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「おいシスコン、お姉ちゃんを呼ばないのか?」
「ぐっ……うぉおああああああ!! ざっけんなああ!!」

 俺の言葉に、南風原は激高する。
 煽り耐性が低すぎる、と思いつつ、舌先三寸でヘイトを稼ぎ、南風原のターゲットを俺に固定する。

「いや~、南風原くんって取締役だったよね? 他の役員たちはシスコン南風原だって知ってるの?」
「ぐぞがぁぁぁぁあ!! 貴様は殺すっ!! ミンチにして豚の餌にしてやる!!」

 あの怒りっぷりは、脱臼した痛みもどこかに行っているのかもしれない。

 人は、怒りで我を忘れる者と、より冷静になる者、その二種類が存在する。
 南風原は前者だ。

 あのすかした表情と、姉に怯えた表情。感情の起伏の激しさを見ると、|自《おの》ずと南風原の弱点が見える。

 魔法を使う事も忘れ、ぶらりと垂れ下がった左腕を|庇《かば》う事無く、南風原は短距離転移を連続で使い、俺に近づいてくる。
 それをすり足で避けながら、俺は南風原を煽り続けた。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 あれから一時間が経ち、畳は摩り切れささくれ立っていた。
 南風原は相変わらず、魔法の存在を忘れていた。

 俺たちは魔法を交えながら、物理攻撃を重ねているが、中々当たってくれない。
 もちろん俺の|精神口撃《ただの悪口》も続けているが、ここまで時間がかかるのは、南風原の転移がそれだけ厄介だと言う事だ。

 が、しかし、南風原の動きが突然止まった。

「姉ちゃん!?」

 武道場の入り口を見る南風原の視線を追う。

「こいつらが虐めるんだ。助けてよ!!」

 そう言って南風原は走り出したが、そこには誰も居ない。

「何やってるでござるか?」

 葛谷の声が聞こえると、南風原の足の甲に矢が生えた。
 そのせいで、南風原は受身も取れずに転倒し、それでも這いつくばりながら出口を目指している。

 俺と裕太が回り込んで近寄ると、南風原は視点があっておらず、よだれまで垂らしていた。

「……心が弱すぎだな」

 吐き捨てるように裕太は言う。

「幻覚でも見たでござる?」

 ため息をつきながら葛谷が言う。

「正気では無いな。裕太、葛谷、こいつどうする?」

 効果てきめんだとは思ったが、言葉だけでここまで壊れるものなのか。
 この状態で南風原の首を|刎《は》ねても、親の仇を討ち取ったとは言えず、ただひたすら虚しいだけだろう。

 急激に復讐心が萎えていく。

 裕太と葛谷を見ると、首を横に振っていた。

「おぉぉぁぁぁぁ」

 南風原の声にならない慟哭。
 涙を流し、何かに縋るように手を伸ばしている。
 そこには誰も居ないのに。

「――――何だ!?」
「逃げた方がいいでござる!!」

 裕太と葛谷が、急にそんな事を言い始めた。
 だけど、何のことを言っているのか分からない。

「おいっ、夏哉!! ボサッとすんな!!」
「表示が見えないでござるか?」
「ちょっ? 裕太も葛谷も何言ってんの?」
「プロトタイプARCの文字が見えてないのか?」

 裕太がそういった事で、ようやく理解した。
 俺の視界には何も表示されていない。

 しかし、裕太と葛谷のプロトタイプARCは何かを表示し、ここから逃げるように促しているのだ。

「このままだとビルごと異世界に転移するでござる!! 僕は行ってみたいけど」

 葛谷の後半部分はよく聞こえなかった。
 というのも、地鳴りが聞こえ、声が掻き消されていたからだ。
 しかし、異世界転移だと?

【あーちゃん?】
【……】

 こんな時に無視か……。

「夏哉っ! 外に出て五体のボスモンスターを倒すぞ!」
「反対でござるっ!! こんなとこ異世界に消えてしまえばいいでござる! 逃げるでござる!!」

 裕太の言葉を聞き、すかさず掲示板を開く。
 〝【転移させよう】やられたらやり返すMPK【ビッグフットジャパン】〟
 ……これか。
 中を読むと、ここに来る前に見た、渋谷、新宿、池袋、上野、秋葉原の五カ所から先導され、エリアボスがこちらへ向かっているのだ。
 書き込みか正しければだが。

「あああ、間に合わないかもでござるうぅぅ!」
「戦う戦わないは別にして、とにかくこのビルから出ないと!! 夏哉! さっさと行くぞ」
「あ、ああ、分かった」

 状況を理解しつつ、俺は頷いた。

「おいっ! 南風原はほっとけ!!」

 俺が南風原を担ごうとしていると制止されてしまった。

 南風原は見えない何かに手を伸ばしているが、こいつが正気に戻ったらただでは済まない。
 だから俺はサッカーボールキックで顔の側面を蹴り上げ、南風原の意識を飛ばした。

 その上で担ぎ上げて南風原を運ぶ。
 俺のレベルは分からないが、これくらいの重さなら、走る速度に影響は無い。

 裕太と葛谷は南風原に一瞥し、俺は走り続ける。
 あっという間に非常階段へ辿り着き、駆け上がる。
 そして、ようやく一階のフロアに到着した。

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