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「え?」
 どうしてそんなことを言われたのかわからなかった。気遣うような声だったものだから。
「いや、元気がなくないか」
 言われてぎくりとした。それほど態度に出ていただろうか。
 しかし気付かれても仕方がないのかもしれない。なにしろ幼馴染、お互いのことはそれなりに把握している。体調が悪かったり、機嫌が悪かったり。そういうときにだって何度も行きあたっているのだから。
「そうじゃないけど……」
 言おうか迷った。
 でも、言うことにした。別に知られて困ることでもないのだから。
「ちょっと悲しいことがあったの」
「なんだ? いじめられたか? それなら俺がそいつに一発お返しを」
 ライラが言うなり、眉をしかめたリゲルに物騒なことを言われるので、ライラはちょっと焦ってしまう。
 でも、その中でも確かに嬉しいと思ってしまった。自分のことを大切に思ってくれると思えてしまったので。
「アクセサリーを壊しちゃって……」
「あ、ああ、なんだ……それでしょぼくれてたのか」
 確かに『いじめられる』よりは遥かに軽い事態ではあるが、悲しかったことに違いは無い。安心するように言われたことには膨れてしまう。
「しょぼくれてたなんて」
「そういう顔、してたぞ」
 言われてしまえば言い返せない。鏡を見なければわからない自分の表情は、リゲルのほうがよくわかっただろうから。
「せっかく気に入るのを見つけたのに、チェーンが切れちゃったの」
「どうなったんだ? ちょっと見せてみろよ」
 言われて気付いた。リゲルは手先が器用なのだ。庭師など、手を使う仕事をしているのだから当然かもしれないが。
 もしかしたら、あのネックレス、直るのかな。
 ライラの胸に、一気に期待が溢れた。こういう形で見せたくはなかったのだけど、もしも直るのならすごく嬉しい。
「持ってくる。あ、お部屋にあるから入って……」
 窓越しに話していたのだ。流石にここでは、と思って促したのだけど、リゲルはちょっと気まずそうな顔をした。
「や、ちょっと汚れてるから……せめて玄関で」
 気になるのは服だろう。仕事着である上に、仕事上がりだからだろう、土がくっついている。
「別に構わないのに」
「いや、悪いだろ。いいから持って来いよ」
 そういうところは律儀なのだ。短くない付き合いだというのに。
 なんだかおかしくなりつつも言葉と気遣いに胸をあたためられて、自室へ向かうライラの足取りは、いそいそとしてしまった。引き出しの中、更にアクセサリーを入れる小さな箱に入れていたネックレスを取り出して、玄関へ戻る。

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