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「遅かったなぁ、エリアボスどうするよ? つか、そいつ連れてきたのか?」

 佐野は俺の肩に担いだ南風原を見て、目を見ひらいた。
 しかし、俺もなんで連れてきたのか分からないので、なにも言えない。

「まあいいか、そいつあとでリンチな」
「佐野さん、それはいいけど、五体のエリアボスはどうする?」

 佐野は避難していた人たちに危険を伝え、このビルから外に追い出していたのだそうだ。
 ただ、佐野の言い方が悪いのか、ここに居る人たちは「行き場が無いから断る」と言って、動かないそうだ。

 ARCの情報が無いと、状況が分からん。
 だから俺は掲示板を見る。

「何でござるかこれは」
「夏哉? 見てるか?」
「……ああ」

 〝【転移させよう】やられたらやり返すMPK【ビッグフットジャパン】〟を見ると『女子二名がグラウンドスライムに戦いを挑み、獅子奮迅の活躍』と書かれている。
 読み進めると、小春と金髪女性の画像が貼られていた。
 そして、『どうして彼女たちは、MPKをしたビッグフットジャパンを庇うような行為をするのか?』という書き込みに対し『かわいいから、あの子たちの味方をする』と『あいつらは敵だ』とする書き込みで、意見が真っ二つに割れていた。

「あの集会をやってた奴らは、一枚岩じゃ無い。上手くやればすぐに助けられるかも」
「そりゃあ、ちとまじぃな。はっきり状況が分かんねぇんだ、|一《いち》か|八《ばち》かの賭けになるぞ?」

 俺の楽観論に、佐野が異論を唱える。
 まあでも、一般論ならその通りだろう。

「でもさ、俺はこれ以上家族を失いたくないんだ。だから四の五の言ってられない。俺は一人でも助けに行くぞ」

 そう言うと、三人はハッとしつつ、渋い顔で頷いた。

 周囲に居るノーマルARC装着者たちも、掲示板の情報でここが安全では無いと感じてはいるが、ほとんどが動かない。
 その表情を見ると、モンスターがいる事すら信じていないように見える。
 佐野は南風原を縛り上げ、通路に転がしていた。

「エリアボスを撃退すれば、彼らも助かる。とにかく、小春と由美の救出を優先させよう」

 俺がそう言うと、三人は後に続き駆け出した。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 外に出てエリアボスの位置を確認する。
 環状三号線の先に見えるそれは、大勢の人々が攻撃しながら南東へ、つまりこちらへ向かっている。
 その魔法が見えなければ、月明かりだけで視認するのは難しい距離だ。

 楕円体の巨大スライムが二体。人の倍以上の高さがあるので、四メートル以上の高さがある。
 この二体は初見なので、あーちゃんの情報が欲しいのだが、黙ったままなので分からない。
 しかし、視界には〝リキッドスライム〟〝グレーシャースライム〟と表記されている。
 リキッドスライムは裕太たちが一度戦って勝利しているやつだ。
 グレーシャースライムは、名前から察するに、氷河でおそらく氷属性。
 
 小春たちは、グラウンドスライムと戦っているはずだから、この一団には居ない。

「渋谷方面を見よう」

 俺はそう言って六本木通りを移動する。
 そして視界に表示されてきたのは、〝ファイアスライム〟〝グラウンドスライム〟の二体。
 まだかなり遠いが、こちらも巨大な楕円体で、四メートル以上の大きさがありそうだ。
 ARCの表示が無ければ〝ファイアスライム〟と〝グラウンドスライム〟は、見分けが付かないほど姿が似通っている。

「外見は掲示板の写真と同じモンスターだ。小春たちはこっちにいるはず」
「かもなぁ。だけどあのスライムは、両方とも赤黒いんだな?」

 佐野を見ると、その額には脂汗が浮いていた。
 裕太と葛谷を見ると、同じように汗をたらし、かなり緊張しているように見える。

 裕太はタロットキャロットの半数が、ファイアスライムに殺害されたと言っていた。
 それで、裕太、葛谷、佐野の三人はこうなっているのだろう。

「無理しなくていいぞ?」

 そういうと三人ともツバを飲み込み、顔を引き締めた。

 あの二体をこちらへ連れてきているのは、集会をやっていた連中だ。
 彼らはブラックフットに何らかの不利益を被った人たちがほとんどだろう。
 まあ、俺も復讐心で動いたんだ。
 彼らを責める気は毛頭無い。

 先へ進んでいると、道端でぐったりしている由美を見つけた。

「大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい、ファイアスライムが恐くて。で、でも……小春ちゃんが行っちゃった」

 由美は|吐瀉《としゃ》物にまみれ、|嘔吐《えず》きながらも、そう応えた。

「由美を頼むっ!」
「おっ? おい、夏哉?」
「あっちゃ~、先走りやがって」
「早いでござる!?」

 ちんたらしてる場合じゃ無い。
 俺は走り始めた。

 西麻布の交差点に、大勢のギャラリーがいた。
 あれはおそらくエリアボスを連れてきた連中だ。

「……クソッ!!」

 その先にいる小春を見つけ、俺は全速力で走り始めた。

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