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「マジか……」

 父さんと母さんには事情を説明し、後輩の絲山たちと合流することを伝えていた。
 ただ、バリケードがあった通用口に到着すると、そこには大量の血痕が残っており、さっきまでいた九名は誰も居なくなっていた。

「夏哉……帰るぞ」
「……ああ」

 父さんにそう言われ、俺たちはうちへ向かうことにした。

(すまん絲山。母さんを探して、ついでに父さんまで見つけたけど、五時間も経ってたら移動しちゃうよな)


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 自宅へ歩いて帰る途中、数体のヒュージアントを倒した。
 通勤カバンを盾に変化させた父さんが。
 どうやらプロトタイプARCには、強制複合現実(FMR)が標準装備されており、手に持つ物を拡張現実化し、その上で現実化させることが出来るようだ。

 今回はこんな状況で個人的には命拾いしたが、平時にこのデバイスが出回ってしまえば、世界中が大混乱になっていただろう。
 そこを父さんに聞いてみると「ビッグフットの判断では無く、メインフレームの次世代汎用人工知能が許可を取らず、独断で世界中にばら撒いた」という事だった。

「まあ、結果的にだが、プロトタイプARCがなかったら、俺たち三人はどうなっていたか分からんし、よしとしよう」

 父さんが軽はずみなことを言っているけど、立場的にはどうなんだ?
 まあでも、目の前の光景を見れば、父さんを咎める人は居ないかもしれない。

 いま歩いている道路は八車線の大通りで、乗り捨てられた車が所構わず放置されている。
 それらはフロントガラスが割れていたり追突していたり、中には横転して煙が上がっているトラックもある。
 こうなったのはヒュージアントのせいだと容易に想像が付く。

「挙動不審の人工知能。拡張現実の現実化、物理法則を無視した強制複合現実化(FMR)ねぇ……」

 プロトタイプARCをつけているうちの家族四人は、人工知能の情報で生き延びたと言っても過言では無い。

 その後、ようやくうちのマンションに到着するも、こっちも停電しており、十四階まで階段を使うハメになった。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 玄関を開けると突然炎の球が飛んできた。
 すると、父さんが持つ通勤カバンが強制複合現実(FMR)で盾に変化し、それをはじいた。

「小春っ!」
「えっ? 父さんなの?」
「ああそうだ。母さんも夏哉も連れて帰ってきたぞ」

 すると、停電で薄暗くなった廊下の奥から小春が顔を出した。
 あんな状態だったのだ。過剰に警戒していたのだろう。

 小春は父さんに叱られつつ、俺たちはリビングに集まり、家族会議を始めることになった。
 しかし、父さんの「ビッグフットジャパンへ行ったほうが安全だ」という主張と、母さんの「うちに立て籠もる」という主張が対立し、話し合いは平行線となった。

 まあ、結論が出るまでしばらくかかりそうだ。

 そう思って、小声で小春に「さっきの炎の玉は何?」と聞くと、「アップデートしたら、魔法って項目が増えた~」と返ってきた。

 ARCはインターネット回線では無く、生体電位を使ったブレインネットワークという通信技術が使われ、ちょこちょこアップデートしている。
 俺も視覚操作で設定を見ると〝魔法〟という項目が増え、その中に〝ファイアボール〟があることに気づく。

【声を出さずに私と会話できますよ?】

 そんな文字が視界に浮かぶ。

【お前……やっぱ俺の思考を読んでるだろ?】

 心の中でそう言ってみる。

【お前では無く、あーちゃん】
【……】
【あーちゃん】

 耳からでも視界の文字でも無く、脳内に直接聞こえてくる女性の声。
 家族会議の様子を見ても、その声が聞こえている風ではない。

【謎技術はよく解らん……あ~はいはい、あーちゃん】
【夏哉の思考はある程度まで読めます。魔法の件ですよね?】
【ああ、そうだ】
【先ほどクインアントが使っていた魔法を解析するため、汎用人工知能へデータをアップロードしました】
【そんな事言ってたな。てことは、解析してARCで魔法が使えるようにアップデートしたって事?】

【そうです。しかし、夏哉のような適合者が魔法を見て倒さないと、汎用人工知能へ直接接続することは不可能です】
【適合者? いまいち何言ってるのか分からないけど、要するに、俺が見た魔法は他のARC使用者でも使えるようになるって事か?】
【プロトタイプARCを装着している方のみですが、そうです】

 そうなると、この都市の約一万人が〝ファイアボール〟を使えるようになったことになる。

【まてまて、それは世界中のプロトタイプARCで〝ファイアボール〟が使えるようになったって事?】
【そうです。夏哉はいち早くボスモンスターを倒したので、ランキング一位となっています】

 すると俺の視界に〝ジャパンランキング〟と書かれた図が表示され、一番上に〝鈴木(すずき)夏哉(なつや)〟と、俺の本名が書かれていた。

【おいこら、俺は有名人になる気はないぞ。名前を消してくれ】
【はい。ルート権限を使用。夏哉の名前を非表示に切り替えます】

 すると俺の名前がアンノウンとなり、日本中のプロトタイプARCから見えなくなった。たぶん。
 すでに大勢に見られているとは思うけど、まだそこまで時間が経っていないので大丈夫だろう。

 そうしていると、両親が動きを止めていることに気づく。

「ねえ、あなた。この魔法って項目は何?」
「ああ、俺もいま確認していたところだけど……小春? さっきの火の玉はこれを使ったのか?」
「そうだよ~」
「おかしいな……知らない機能が追加されてる」

 父さんの眼がクルクルと動いている。
 視覚操作をやっているのだろう。

 それに、どうやら俺の両親は、小春のファイアボールが魔法だと気づいていなかった。
 おまけに、ビッグフットのエンジニアである父さんは、そもそも魔法という項目が無かったような反応をしている。

「ファイアボールに、ウィンドカッター、ソイルウォール、ウオーター、四つの魔法が使えるの?」

 母さんがそう言うと、俺と小春はすぐにARCの操作を始め、ファイアボールに加え、三つの魔法が増えていることに気づく。
 つまりこれは、世界のどこかに居る適合者とやらが、その魔法を見てボスモンスターを倒し、増えたという事だ。

「あ~、父さん、母さん、俺はうちに留まって様子見をした方がいいと思う。ビッグフットジャパンには何かしらの備えがあると思うけど、この魔法が使えるのはプロトタイプARC装着者だけだからさ、外を出歩くのはかなり危険だと思うよ? 魔法で人が人を攻撃する可能性もあるし……」

 両親はキョトンとした顔で俺を見ているが、すぐさま小春の援護が入った。

「さっきあたしが使った魔法はファイアボール。モンスターを倒すことも出来るけど、プロトタイプARCの人が、人を攻撃したら? さっき父さんを魔法で攻撃したよね? 勘違いだったけど!」

 その言葉で両親は理解したようだ。

「それとさ、現時点での第一目標は『家族全員で生き残る事』だよね? だから無理してビッグフットジャパンに行かないでいいと思う」

 俺がそう言うと、ようやく父さんが得した。

 そしてその日の夜、停電と電話の不通に加え、インターネットが使えなくなった。

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