拡張現実が現実化！　おまけに異世界から侵略されたけど、なんとか生き延びてます！

　一通りの事情聴取が終わると、不満げな顔で｜南風原《はいばら》は部屋を出ていった。
　そりゃそうだ。
　俺がいっさい口をきかなかったんだから。

　まあでも、南風原の話、つまり、父さんが本当にプロトタイプＡＲＣの改造をしたのなら、何らかの罪に問われるのかもしれない。
　南風原の言う、背任罪がどんなものか知らないけど。

　ただ、今の世界で法律が通用するのか。
　駅前交番が無くなっていた事。世界中の軍事施設が消えてしまった事。
　早い段階で停電が起きた事。そしてモンスターの存在。

　まだ三日目で、ガスと水道は生きている。
　そのおかげで人々はおとなしいが、いずれ食糧不足になれば、一気にタガが外れ、略奪や暴力が蔓延し、一欠片の食べ物で殺し合いが始まるだろう。

　日本人は比較的おとなしいと言われたりするが、歴史を見るとそうではない。
　もしかしたら今この瞬間、俺たちは人間的な行動のパラダイムシフトを迎えているのかもしれない。

「ん？」

　扉が開き、そこに立っていたのはブリキのアンドロイドだった。

『本人確認をします』

　アンドロイドは俺を招き、網膜パターンとプロトタイプＡＲＣのチェックをした。

『ご家族がお待ちです。案内しますのでこちらへどうぞ』

（このアンドロイド、改造されてる）

　背中にあるメンテナンス用のカバーが外れて、中身が見えている。
　こんな事をするのは、父さんくらいしか思い当たらない。
　おそらく、天井にある監視カメラもどうにかしているはずだ。

　てくてく歩いて行くアンドロイドを追いながら、そう考える。
　エレベーターで一気に地下駐車場まで降りると、そこにはうちの車が停まっており、中で小春が手を振っていた。

☆　☆　☆　☆　☆

　地下駐車場から外に出る際、当然のようにブラックフットの皆さんがチェックをしに来る。
　ただ、父さんもそれは分かっていたようで、徐行から急加速し、彼らを轢き殺す勢いでビルから飛び出した。

　小銃持ちもいたので、後ろから銃撃されると思ったが、彼らは驚いてなにも出来なかった。

　その後「今日一日暗くなるまで、どこに行ってたんだ？」「顔が腫れてるじゃない！？　お兄ちゃんどうしたのそれ！！」という父さんと、小春の質問攻めに遭っていた。

　だから俺は「ＡＲＣの情報で、ボスモンスターを倒しに行ってた」と、一応正直に答えた。
　もちろん、うちの家族は全員プロトタイプＡＲＣ装着者なので、その情報は知っているはず。

　それを無視して行かなかった小春と父さんは、一瞬だけ口をつぐんだが、すぐに「なんでそんな危ない事するんだ？」と逆に反撃される始末。

　車の中でそんな話が延々と続いていると、母さんが「これからどこに行くの？」と言った事で、ようやく話しが落ち着いた。

　言い合いをしていて、当てもなくさまよい、夜の八時を過ぎた頃、ようやく行き先が決まり、神奈川にある父さんの実家、イノシシ狩りを得意とする、祖父の家へ向かう事になった。

　街灯が消えた街は闇が深く、車で走るのはちょと恐い。
　六本木通りは、ハイビームにしても遠くまで見えない。

「うわっ！？」

　父さんは急ブレーキをかけ、後部座席の俺と小春は、シートベルトに押しつけられた。
　アンチロックブレーキの独特な音がしばらく続き、ようやく停車すると、窓の外から声が聞こえてきた。

「よぉ、夏哉」

　暗闇から現われたのは、影山裕太。
　すでに五十名からなるタロットキャロットのメンツに囲まれ、俺たち家族は車から降ろされた。

「手荒なまねをすんなよ？」

　そう言うと、タロットキャロットのメンツから背中を小突かれた。

　俺たち家族は、ぶっとい結束バンドで両手を拘束され、歩いていた。
　しばらくすると、有栖川記念公園内の中央図書館へ到着した。

☆　☆　☆　☆　☆

　俺たちは中央図書館に併設されている喫茶店へ入る。
　停電しているので、中は当然まっ暗で、職員もいない。
　ただ、タロットキャロットのメンツがロウソクをつけ、かろうじての明かりだけは確保できていた。

　そこで俺たち家族は椅子に座らされ、佐野が口を開いた。
　それは「お前らのせいで、仲間が大勢死んだ。どう落とし前をつけるんだ？」の一点張り。

　井上由美も俺を睨み、その横には悲しげな顔で裕太が立っている。
　他のタロットキャロットのメンツは、もれなく俺たち家族を憎悪の目で見ていた。

「まあまあ、佐野さん。俺から説明させてくれ」

　しばらくすると裕太が前に出てそう言い、これまであった事をかいつまんで説明し始めた。
　そしてその内容は「ビッグフットジャパンが、ファイアスライムを使って、ＭＰＫをしてきた」という内容だった。

　そして彼らは、俺が六本木のビッグフットジャパンに居るのだから、タロットキャロットをスパイしに来たんじゃないか？　という疑惑を持っていたのだ。