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【あーちゃん?】
【えへへ~】

 こんな事が出来るのは、プロトタイプARCの人工知能しか思い付かない。
 そう思って話しかけると、抜けた笑い声が返ってきた。

【あ~ちゃ~ん……】
【はい。プロトタイプARCは、無詠唱で魔法が使用可能です。それと、設定を少し変更し出力を上げています】

【そういうのは先に言っといてくれ……。あのスライムは危険なの?】
【近づけば攻撃されますが、動きが遅く、歩いてでも逃げることは可能です】

【そんなんでアシッドスライムは異世界転移するだけの魂を集められるの?】
【下水道にいるネズミなどを捕食しているようです】
【魂なら何でもありなのか……】

 そんなやり取りをしつつ、空に向けてウィンドカッターを使うと、身体が浮くほどの上昇気流と共に、薄い三日月のような空気のかたまりが飛んでいった。
 これはファイアボールより見えにくいので、攻撃する際には有利になるかもしれない。範囲攻撃になるかもしれないが。

 次はソイルウォールだけど、明らかに壁の意味なので、今度は空では無く視線を道路へ移して使ってみた。

「ぬおおっ!?」

 あーちゃんが出力を上げているのなら、と思ってやってみたが、巨大な石が積み重なった城壁のようなものが現れ、あっという間に道路を塞いでしまった。
 先に進めなくなったけど、まあ練習を優先しよう。

 次はウオーター。
 ……うん、知ってた。水浸しになるのを予見し、道路標識に登っていて正解だった。
 水色の煙と同時に地面から水が溢れ出し、あっという間に水位が上がっていく。
 それはこの辺りの排水能力を上回っていることを指している。

 しばらくすると水が引き、最後のアイスバレットを使ってみる。
 視線は城壁。
 俺の前に青い煙が収束し、ファイアボールと比べ倍の大きさの氷のかたまりが出現した途端、城壁にぶつかっていた。

「……おいおい」

 その氷には質量もあるのか、ぶつかると同時に地響きを引き起こし、城壁が瞬間凍結してバラバラに砕け散ってしまった。
 これのどこが銃弾(バレット)だよ……。

 魔法の使用で、魔力的な物が無くなる感じはしないし、ARCの設定を見てもMPの項目は無かった。
 それに、五属性の魔法は全て強力なもので、アシッドスライムが強くても何とかなりそうな自信にも繋がった。

 その後、俺は六本木から南へ移動し、浜離宮を右手に見ながら東へ向かった。

 (あ、さっきのスライム、放置してきた)
 他にもスライムを見かけるし、まあいいか、と思い直し、意気揚々と三十分ほど自転車を漕ぎ、久し振りに潮の香りを楽しんでいた。

 しばらくすると、交差点の信号に〝勝どき橋西〟と書かれた地点に到着し、そこであーちゃんのナビが終了した。

 つまりこの辺にアシッドスライムがいる訳だが、場所の特定は容易だった。
 というのも、かちどき橋の上から、ファイアボールの爆煙や、ウオーターの水煙が見えており、その中心にいるアシッドスライムっぽい紫色のかたまりへ向けて、数十名の人たちが魔法を放っていたからだ。

 あーちゃんが俺の思考を読んだのか、紫色のモンスターに〝アシッドスライム〟と表示が出る。

「……攻めあぐねているっぽいな」

 ファイアボール、ウオーター、アイスバレットと、視認できにくいウインドカッターは、アシッドスライムの細い触手のようなものではじかれている。
 それに、アスファルトや橋のアーチ部分が酸で溶け、煙が発生して視界が悪く、辺り一面鼻をつく酸っぱい臭いで満たされていた。

【……気になってるんだけど】
【はい】
【俺の魔法とずいぶん違ってないか?】

 彼らのファイアボール、ウオーター、アイスバレットは野球ボール大で、ウィンドカッターは見えないけど、上昇気流のようなものは起きていない。

【出力を上げています】
【……だよな】

 しかし彼らの魔法が標準だと仮定すると、さっきのバランスボール大のファイアボールは、チートにならないか?
 まあ、こんな世界になったのなら、チート上等だけどさ。

【それとさ、絲山の時も思ったけど、この戦闘してるやつらって、プロトタイプARCからの情報で戦闘に参加してるんだよね?】
【絲山さんは遭遇戦でしたが、今回のアシッドスライムは、プロトタイプARCの情報で集まった有志の方々です】

【なるほど……つまり、プロトタイプARCは、異世界転移を防ぐために俺たち人間を使っている。そう言う事か】
【はい】

 うん。キッパリと肯定しすぎ。
 人工知能の思惑通りに動くというのは、あまり気分がよろしくないけど、仕方がない。
 つまり、プロトタイプARCの力が無ければ、今回の件で人類は淘汰されていた、と思うからだ。

「何やってんの?」
「ぬおっ!」

 あーちゃんと話しながら戦闘を眺めていると、背後から女性の声が聞こえた。

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