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84 ぜったいサーヤの!

さて、改めてテーブルに広げられたものたちを見る。

まずは小さいマジックバッグ。サーヤにピッタリな大きさの白いポシェットに黄色いお花のボタン。うさぎの編みぐるみのストラップがついている。
既に汚れたり取れたりしないように主神イル様の付与済だ。更に万が一を考えて自動修復と持ち主特定を魔神ジーニ様が施している。

次は手鏡に、柘植の櫛が大小セットで、それぞれ手縫いの美しい和柄の布に包まれている。
『すごいですね、この布。表は綺麗な柄の布で裏はまた触り心地の違う布を縫い合わせてあるんですね。表の生地も素晴らしいけど、裏地も無地なのに光沢があってとっても綺麗。一緒に入ってる布とこの小瓶、中身は油ですか?これらはお手入れ用でしょうか?』
フゥが櫛を包んでいた布を手に取ってしげしげと見つめる。そのフゥの頭の上にはクモのお母さんが、肩や腕には子グモちゃん達が!

ジーニ様も柘植の櫛と手鏡を手に取りうっとり。漆塗りの手鏡はおばあちゃんが黒、サーヤが赤、どちらにも美しい花が描かれている。

〖すごく綺麗ね。櫛も鏡も木の質感とか手触りが凄いわ。木がこんなにつるつるすべすべになるものなのね。手鏡のこの塗りとお花の絵も素晴らしいわ。これから来る職人たちにも作れるかしら?布は…〗
『もうクモさんが興味津々ですね』

クモの親子はそれはもう夢中で見ていた。お母さんに至っては、触ろうとする子グモちゃん達を叩いて止めている。
『サーヤに聞いて、触ってもいいって言われたらにしなさいって言ってるよ~』
ハクがクモさんの通訳すると、みんながくすくす笑う。

『これは大丈夫ですよね』
『そうだな。こっちのポシェットに入れよう』
ギン様とアルコン様が櫛をサーヤのポシェットに入れる。

次は裁縫箱。きっとおばあちゃんの愛用していた物だろう。綺麗な彫刻が施された箱だ。開くと綺麗に整頓されている。
箱自体もこちらでは見ない仕組みなのだろう。クゥやアルコン様が食い入るように見ている。

『凄いな。開いただけで棚が出来上がったようだ』
『仕組みも素晴らしいけど彫り物も綺麗ですね。あっ、これ取り外しもできますよ!』
『ほう。これはすごいな』
やっぱり男は裁縫道具より、機械仕掛けのような箱が気になるのか…

『もう!中身だって凄いわよ!ハサミだけでも種類があるし、この針も凄いわ!他にも色々!糸も色々な色があるけど、端切れの布なんかもあるわ。これは毛糸に編み棒?これは何かしら?凄い!これ伸びるわよ!』
フゥは中に入っている物に大興奮!特にゴムに驚いている。他にも初めて見る美しいものがたくさん入っている。
そして、クモの親子はこちらにも夢中だ。自分でもどうにか出来ないかと思っているようだ。

〖きっと、サーヤのおばあちゃんは、このお道具で、サーヤの身の回りのものを、ひと針ひと針、愛情を込めて作ってくれたのね〗
ジーニ様が、縫い掛けの巾着袋を見つけた。それを手に取り、誰にも聞こえない小さな声で〖ありがとう〗と、感謝の言葉をおばあちゃんに送っていた。

『これも大丈夫ですよね?サーヤが使い方教えてくれるかもしれないですし?』
『でもさ、糸とか使い切ったりしたら困るんじゃないか?なくなったらそれまでだろ?』
『あっ。そうか』
楽しそうにサーヤに教えてもらおう!と言っているフゥにクゥが、でも、と言うと『あっ』と、気づいたようだ。

『そうだな。代用できるものを作る手立てを考える必要があるな』
アルコン様が言うと
『クモさんが、糸は必ず自分たちが何とかするって言ってるよ~』
ハクが、クモのお母さんの言葉をにこにこしながら伝えると、クモさんたちも、親子でうんうん。ってしてます。
『そうか。それは頼もしいな』
アルコン様もにっこり。

『ですが、ハサミや針など、ドワーフが飛びついてしまうのではないですか?箱から何まで、全てかなりの業物ですよね?』

『『『あっ』』』
ギン様の言葉にみんなが固まる。ドワーフはこういう物に目がない。そして、自分たちでも作ろうと、酷い時には分解してしまうのだ。

『それはまずいな』
『『まずいですね』』
アルコン様とフゥとクゥの言葉に、クモさんたちもコクコク頷く。

〖ふふふ…サーヤにはしばらく見るだけにしてもらって、箱と道具に関しては私が自動修復と破壊不可を付与しとくわ。複製魔法も試してみようかしら?でも、異世界のものが複製できるかしら?そもそも、複製したらまずいかしら?まあ、とにかくあとで、主神に聞いてみましょう。それから、ドワーフと鍛冶神には私がし~っかり、言い聞かせるから大丈夫よ〗
フフフフフ…壊せるものなら壊してみなさい。タダじゃ済まさないけどね。

ぞくうっ!
さっきと違う響きの笑い声と、裏に隠れた言葉にみんな震える。

『じゃ、じゃあこれもこっちですね』
クゥが逃げるようにポシェットに裁縫箱を入れる。

ぴゅい『ねえねえ』
きゅい『これは~?』
『これもキレイ~』
赤い箱を指さすちびっこたち。箱には色とりどりの花が描かれている。

『これはなんでしょうね?』
『開けてみよう』
フゥとクゥがパカッと開けると

『あははっこれは』
『間違いないわね』
フゥとクゥが言うと
ハクの頭からちびちびっこ達が
ぴゅいきゅい『『うん!』』
『『絶対!』』
『『『サーヤの!』』』
『間違いないね~』

箱の中は多少分けられているものの、色とりどり、色々なものがごちゃっと入っていた。

『ふふふ 間違いないな』
『そうですね』
『なんかほっとするね~』
アルコン様とギン様、ハク親子が楽しそうに笑っている。

『この箱、何で出来てるのかしら?紙?布?しっかりしてるのにふわふわしてるわ。木ではないわよね?お花の模様がとっても可愛い』
フゥは箱の蓋をうっとりと見ている。

『すごいな。しかもこれ二段になってるよな?』
そう言ってクゥが一段目を取り出したとたん

『『〖 ぷっ〗』』

覗き込んでたみんなが、思わず吹き出した。

さっきおばあちゃんの物を見ているだけに差は歴然。
下の段はサーヤの裁縫道具のようだ。ハサミと針刺しと糸、可愛いボタン、端切れの布に、毛糸に編み棒にかぎ針。ハサミなどは先にちゃんとカバーがついてはいるが、なにか違うのだ。

『なんか、サーヤだね~』
ハクの言葉に、みんな笑いながらうなづいた。
上の段には四角いカラフルな紙、ハサミや筆記用具、何か分からないものが入っている。
決まったところにあるようで雑然としているのだ。

『これもこっちですね』くすくす
『ふふふ、間違いなくサーヤのだものね』くすくす
クゥとフゥがくすくす笑いながら、箱を元に戻してポシェットに入れる。
〖そうね〗
みんなが笑っている。

『じゃあ、今度はこれね。さっきの箱と似てるわね。ちょっと模様が違うかしら?』
『中はどうだ?』
パカッと開けると、

『ふふふ これも、サーヤのね』
『宝物ってところか?』
中は紙で作った作品や、綺麗なガラスなど色々なものが入っていた。

『これも大丈夫かしら?』
『待ってください。これは?』
和やかに箱の中を覗いていたフゥとクゥ、これも大丈夫だと思った時、クゥが何かを見つけた。

『ジーニ様、これは?』
クゥがジーニ様にそれを渡すと
〖これが写真よ。写っているのは昔のサーヤとおばあちゃんね。そしてこれが写真を集めて貼ってあるアルバム〗

そう言って分厚い本のような物を出した。

『これが、前のサーヤ』
『優しそうなおばあちゃんだな』
ギン様とアルコン様が見つめる写真には、黒髪黒目の今より少し大きなサーヤが嬉しそうにおばあちゃんに抱きついている姿が…

〖迷うわよね〗

みんな黙り込んで考え込んでいる。

『写真は時期が来るまで隠しては?』
ギン様がここは慎重にすべきではと…
『宝箱のもか?』
アルコン様が宝箱の写真を手に言う
『できれば…』
〖そうね。写真は時期をみましょうか〗
写真は決まった。では、

『宝箱はどうする?渡して写真だけないことに気づいたら?』
『そうですね。いっそ宝箱ごとしまいますか?』
アルコン様が宝箱自体をどうするかと次なる問題を提示した。

『最初の手紙を渡す時まで、しまっておくのはどうですか?』
フゥが提案するが、
『でも、手紙だっていつ渡せるか分からないぞ?下手したら何年も先になるかも。そうしたら、いつまでもたっても渡せない。それぞれ別に考えるべきじゃないか?』
『そっか⋯そうよね』
クゥがそれぞれ時期を見た方がいいのでは?と、意見を述べた。

『確かに、クゥの意見も一理あるな。⋯そうだな、裁縫箱などを渡した時のサーヤの様子をよく見よう。その後、再度みんなで見せるべきか相談すればいい』
『それに、サーヤの様子をしばらく見て、定期的に話し合っても良いかもしれませんね』

『『はい』』

アルコン様とギン様もクゥの意見に賛同しました。

〖じゃあ、この箱とアルバムはこちらね。あとは、おばあちゃんの日記と手紙も。渡す時期は、折を見て話し合いましょう〗
そう言ってジーニ様は封印する方のバッグにしまう。

『そうですね』
『あとは…』

大きな箱に一見ガラクタにも見えるようなものがたくさん入っている。
『これはなんでしょう?遊び道具ですか?』
『不思議なものがたくさんね』

サーヤが見れば、これは缶ぽっくり!これは竹とんぼ!これはお手玉!などと教えられただろうが、異世界の方たちには謎な物体…

『これはいいんじゃないか?遊び道具のようだしな』
『そうですね。サーヤに使い方を聞いて、ハクたちにも使えそうなら真似をして作ってもいいのではないでしょうか?』
アルコン様とギン様がとりあえず明日サーヤに見せましょうと言うと
〖じゃあ、これも大丈夫ね。クゥお願い〗
『はい』
クゥがポシェットへしまう。

〖じゃあ、あとはこれね〗
どどん!と重ねられたノート。

『なんですか?本?』
『ずいぶんたくさんありますね』
フゥとクゥがびっくりしている。一冊とって中を見てみれば、文字がびっしりと並んでいて、またびっくり。時々解説するような絵も書いてあるようだ。

〖いうなれば、おばあちゃんの愛情と努力の結晶。かしらね〗
ジーニ様が表紙を撫でながら言う。

『『え?』』

〖料理の作り方をまとめたものよ。全部、サーヤのための〗

それは何十冊もあった。隣のおじさんも真っ先にこれを探したそうだ。

『すごい。こんなにたくさん』
『でも、俺達には読めないな』
フゥとクゥが残念そうに言うと

『サーヤが読んで、教えてくれたらいいんじゃない~?』
と、ハクが!そうするとちびっ子たちが
ぴゅきゅ『『きっとおいしいよ!』』
『『材料集めるよ!』』
『『『てつだうよ!』』』
楽しそうに、騒ぎ出した。

〖そうね。サーヤに教えてもらいましょうか〗にこ
本当は後で、私の魔法でみんなにも読めるようにしようと思っていたけど、やめておきましょうか。

『じゃあ』
『こっちですね』
フゥとクゥは、大事そうにポシェットにしまう。

『喜んでくれるかな~?』
ぴゅきゅ『『だいじょうぶ!!』』
『『きっとよろこぶよ!』』
『『『ぴょんぴょんしちゃうかも~』』』
『そうね』
『明日が楽しみだな』
ちびっこたちとフゥとクゥの笑顔が、明日の成功を約束しているように見えた。

〖ふふ。きっと大丈夫ね〗
『そうだな』
『ええ。きっと』

みんなの長い一日が終わった。
さあ、あとは明日!

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