルアもあれこれ成長していたようなんですよね。

 奢ることなく、日々精進の心を忘れないルア。
 こういった姿勢は僕もしっかりと見習わせてもらなわいといけませんね。

 そんなルアに案内された店舗の2階。
 コンビニおもてなしのコーナーには、すでに棚までしっかり陳列されています。

 あとは品物を詰め込めばすぐにでも開店出来そうです。

「どうだい店長、なんか問題はあるかい?」
「いや、問題ないよ、さすがルアだね、いつもありがとう」
 一通り中を確認して回った僕は、ルアに笑顔でそう答えました。

 ちなみに、今回の工事費用は、コンビニおもてなしとマクローコの美容室とで折半することにしています。
「悪いよ店長ちゃん、マクローコがお願いしたんだし」
 マクローコはそう言って、工事代金を全額払うといい張ったのですが、
「コンビニおもてなしとしてもありがたい話なんだしね。そこはむしろ払わせてくれないと困るよ」
 僕もそう言葉を返した次第です。

 で、最終的に折半で話が落ち着いたわけです。

 店舗の確認を終えたマクローコと僕は、ルアと引き渡し関係の書類を交わしました。

 僕とマクローコは、事前に準備していた代金の入った布袋をその場でルアに支払いました。

「うん、確かに」
 ルアは、内容を確認しようともしないで、布袋を腰の魔法袋へ入れました。
「え? 確認はしない?みたいな?」
 驚いた顔でそう言ったマクローコですが、そんなマクローコにルアは、
「店長絡みの案件はいつもかっちりお金を支払ってくれるからな。確認する必要もないよ」
 そう言いながら笑っていた次第です、はい。

 その信頼を裏切らないように、僕も5回通りお金を数えていたんですけどね。

 そんなやり取りを終えて、建物が僕達の物になった次第です。

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