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コンビニおもてなし 5号店の2 その4

 僕は映画が結構好きでした。
 元いた世界では、毎月1日の映画1000円の日ごとに映画を見に行っていたんですよね。
 特に、戦争物が好きな僕は、その手の映画が上映されていると、ほぼ欠かさずそれを見に行っていました。
 過酷な訓練に耐えながら鍛錬し、戦場に赴く戦士達……なんか、そういうのに感動するといいますか……

 と、まぁ、そんな事を思い出している僕の前には、コンビニおもてなし本店の副店長兼新人研修係の魔王ビナスさんの姿がありました。
 魔王ビナスさんは、本店前の街道に立っています。

 で

 そんな魔王ビナスさんの前を、エルフ4人組が必死の形相で走っていました。
「ほらほらー、そんなにちんたら走っていましたら、開店までにお酒が抜けませんよ~」
 魔王ビナスさんはにっこり微笑みながらも、その背後からドス黒いオーラを発しています。

 一児の母である魔王ビナスさんですが……はい、呼称としてすっかり定着しておりますように、ビナスさんは魔王です。
 このパルマ世界とは別の世界の魔王だったビナスさんなのですが、そんな魔王ビナスさんが発するオーラなわけです……その気配といいますか威圧感は半端ではありません。
 何かの漫画に出てくる覇王色も何する物ぞとばかりの威圧感で、エルフ4人組を笑顔で見つめているのです。

「ひ、ひぃ!?」
「す、すいませんすいません、みたいなぁ」
「やばい、マジやばいって……」
「なんかもう……チョベリバぁ……」
 そんな魔王ビナスさんのオーラにびびりまくっているエルフ4人組は、必死の形相で走る速度をあげていきました。

 ふ、二日酔い状態で走ると危険なんじゃないかなぁ……
 そう思った僕は、魔王ビナスさんに恐る恐る近づいていきました。
「び、ビナスさん……くれぐれもほどほどにと言いますか……」
「はい、心得ておりますわ」
 僕の言葉ににっこり笑顔でこたえてくださった魔王ビナスさんは、
「死なない程度を心がけておりますので、ご安心くださいませ」
 そう言って、にっこり微笑みました。

 ……なんでしょう……満面の笑みなのですが……僕は背筋が凍り付くような、と、いいますか、氷漬けにされた某怪獣王ってこんな気分だったのでは、なんてことを思っていた次第です。

 とりあえず、大人の皆様は、このような酒の抜き方は絶対にしないでくださいね。

◇◇

 そんな感じで……魔王ビナスさんの指導は熾烈を極めました。

 魔王ビナスさんが常に満面の笑顔なもんですから傍目から見ているだけではそんな気配は感じないのですが、近づいてみると、魔王ビナスさんが発しているオーラのせいで全身が凍り付きそうなんです。

 で、

 初日いきなり二日酔いで研修にやってきたエルフ4人組を、最初からクライマックス状態で鍛えまくった魔王ビナスさんは、以後もびっしびしとエルフ4人組を鍛えていきました。

 さすがにこれはきつすぎるんじゃ……そう思った僕は思わず店長ストップをかけそうになっていたのですが……そんな中、エルフ4人組は頑張っていました。

 初日こそ、全員二日酔いで現れるという失態を演じたエルフ4人組ですが、以後は魔王ビナスさんの指示をしっかり守りながら日々研修に励んでくれています。

「いいですか? お客様がご来店なさいましたら、何の作業をしていても一度手を止めて満面の笑顔とともに『いらっしゃいませ』と言うのですよ。絶対に、作業をしながらとか、適当な生挨拶をしてはいけませんよ」
「「「はい!……みたいな」」」
 エルフ4人組は、魔王ビナスさんの前でそう言いながら頭をさげています。
 その口調は相変わらずギャル風ですが、きっちり45度の角度を保ちながら頭をさげている様子には思わず感心した次第でした。

 最初はどうなるかと思ったこのエルフ4人組ですが、こんな感じで魔王ビナスさんの飴と鞭……いや、鞭と鞭? とにかく、そんな研修をへこたれることなくこなしていた次第です。

◇◇

 数日後……
 
 ルアに呼ばれてルア工房に出向いた僕とマクローコは、そこでルアが完成させたマクローコの美容室の新店舗の図面を見ていました。
「とまぁ、こんな感じで考えてみたんだけど、どうだ?」
 そう言うルアの前で、図面を確認していく僕とマクローコ。
 
 建物は当初2階建ての予定だったのですが、図面では地上2階地下1階の構造になっています。

 ルアによりますと、
「2階建てだと、1階のマクローコの店とクキミ化粧品作業室、2階のコンビニおもてなしの在庫や荷物を保管しておく場所が不足気味だったんでこうしてみたんだ」
 とのことでした。
 ルアがかなり値引きしてくれたおかげで、どうにかマクローコが準備していたお金で工事が出来そうでしたので、
「マクローコ、これに決めた! みたいな!」
 マクローコは満面に笑顔を浮かべながらルアの図面をビシッと指さしていきました。

 コンビニおもてなしの方も特に問題がありませんでしたので、マクローコに続いて僕もこの図面でお願いすることにしました。
 
 こうして、ナカンコンベ内で2店舗目のコンビニおもてなし兼マクローコの美容室の工事が始まったのでした。

◇◇

 ルアによりますと、
「まぁ、2週間ほどみといてよ。それでバッチリ終わらせるからさ」
 ルアはそう言って笑っていました。

 その言葉どおり、マクローコの美容室兼コンビニおもてなしの工事はすごい速度で進んでいました。

 ちなみに、この新店舗ですが、

『コンビニおもてなし5号店役場通り東店』

 とすることにしました。
 これを受けまして、以前から営業しているコンビニおもてなし5号店を、

『コンビニおもてなし5号店役場通り西店』

 とすることにした次第です。

 パラナミオ達にも新店舗名の候補を考えてもらったんですけど
「ドラゴン店がいいです!」
「僕はアルカちゃん店がいいな」
「アル!? じゃ、じゃあ私は、リョータ様店が……」
「着物店なんていいかもしれませんわ」
「抜錨店もいいんにゃし!」
 とまぁ、個性的かつ斬新な意見を多数もらえたのですが……結局、僕が考えた無難な名前に落ち着いた次第です、はい。

 さて、こうして店員研修と店舗建築が進みはじめたわけですが……もう1つ決めないといけない事があります。

 店長を誰にするか、なんですよね。

 ですが、これに関しましてはすでに目処をつけてあります。
 コンビニおもてなし3号店の副店長のスシスです。
 コンビニおもてなし3号店のお屋敷が、暗黒大魔導士ダマリナッセ討伐の恩賞として僕がもらい受ける以前からエレとともに守っていたスシス。
 元は、複数の木人形だったのですが、エレよりも性能が劣っていたせいで山賊達に破壊されていたんですよね。
 その残骸をスアが組み合わせて再生させたのがスシスです。

 3号店では、エレの補佐としてテキパキと仕事をこなしてくれているスシスですので、仕事面での不安はまったくありません。
 それに、コンビニおもてなし3号店には、マクローコ美容室で順番待ちをしているお客さん達が多数来店なさっていたわけです。ですので、スシスとも顔なじみのお客さんが少なくないんですよね。

「了解いたしました。不肖スシス、全身全霊をもってこの大役を務めさせて頂きます」
 スシスはそう言いながら、スカートの裾を軽く持ち上げて優雅に一礼してくれました。
 とはいえ、木人形だけにその表情は固まったままなんですけどね。

 と、まぁ、そんなわけで、コンビニおもてなし5号店東店の開店準備が着々と進んでいるわけです、はい。

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