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大食い競争

 俺は食べる事が大好きだ。生まれた時から今までよほどの事情がない限り、朝、昼、晩と必ず3食食べて生きてきた。一日のうちで一番の楽しみは今日何を食べようか考える事だ。そんな俺が今日は朝ごはんをぬいたのだ。食べたいという衝動をなんとか抑えつけて、今この場に立っている。今日ここで何が行われるかというと、寿司の大食い競争があるのだ。数ある食べ物の中でもラーメンと寿司は俺の大好物だ。しかも今日食べられる寿司は最高級のネタを使った極上の寿司だ。胸が躍らないはずがない。今日は寿司で腹を満たすために、仕方なく朝食をぬいたのだ。
 朝食をぬいたせいもあってか、俺はずっとよだれを垂らしながら、今日食べる寿司の事ばかり考えてしまう。げひ、げひひひひ…
 楽しみでしょうがないのだが、もし、順位が低いと自分で金を払わないといけないので、必ず上位にくいこまなければならない。
 今日開かれる大会は全部で3種目用意されている。
 まず一つ目が大食い競争だ。
 二つ目が誰が一番早く部屋の温度を魔法を使って30度から15度に下げる事ができるかを競う種目だ。地味な競技だが、魔力が相当強くないと1番になるのは難しい。
 三つ目が酒を何杯飲めるかを競う種目だ。毎回急性アルコール中毒になって運ばれる人や吐いてしまう人が多数出てしまう危険な競技だ。腹いっぱい食べた後にこの競技にチャレンジするのはかなり厳しい。
 今日の大会にはナレアは来ていない。ナレアは大食いが苦手で酒もあまり好きではないのだ。その代わりにウスロフを呼んである。ウスロフはかなりの大食いだと自分で言っていた。

「早く寿司食べたいなぁ…どんな味なんだろう?」

 ウスロフが目を輝かせながら言った。

「楽しみだよなぁ。俺今日の朝飯ぬいてきちゃったよ」
「俺なんか昨日の晩飯すら食ってないぜ。もうおなかペコペコ」
「それはスゴイな!俺だったら耐えられないよ」
「それだけ気合入ってるって事!」
「おっ、そろそろ始まるな!行こうぜ!」

 俺達は席についた。
 今か今かと待ち望んでいた時がついにやってきた。
 時刻は午後の12時半。一斉に大食い競争がスタートした。
 俺はまずマグロを食べた。
 さすがは最高級!舌の上でとろけるようだ!本当はじっくりと味わいながら食べたかったが、競争なのでそういうわけにもいかず、急いで食べた。焦りすぎてちょっと喉につっかえそうになりながら、とりあえずマグロを食べきった。
 次はウニだ。この独特の味が大好きで寿司屋に行けば必ず食べている。
 ん~、うまい!やっぱりウニは最高だぜ!
 俺はウニを流し込み、次の皿に手をつけた。
 この調子でどんどん食べ続け、気が付けばすでに20皿食べていた。早くもギブアップする人達が出始めている。俺もちょっと腹がふくれていたが、まだまだいける。少しペースは落ちたものの、ガツガツ食べ続けた。
 そして、40皿食べ終わった頃、腹はパンパンに膨れ、かなりきつくなってきた。
 おかしいなぁ…いつもだったらまだまだ食べられるのに、もう限界だ…
 はっ!まさか!魔法を使われているのか?そうだ、そうに違いない!
 俺は審査員に相談した。

「あの、もしかしたら俺になんらかの魔法がかけられている可能性があるんですが」
「誰かが不正をしていると?」
「はい」
「私共はずっと不正が行われていないか調べていますが、何もひっかかっていませんよ。勘違いなのでは?」
「そうなんですかねぇ…」

 俺は納得できない思いを抱えながら、次の寿司に手を伸ばした。しかし、もう寿司を見るだけで吐きそうになってくる。最初はあんなにおいしく食べていたのに、今は寿司を見たくもない。
 もうここまでだ…さすがにもう食べられない…よく頑張ったがギブアップしよう…
 周りを見渡すと、俺を含めてまだ5人残っている。5番だったらまぁいいか…
 俺はギブアップを宣言した。すると、他の4人も全員同時にギブアップした。
 なんだ、もうみんな限界だったのか!
 大食い競争は終わり、席が離れていたウスロフがやってきた。

「すげぇじゃねぇかよ、ロテス!お前がこんなに大食いだったなんて知らなかったよ」
「まぁな。でもお前みたいに早々と諦めてた方が良かったかも…く、くるしい」

 俺は腹を押さえながら言った。

「そうだろ?無理しすぎなんだよ、ロテスは」
「次の競技までちょっと時間あったよな?」
「ああ、1時間ぐらい休憩はさむんじゃなかったか?」
「俺はもう一歩も歩けないからここでじっとしてるよ」
「そうしろよ。俺も特に行くとこもないからここにいる」

 1時間が経ち、次の競技の温度下げ競争が始まった。
 皆次々にチャレンジしている。今年はレベルが高く、これまでの記録を平均すると大体50秒ぐらいだ。ちなみに今日の最高記録は35秒である。俺が目指すのはもちろん一番だ!この記録を必ず超えてやるぜ!
 しばらくして、俺の順番が回ってきた。俺は食べすぎでまだ少し苦しいが、なんとか歩き、部屋に入った。
 スタートの合図が出た。
 俺は魔法で冷気を放った。徐々に部屋の温度が下がっていく。
 よし、いいぞいいぞ、この調子!
 温度は順調に下がっている。このペースでいけば一番も狙えるタイムだ。
 あと3度!おーし、ラストスパートだーーー!!
 俺はペースを上げたつもりだったがどういうわけか温度が下がらない。
 ん?どうしたんだ?温度計の故障か?
 少ししてやっと温度が下がり始めた。一番も狙えるタイムだったのに、結局15度に達するのに要した時間は50秒だった。

 絶対おかしい!

 俺は審査員に文句を言った。

「この温度計壊れてるんじゃないですか?調べてください」

 審査員は温度計を調べ始めた。5分ぐらいすると審査員が口を開いた。

「どこも壊れてませんが」
「そんなはずはないんですけど…わかりました」

 俺はブツブツ文句を言いながらウスロフと合流した。

「途中まで順調だったのに残念だったなぁ、ロテス」
「絶対温度計が壊れてると思うんだけどなぁ…」
「でも審査員が見ても何も異常はなかったんだろ?もう諦めるしかねぇよ」
「そうなんだけど、どうしても納得できなくてなぁ…」
「もう俺達にできる事は愚痴を言う事ぐらいだよ」
「まったく、どうなってんだよ」

 俺達が愚痴を言ってるうちに最後の種目が始まる時間になった。

「それでは準備はいいですか?よーい…スタート!」

 皆一斉に酒を飲み始めた。俺は酒が弱いわけではないが、酒豪というわけでもないので、この種目には自信がなかった。それでもなんとか頑張って酒を流しこんだ。
 だんだん酔いが回ってきて、目の前がグルグル回り始めた。
 おっ、きたか…今日はなんだか酔いが回るのが早い気がする…
 本当はこのあたりで、やめておくべきだったのだが無理をして限界を超えて酒を飲んでしまった。
 うげーーー…気持ち悪い…吐きそうだ…もうダメ…
 結局この種目の俺の記録は平均より少し下ぐらいだった。

「大丈夫か?ロテス」

 ウスロフが俺の背中をさすってくれている。

「こんなに飲んだの初めてだ…マジで気持ち悪い…」
「つらいよな?でも自分が悪いんだから仕方ない」
「もう二度と限界超えて飲まない」
「それがいい。俺ちょっとトイレ行ってくるわ」

 ウスロフは我慢していたようで急いでトイレに向かった。
 ちょうどウスロフと入れ違いで妙な男が俺の目の前にやってきた。

「よぉ、苦しそうだな。俺の事は覚えているかい?」
「誰だっけ?」

 俺はベロベロに酔っぱらっているので、頭が正常に機能していない。

「忘れちまったのか?前にお前の事務所に依頼しに行って断られたダベスタだよ。あの時お前が俺の依頼を引き受けてくれていたら、俺の人生はバラ色だったのによー」
「すまん、本当に覚えていない」
「ふざけた野郎だぜ。まぁいい。あの時の仕返しで今日はちょっと邪魔させてもらったぜ。気づいてたか?」
「やっぱり何かしてたのか!?」
「そうだ。俺が邪魔してなければ一番とれてたかもな」
「この野郎!!」

 俺はダベスタに殴りかかった。しかし、酔っていて狙いが定まらず、簡単に避けられてしまった。

「くそがっ!」

 そう言うとダベスタは俺の腹をえぐるようにパンチをかました。

「うげぉ」

 ただでさえ苦しいのにこれはキツイ…
 俺はその場に倒れてしまった。
 ダベスタは俺を蹴とばし始めた。

「おら、おら!」

 痛い…苦しい…気持ち悪い…誰か…助けて…

「これでトドメだ!」

 ダベスタが最後の一撃をくらわそうとしたその時!

「ボラステ!」

 ダベスタの体に雷が落ちた。ダベスタは一撃で倒れてしまった。

「おい、しっかりしろ!ロテス」

 ウスロフが駆けつけてくれたようだ。
 俺はもう意識が朦朧としているがウスロフが助けてくれた事だけは分かったのでなんとか口を開いてお礼を言った。

「あ…ありがとう…ウスロフ」

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