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儀式

 よく朝目を覚ますと、太陽の光が部屋には淡く差し込んでいた。

 体にあった倦怠感はいくらかよくなっているように思えた。それよりも空だ。
 太陽の光が見えるという事は空が見えるということだろう。

 本当は侍女に支度を頼むべきなのだという事は知っていたけれど、起き上がると窓に駆け寄る。

 見上げた先には確かに空があった。
 故郷と同じ青い空だ。

 同じ空の下であれば。自分自身の役割は何も分からないけれど頑張れる気がした。




「この国は本当にエムリスの隣にあるのですか?」

 髪の毛を漉かれながら聞くと「はい」とシェアリが答える。

「異界にはございますが、確かにエムリスと我が国の国境は接しております」
「往来はできるのですね」
「限定的ではありますが」

 シェアリが鏡越しに私にむかって微笑んだ。

 それであれば書簡を届けられるかもしれない。
 私がこの国にきてどうすればいいのかを確認できる。

 けれど、目的があるのなら先に伝えている筈なのだ。

 私が勅命を受けたのはこの国に赴くというところまで。
 その後何をしろともするなとも言われていない。


 もしこの国の王を決める力が私にあるとして、それをするべきなのが逆にしてはいけない事なのか。
 何も分からない。

「今日は午後より国主様との謁見がございます」
「分かりました」

 メアリの言葉に覚悟を決める。
 私は、私の家族のための選択をしようと思った。



◆ ◆ ◆


 私は一人国主と呼ばれる男の前に立っていた。
 貴族の令嬢として相応しいお辞儀をする。
 カーテシーの練習は繰り返しした。

 この挨拶がこの人を王と認めるという意味にならなければいいけれど。

「約束の乙女よ、ようこそ我が国にいらした」

 男は昨日の事がまるでなかったかの様に笑っている。
 それが薄ら寒い。

「これから乙女にはご神託を賜るために儀式を行っていただく」

 当たり前の様に決まりきったこととして伝えられているのが分かる。
 メアリとシェアリは悲願だと言っていたが、何かそうではないそんなものを感じる。

「王を決めるご神託を受けるための儀式でございますね」

 私がお聞きすると国主は深く頷く。

「儀式についてお聞かせください」

 私が言うと国主様は、近くにいた文官風の恰好をした男に聞く様にと言った。

「儀式には付き添いを一人選べる。誰にするか?」
「この国の人からお選びすれば?」

 私の国からもう一人という訳にはいかないようだった。

 そもそも儀式の内容が分からない。
 命をとしてするようなものであれば、それに道づれにしてしまう。

 私は大きく息を吐いた。

 それからこの部屋の末席に控えていた彼を指さす。

「それでは彼を」

 マクスウェルは大きく目を見開いた。
 室内がざわつく。

 それが彼の死を悼むものではなさそうだったので少しだけほっとしてしまった。

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