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「お父さん? 録画はもう終わった?」
「ああ、もういいぞ」
「んじゃ、早くお兄ちゃんの場所を!」
「わめくな。やかましいなぁ」

 ホログラムの撮影は終わったのに、父さんはなかなかお兄ちゃんを探してくれない。

「言っておくけど、もう少しで夏哉の現在地が分かるぞ?」
「ほんと? お父さんってマジ天才!!」

 喜びのあまり、わたしは思わずピョンピョンと跳びはねてしまった。
(ちょっと恥ずかしかったかも……)

 いつもは父さんとあまり話さないけど、お兄ちゃんを探すという共通の目的があったから、会話も弾んだ。
 だからちょびっと嬉しいのかも。

 ARCは、本来なら改造が出来ない仕様になっている。
 お父さんの受け売りだけど、ARCを動かすプログラムは、量子コンピュータの演算能力で解けない、格子暗号というのを使っているらしい。
 わたしは、ちんぷんかんぷんで分からない。

 でも、ナノマシンを使った改ざん薬を使って、そんなすごい暗号が使われているARCを、短時間で改造してしまった父さんはすごいと思う。

「よし、できた。ちょっと試しに探してみるか」
「ほんと? やったーっ!!」
「ちょっとあんたたち、さっきからうるさいわよっ! 夏哉なら大丈夫っ!」

 館内放送の韓流ドラマを観ていたお母さんが、ソファーから顔を出して文句を言っている。

「あっ! お兄ちゃん帰ってきた!!」

 部屋のチャイムが聞こえたので、急いで扉を開けた。

 だけど、そこに立っていたのはお兄ちゃんではなく、黒い制服を着て、小銃を持った男たちだった。

「こんにちは。僕は執行役員の|南風原《はいばら》です。鈴木さん、あなたたちを逮捕します」

 大学生みたいな男はそう言って、わたしたちを拘束した。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「意外と簡単に抜け出せたな……」

 止めておいた自転車はそのままにしてあり、裕太たちは俺が逃げ出すとは思ってもいなかったようだ。
 ショッピングモールを背に、俺は全力でビッグフットジャパンへ向かう。

 裕太たちの誤解を解くには、まず彼らが何でビッグフットジャパンと揉めているのか知る必要がある。
 人類共通の敵が現れると、人々は一致団結するんじゃなかったのか?
 そんな事を何かで読んだ。

 その敵は異星人で、モンスターではなかったけど。

 日は沈んでしまったが、まだ視界は確保できる。
 しかし、あっという間に暗闇になるだろう。

 二十分ほどでビッグフットジャパン本社に着き、急いで中に入ろうとすると、黒い制服の男に呼び止められた。
 また身元確認をするんだろう。

 そう思っていると、何故か手錠を掛けられてしまった。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 何がどうなっている……。
 逮捕された俺は、警察の取調室のような場所に監禁されていた。

 俺がなにを言っても、あの黒い制服共は口をきかないので、まったく状況が分からない。
 ここまで目隠しをされて連れてこられたのだが、エレベータに乗っていた時間を考えると、おそらくこの部屋は、上層階にあるビッグフットジャパン本社内。

 こうなったのは、もしかして裕太たちが激怒していた事と関係があるのか。
 色々と考えていると、扉の向こうに人の気配がした。

「やあ、僕はビッグフットジャパンの執行役員で、南風原(はいばら)だ。鈴木夏哉くん、今回は事情聴取に付き合ってもらってすまないね」

 男はそう言いながら、俺の前に立った。
(何だこいつ? 黒髪ツーブロックのマッシュヘア。グレーのスーツに、ピンクのネクタイを締め、まるでやんちゃなイケメン大学生のような出で立ちだ)

「ははっ、若いと思った? 確かに僕は二十五歳で若いけど、これでも実働部隊の指揮を任されてるんだよ?」
「……」
「まあまあ、座って話そうじゃないか」

 南風原は鉄パイプの椅子に腰掛け、俺と向かい合って話を始めた。
 そしてその内容は、俺の父さんがプロトタイプARCを改造し、会社法の背任罪に問われているという内容だった。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「佐野さん」
「なんだい?」
「俺と夏哉は、小学校からの付き合いだって言ったよな?」
「ああ」
「だから、俺はあいつの心根を知ってる。間違ってもビッグフットの手先じゃねぇよ」
「……かもな」

 俺ははビルの角から顔を出し、夏哉が手錠を掛けられ、ビル内へ連れて行かれる所を見ていた。
(でも、夏哉がブラックフットに捕まったのなら、あいつがスパイという話は崩れたな)

 佐野さんの案で、意図的に夏哉を脱出させ、俺たちは事の真相を探るために尾行していたのだ。
 そのため、ブレインネットワークの掲示板を使わず、口頭での作戦指示を出していた。

 周囲にはタロットキャロットのメンツが散開し、警戒網を張っている。

(夏哉を助けに行くべきか……)

 俺は三日前の事を思い出していた。

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