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ひったくりと病気の娘

 午前6時半。
 バリニンが俺の体を揺さぶった。

「うーん、もう朝か。今日も起こしてくれてありがとな、バリニン」

 俺はベッドから起き上がると、カーテンを開けた。今日はとても気持ちのいい快晴だった。なんだかいい事が起こりそうなそんな気分にさせてくれる素敵な朝だ。
 俺はすぐに朝食を食べた。料理を作るのが面倒なのでいつも野菜を何も調理せずに丸かじりしている。本気で料理を作ればそれなりにうまいのだが、どうしてもやる気が出ず、いつもこんな感じの食事になる。まぁ特に不都合もないので、別にどうでもいいのだが、そろそろ結婚でもして嫁さんに温かい料理を作ってもらうのも悪くないなぁなどと思ったりもする。
 朝食を済ませると、顔を洗い、歯磨きをした。いつも固めのはぶらしでゴシゴシと力をいれて磨いているので、逆に歯に悪いような気もするが、そんな事は気にしない。このやり方が気持ちいいのだ。
 歯磨きが終わると、服を着替える。全然オシャレをしようという気にならないので、いつも同じような服ばかり着ている。服なんて着られればなんだっていいのだ。
 服を着替えると、家を出た。
 ふー、今日は気分がいいぜ!なんか幸せな出来事が俺を待っているような気がする!
 と、思ったのも束の間。
 いきなり手に持っていた財布を後ろからひったくられた。

「コラ―ーー!!」

 俺は相手の重力を重くする魔法を使ったが、プロテクトをかけているらしく、効かなかった。相手の足元に魔法で突起物を作り、転ばせる作戦に変えてみると、うまくいき、相手は派手にすっころんだ。
 ひったくり犯に近寄り、財布を取り返した。ひったくり犯はまだ15才ぐらいの少年だった。

「なんでこんな事をした?」
「飯を食っていく金がなくてつい…本当にすみません」

 俺はこの少年の記憶を探った。この少年は裕福な家庭の一人息子でスリルを求めて、ひったくりを繰り返している常習犯だという事がすぐにわかった。

「俺の前で嘘は通用しないぞ。お前は一度ちゃんと罰を受けるべきだ」
「そんな…勘弁しれくれよ!つい出来心でやってしまった初めてのひったくりだったんだ!許してくれよ!」
「それも嘘だろ?今からお前を警兵隊に引き渡す」
「ひどい…」

 俺は警兵のポーロンにテレパシーで連絡をとり、すぐに来てもらった。

「二度と同じ間違いを犯さないようにしっかりと教育してくれ、ポーロン」
「ああ、任せとけ!ほらっ、行くぞ!立て!」

 ポーロンは引きずりながら、少年を連れて行った。
 事務所に着くと、ナレアが既に来ていた。

「おはよう、今日は遅いじゃん」
「おはよう。実はさっき財布をひったくられちゃってさ。犯人はちゃんと捕まえたんだけどね」
「そうだったんだぁ。朝からついてないねぇ」
「まぁこんな日もあるさ」
「そうね。人生って色々あるから面白いんだもんね!」

 俺達は挨拶をすませるとさっそく仕事にとりかかった。今日も頑張るぞ!
 2人とも夢中で仕事をしていたが、入口の鐘がなったので、ナレアが玄関まで行き、扉を開いた。

「どうぞお入りになって下さい」

 ナレアが客を誘導した。

「はい」

 客は応接室に入ってきた。40代ぐらいのおばさんだ。なにやら悲しい顔をしている。ここに来る客はなんらかの悩みを抱えて来る客は多いが、その中でも今日の客は特に深刻度が高そうな感じがした。俺は顔をひきしめた。

「どうされましたか?」
「私には一人の娘がいるんですが、その大事な一人娘がある病にかかって毎日苦しんでいるんです。医者にみせたところ、ある薬を作ればその病気を治せると言われたのですが、その薬を作るのに必要なある一つの材料の入手がかなり困難なんです。その材料というのはアカンベスという強力なモンスターの心臓なんですが、どなたに頼んでもそのモンスターは倒せないと言われ、断られてしまいました。やはりこちらでも引き受けて頂けないんでしょうか?」

 アカンベスとは硬いうろこを身にまとった黒色の皮膚をしたワニ型のモンスターである。とても手ごわい奴だ。しかし、絶対倒せないというわけではないと思う。かなり危険ではあるが、このおばさん相当困っているようだし、引き受けてあげるか。

「ウチでは多分できると思いますよ」
「それは助かります。本当に困っていたんです。どうもありがとうございます」

 こうして俺とナレアはアカンベスの生息している地域に向かった。
 アカンベスは普通のワニとは違い、川に生息しているわけではない。草むらを好んで生活しているもの達が大多数だという。
 長い旅路をへて、俺達はいかにもアカンベスが潜んでいそうな場所まで辿り着いた。どうやってアカンベスを探すのかというと、実は探すのではなくおびき寄せるのだ。モンスターが好む匂いを放つ魔法を使って、引き寄せるのだ。しかし、この、魔法を使うとアカンベス以外のモンスターも反応してしまうので、望まぬ争いが起きてしまうかもしれないが、その程度のリスクは仕方ないだろう。
 俺はさっそく魔法を使い、モンスターをおびき寄せた。
 まず初めにひっかかったのは、かまきりのようなモンスターだ。体が大きいので裂かれるとただではすまない。

「面倒な奴が出て来たな」
「私がやるわ!たまには活躍しないと!」

 そう言うとナレアは構えをとった。

「ハミルーン!」

 ナレアは風魔法を使い、見事に攻撃がモンスターに直撃した。
 モンスターはあっさり倒れた。

「やったー!」

 ナレアが喜んで、モンスターに背を向けると、モンスターは自分の体の一部である鎌をナレアめがけて投げつけてきた。

「危ない!」

 俺はナレアの体を突き飛ばした。
 間一髪ナレアは難を逃れた。
 最後の力をふりしぼった攻撃だったようで、この後モンスターは動かなくなった。

「俺がいなかったら大けがしてたな」
「ほ、ほんとは気づいてたわよ」

 ナレアは目を泳がせながら言った。

「それならいいけど」

 俺は再びモンスターを引き寄せる魔法を使った。
 すると、今度は大型のねずみに似たモンスターが現れた。

「今度は俺がやろう」

 俺が魔法を使おうとした瞬間、危険を察知したようでモンスターは逃げて行った。

「なかなか賢い奴だな」
「戦って勝てないってわかるだけ大したものね」

 それにしても肝心のアカンベスがひっかからないなぁ。もしかしてこの辺りにはいないのか?それともこの魔法には反応しないのか?
 俺はかすかに湧いてくる疑問を抱えながら、またしてもモンスターをおびき寄せる魔法を使った。
 しばらくするとやっとお目当てのアカンベスがやってきた。見るからに強そうだ。ちょっとでも気を緩めるとやられてしまう。気を引き締めて、のぞまなければ!

「やっとおでましね。まず私が様子を見るわ!へロスタス!」

 ナレアは岩石魔法を使い、岩をアカンベスにぶち当てた。

「よし!決まった」

 ナレアはガッツポーズをしたが、アカンベスは平気で動き回っている。効いていないようだ。

「ダメみたいだな。俺がやってみよう。ボラステ!」

 雷がアカンベスの体に直撃した。しかし、アカンベスはピンピンしている。

「なんて頑丈な奴だ…しょうがない、奥の手だ!ボロデスタ!」

 ピカッと光った。
 この魔法で倒せなかった奴はいない。今度こそは決まっただろう…
 予想通りアカンベスはひっくり返った。

「よっしゃー。アカンベスを倒した!さっそく心臓をいただこう」

 俺達はアカンベスに近づくと、アカンベスはムクッと起き上がり、俺達を睨みつけた。
 ん?体が動かない…アカンベスはこんな魔法を使う事ができたのか!?
 アカンベスは口をあけて近づいてきた。
 マズイ…非常にマズイぞ!このままじゃやられる!
 俺はなんとか体を動かそうとしたが、ビクともしない。
 アカンベスはあと5メートルの所まで迫ってきている!
 とうとう死ぬのか?俺…
 絶望した瞬間!

「ルーベオン!」
 
 ドゴーーーン!!

 ものすごい轟音と共にアカンベスの体が光り輝いた!
 そして今度こそアカンベスは動かなくなった。
 アカンベスが意識を失ったので俺達にかかっていた魔法はとけた。

「大丈夫か!?ナレア、ロテス」
「ありがとうヒロル。また助けられちゃったな」

 俺はおじぎをしながら言った。

「ありがとねヒロル。でもどうしてここにいるの?」

 ナレアが疑問を投げかけた。

「ここら辺は修行でよく来る所なんだ」
「アカンベス相手に修行してるの?」

 ナレアは目を見開いて言った。

「そう。だけどアカンベス程度だと私の修行相手にはちょっと役不足なんだけどね」

 どんだけ強いんだよ、ヒロルって…

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