バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

「拘束しろ」

 女の声が聞こえると、銃を向けられたわたし達は、なにも出来ず取り押さえられてしまった。

「魔法があっても、レベルが上がっても、|明順応《めいじゅんのう》には、ある程度の時間がかかるのよ?」

 近くまで来て、流暢な日本語でそう言ったのは金髪の美女。
 高い身長、ハイヒールと赤いタイトスーツ。青い瞳とその輪郭は、おそらく海外の人。

 そして彼女は、床に押さえつけられたわたし達を見下ろし、言い放った。

「私は、マーガレット・ルーシー・南風原。下で騒いでる奴らは、あなたたちの仲間かしら? 誘き寄せるための餌になってもらう……わ? ええぇ!?」

【複数のエリアボスが六本木方面へ向かっています】

 ファミリーネームが南風原なので、この女はおそらく南風原の家族か親戚。
 もしかすると、南風原が無線で話していた姉かもしれない。

 そして、マーガレットはプロトタイプARCが表示した文字を見て、かなり動揺している。

 それと、あの言い方なら、お兄ちゃんたちはおそらく下の階に居る。
 そう思って、由美さんを見ると目を逸らされた。

 まあ、行き先を間違えていたのは薄々感じていたけど、今はプロトタイプARCが表示した情報を確かめなければ。

 ブレインネットワークの掲示板を開くと〝【転移させよう】やられたらやり返すMPK【ビッグフットジャパン】〟というスレッドがあった。

 そこには、渋谷、新宿、池袋、上野、秋葉原、この五カ所から、エリアボスをビッグフットジャパン本社にぶつけるため、大勢で誘導している、と書込まれていた。

 マーガレットは、周りにいるブラックフットを集め、これからどうするのか作戦を練りだした。

 掲示板の情報は、マーガレットもわたしも同じもの。
 だから彼女は相当焦っている。

「ちょっと、あなたたち! このビルに原子炉があるって知ってる?」
「知るわけ無いでしょ!?」

 この女は、いきなり何を言い出すのかな?
 久々に感情が表に出た気がする。

「よく考えてね? このビルに自家発電があるって事は、広く周知されてるわ」

 わたしは由美さんと目を合わせ「知ってるよね」と頷く。

「自家発電機って、どうやって動くのか知ってる?」
「えーっと?」

 何だったかな?

「バッテリー?」

 由美さん、たぶんそれ違う。

「昔使ってたガソリン?」

 わたしがそう言うと、マーガレットは首を横に振った。

「この巨大なビルの電力を賄うのに、ガソリンを使った発電機なんて使ったら、とんでもない量が必要になるわ。だからね、そんな旧式の発電機じゃ無くて、このビルの地下には原子炉があるの」

 ふうん。という感じだけど、結局何が言いたいのかな?

「モンスターがここを襲って、もしそれで、冷却水の循環が止りでもしたら、水素爆発やメルトダウンが起きるのよ?」

 それは……よく分からないけど、たぶん大変な事になるのだろう。
 由美さんを見ると、目玉がこぼれそうなくらいまぶたが開いていた。

(これは拙いかも)
 わたしは掲示板を開き〝【転移させよう】やられたらやり返すMPK【ビッグフットジャパン】〟に『このビルは原子炉があります』と書込んだ。
 小春って名前が出ちゃったけど、もうどうでもいいや。

 そうしていると、マーガレットはわたし達に向き直り、ここへ向かっているエリアボスを倒すため「一時休戦をして、共同戦線を張らない?」と、提案してきた。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 俺が目配せをすると、南風原の転移に対処するため、裕太と葛谷は左右に散開した。

「わざわざ殺されに来るなんて、鈴木くんってバカだねぇ」

 南風原は両生類のような顔で俺を見つめ、ねっとりとした言葉を放ってきた。
 やつの右腕は無くなったままだけど、左手には|強制複合現実化《FMR》された銃が握られていた。

 やつとの距離はおよそ三十メートル。
 
 俺は腰に差した刀を鞘から抜き、正眼に構え集中をする。
 すでに|強制複合現実化《FMR》された刀は、元より少し軽くなり、|刃《は》の部分は青みがかった色に変化している。

 周囲の雑音が消え、静寂となり、四人の息遣いが耳へ届く。

 南風原は血走った目で俺を見ている。
 俺に腕を落とされ、相当頭にきているのだろう。

「どうした? かかってこないのか? けっ、素人がっ!」

 その声と同時に南風原は転移し、俺のこめかみに銃を押しつけ、引き金を引いた。
 真っ先に狙われると思っていたが、案の定だ。

 俺は発砲音の前に、すり足で後ろへ下がった。
 そうすると、俺と裕太と葛谷で、南風原を囲む三角形が出来上がる。

 そして次の瞬間、ひゅっと音がし、葛谷の一の矢が南風原の頭部に迫っていた。

「ぬるい」

 南風原はそれを見もせず避け、俺に向け、さらに銃を撃ってきた
 俺はそれを避けつつ、口撃をする。

「どうした? 俺が斬り落とした腕が痛いのか? あ、もしかして、お姉ちゃんに助けてもらいたい? お、ま、え、シスコンだろ?」
「あぁぁあ!?? 貴様っ!!!」

 以前、南風原は無線で姉と連絡を取り、怯えた仔犬のような顔になっていた。
 だから、姉に対しては頭が上がらないのだろうと思い、ちょっと煽ってみると効果てきめんだった。

 何度も転移を繰り返し、銃を連射してくる。
 だから俺はソイルウォールで防御した。

 南風原の銃はあっという間に弾切れとなり、弾倉を入れ替えるための僅かな時間が空いた。

 俺がソイルウォールから顔を出すと、南風原の背後に裕太が迫り、腕を掴んで、畳へ落とすように、腕ひしぎ脇固めをかるところだった。
 裕太が体重を乗せたまま|極《き》めると、南風原の肩関節が外れる鈍い音が響く。

 しかしその瞬間、南風原の姿が消え、武道場の隅に姿を現した。
 転移で逃げられるのは想定済み。
 でも、これで銃を封じる事は出来た。

しおり