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コンビニおもてなし 5号店の2 その2

「あのね、新しいお店を二階建てにしてね、一階にコンビニおもてなしを出店してもらえないかな、みたいな?」
 そう切り出してきたマクローコに、僕は最初首をひねりました。

 ですが、すぐにあることに思い当たった次第です。

 マクローコのお店は、コンビニおもてなしが閉店する頃合いからお店を開きます。
 これは、マクローコの美容室を利用するお客さんの多くが風俗街の方々だからなのですが、その腕前が口コミで評判になっているマクローコの美容室には、最近では普通のお店で働いている方々までもがお客様として通っているそうなんですよね。

 で、そのメインの客層である風俗街の方々にお待ち頂いている間に、あれこれ買い物をしてもらえるように、と、魔法使い集落にありますコンビニおもてなし3号店につながっている転移ドアを、その店内に設置しているんです。

 いえね、コンビニおもてなし3号店は、働いているのが店長のエレ以下、全店員が木人形なもんですから、眠る必要がないんです。
 そのため、3号店だけは、この世界で展開しているコンビニおもてなしの中で唯一24時間営業しているんですよ。

 と、いいますのも、この魔法使い集落にありますコンビニおもてなし3号店のメインのお客様の魔法使いの方々は、基本的に気まぐれといいますか、自分中心の生活をなさっておられるわけです。
 そのため、今が真っ昼間であろうが、真夜中であろうが、
「……あ、あの内容について書かれている本がほしい」
 そう思い立つと即座に買い物にやってこられる次第なんです。
 何しろ、コンビニおもてなし3号店には提携している魔女魔法出版の出版物が、ほぼ全て並んでいますからね。
 それを目当てに、この森の中にわざわざ引っ越してきた魔法使いも少なくないほどですから。

 まぁ、実際に買い物に来るのは魔法使い達の使い魔達なんですけど……そんな使い魔達が深夜からずっとコンビニおもてなしの前で列をなして開店を待っているのがなんだか可愛そうで、そのためにコンビニおもてなし3号店を24時間営業にした次第なんですよね。
 それでも、エレ達が木人形と知らないお客さんに
「この店は店員を何時間働かせているんだ」
 などと思われないように、エレ達には必ず休憩を挟むようにお願いしている次第です。

 とはいえ、その休憩中に彼女達が何をしているかと言うと……

 3号店の店の裏に広がっている広大なプラント魔法の木の管理と、コンビニおもてなし3号店が入居しています僕所有の屋敷の掃除などなんです。
 結局、24時間まったく休んでいないわけで……それが木人形の本来の姿だとわかってはいるのですが、少々慣れないといいますか……

 で、そんなコンビニおもてなし3号店の、主に売店の方をご利用になさる事が多かったマクローコの美容室のお客様達なのですが、最近では美容室の常連のお客さんや、その友人の方々が、
「ちょっとコンビニおもてなし3号店までいかせてね」
 と、コンビニおもてなしに行くためだけに来店なさることも少なくないんだとか。

「でね。そんなお客さんのためにも、コンビニおもてなしを一階で開店しちゃって、みんなに喜んでもらいたい、みたいな?」
 マクローコは満面の笑顔でそういいました。

 その話を聞いた僕は、少し考えを巡らせました。

 僕が元いた世界では、コンビニエンスストアの同じ系列の店が同じ地域に集中して出店していくのはよくあることでした。
 これは、同地区に展開することで配送コストを安くあげる意味合いがあるんですよね。
 一見、お互いにお客さんを取り合っているのでは? と思われがちなこの出店方法ですけど、自分の生活圏に近い方の店をよく使用するのが世の常人の常といいますか、よっぽど向かい合って出店でもしていない限りはあまりお客さんの取り合いにはならなかったりするんですよ。

 で、マクローコの美容室の場合ですが……

 マクローコの美容室は、ナカンコンベにありますコンビニおもてなし5号店とは、役場をはさんで東側になります。

 そのため、役場の東側にお住まいの方々の生活圏の中にあるわけですので、役場をはさんで西側にお住まいの皆様がメインの客層であるコンビニおもてなし5号店とは、客層が被っていないはずなんですよね。

 ……確かに、そう考えるとこの話は検討の余地があるかも

 そう考えた僕。
 ナカンコンベは非常に人口が多い都市です。
 そのため、都市の西側にお住まいのお客様をメインの客層にしている5号店であるにも関わらず、コンビニおもてなし系列店の中では最高の売り上げを日々計上し続けているわけです。

「わかった。ちょっと前向きに検討させてくれるかい?」
 僕がそう言うと、マクローコは、
「きゃは! だから店長ちゃん大好き!」
 そう言いながら、再び舌出しダブル横ピースをしていった次第です、はい。

◇◇

 マクローコを見送った僕は、すぐに店舗検討部門の責任者ブリリアンに来てもらいました。
「……というわけで、ナカンコンベの東側にもう1店、コンビニおもてなしを開店したらどうかと思っているんだけど」
 僕の話を聞いたブリリアンは、
「なるほど……確かにそれは一考の余地がありますね」
 そう言いながら、何度も頷いていました。

 ブリリアンも最初は
「ナカンコンベには5号店がありますのに、なんでもう1店?」
 そう言いながら首をひねっていたのですが、僕の説明ですっかり納得してくれたようです。

「では、その方向で検討してみますので2,3日時間をください」
 そう言うと、ブリリアンは早速転移ドアをくぐってナカンコンベに向かっていきました。

 その後方をブリリアンの手伝いをしているメイデンが寄り添いながらついていったんですけど……なんといいますかすっかり仲良しな感じですね。
 最初の頃は奇行が目立ちまくっていたメイデンですけど、今ではすっかり普通になっている次第です。
 それだけ、満たされてるってことなのかもしれません。
 まぁ、あえて何がどう満たされているのかまでは想像しないことにしておきますが。

◇◇

 ブリリアンは、多角的にあれこれ検討した結果を3日後に持ってきました。
「問題ありません。むしろ積極的にお勧めいたします」
 コンビニおもてなし本店の応接室で、ブリリアンは力強くそう言いました。

 彼女のリサーチによりますよ……
 やはり、役場から東側の住人は、コンビニおもてなし5号店をあまり利用していないそうです。
 しかも、ナカンコンベの東側には、ナカンコンベ最大の住宅地『ドリムタウン』があるんですよね。

「あのドリムタウンから街中に向かわれる通勤客の半分が利用くださるだけでも、ブラコンベにありますコンビニおもてなし2号店の倍近い売り揚げが見込めるのではないかと推測いたします」
「へぇ、そんなにか」
 ブリリアンの言葉に、僕は思わず目を丸くしました。

 しかし、あれですね……

 僕が元いた世界でコンビニおもてなしを経営していた頃には、こんな店舗検討部門なんてありませんでした。
 コンビニおもてなしが最盛期だった爺ちゃんの時代も、爺ちゃんが独断で出店を決めていましたからね。
 そのせいで、中には住人が20人ほどしかいない山奥の集落にでっかいコンビニおもてなしを立てたなんてこともあったわけです、はい。
 これがブリリアンですと
「出店しても出張所。あるいはおもてなし2号による移動販売での展開以外はおすすめ出来ません」
 と、きっぱり言ってくれたはずです。

 僕はブリリアンの話を聞きながら、こういった部署の大切さを改めて実感していた次第です。

 そんなわけで、ブリリアンのゴーサインを受けた僕は、さっそく動き始めました。

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