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迷子と変身詐欺

 朝の陽ざしを受けながらお気に入りのコーヒーをじっくり味わって飲んでいる。とても幸せな時間だ。最近お客さんが少ないが、こうして幸せな時間を堪能できるならこれはこれでいいのかもしれない。イスに座りリラックスしていると入口の鐘を鳴らす音が聞こえた。 
 おっ、お客さんかな?久しぶりだな。ナレアがドアを開けた。すると、立っていたのは6才ぐらいの小さな女の子だった。

「どうしたのかな?お嬢ちゃん」

 ナレアは腰をかがめて女の子に話しかけた。

「初めまして、私ターリンといいます。ママとはぐれちゃったんです。探してもらえませんか?」

 ほう、小さい子供の割にしっかりとした会話ができるんだな。

「それは困ったわねー。よしっ、お姉ちゃん達が探してあげるね!」
「わーい、ありがとう」
「そういうわけだからロテスお願いね」
「わかったよ」

 親を見つけたらちゃんと金を払ってくれるんだろうなぁ。ウチは慈善事業をやってるわけじゃないんだから当然金銭を要求する権利がある。でも、こんな子供とは契約を結べないから結局タダ働きになっちゃいそうな気がする。まぁ大して労力も使わないから別にいいか。
 俺は少女の記憶を探った。親の顔が見えてきた。顔さえわかればテレパシーで話しかけられる。
 俺はターリンの親の脳内へ直接話しかけた。

「ターリンちゃんのお母さんですよね?今ウチでターリンちゃんを預かっています。なるべく早く来て頂けませんか?」
「よかった…ずっと探していたんです。どこに行けばいいんですか?」
「2丁目の24番地です」
「わかりました。今すぐに行きます」

 ターリンのお母さんは、すぐ近くにいたようで10分ぐらいでウチにやってきた。

「本当にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「いえ、いいんですよ。それが仕事ですから」

 仕事なんだから金を払えというメッセージを込めて言ってみた。

「あっ、私ったらうっかりしてましたわ。お値段はおいくらかしら?」

 ものわかりのいい人で助かった。

「2000ヘラスになります」
「わかりました」

 お母さんは金を俺に渡した。

「ありがとうございます。それではお気を付けて」
「はい。失礼します」

 ターリンとお母さんは手をつないで出て行った。
 ふーっと一息ついてイスに腰掛けると、鐘を鳴らす音が聞こえた。
 ターリン親子が何か忘れ物でもしたのかな?俺はドアを開けた。すると60才くらいの老婆が立っていた。

「どのようなご用件でしょうか?」

 俺は老婆に尋ねた。

「詐欺の被害にあってしまいお伺いしました」
「ほう、詐欺ですか。詳しく聞きましょう」
「3日ほど前の事なんですが、孫が慌てた様子でウチに来たんです。何事かと思って聞いてみたら孫が投げたボールが花瓶に当たってしまい、壊してしまったので弁償してほしいと言われたそうなんです。しかし、孫はお金なんて持っていないので私が代わりにお金を払う事になりまして、孫にお金を渡したんです。驚いたのは次の日です。孫にちゃんとお金を払ったのか聞いてみたら、払ってない、花瓶を割ってなどいないし、私の家に来てもいないと言うのです。私はその時に詐欺にあったと気づきました。何者かが孫に化けてお金を盗んだのです。私もう自分が情けなくて…」

 そう言うと老婆はうつむいた。

「そうでしたか。お金を取り返せるかどうかわかりませんがなんとか犯人をさがしてみます」
「お願いします。私のような被害者をもうだれひとり出したくはありません」

 俺はさっそく老婆の記憶を覗いた。老婆と遊んでいる本物の孫の姿が見える。ほうほう、こういう顔か。次に偽物の顔を見た。なるほど騙されるわけだ、本物と偽物の顔はまったく同じなのだ。誰だってこんだけそっくりな人が現れたら本人だと勘違いしてしまうだろう。本人に聞く以外本物かどうかを確かめる方法はない。
 しかしこれだけの手がかりでは犯人の特定は難しいな。仕方ないポーロンに聞いてみるか。
 ポーロンとは俺の昔からの友達で今は治安を守るため警兵隊に所属している。たまに一般人には教えてはいけない機密情報を流してくれるいい奴だ。

「ポーロン聞こえるか?俺だ、ロテスだ」

 俺はポーロンの脳内に直接話しかけた。

「おお、ロテスかー、久しぶりだなー。元気だったか?」
「元気にやってるよ。今ちょっといいか?」
「いいよ。どうした?」
「孫に化けてうまく騙して金を盗んだ奴がいるんだけど、それと似たような事件ってあったりするか?」
「ああ、変身詐欺の事か。それだったらここ1週間で3件も起こってるよ。どういうわけか全部6丁目のテヌス川の川沿いの民家が狙われてるんだ」
「わかった。情報ありがとな、今度飲みに行こう」
「ああ、楽しみにしてるよ」

 俺とナレアはすぐに6丁目に向かった。
 6丁目に着くと片っ端から民家を回って、怪しい奴に気を付けるように警告した。
 6丁目の民家を半分ぐらい回った頃、警告するため民家に近づくと1人の男が民家の人と話をしていた。

「花瓶を割っちゃって弁償しないといけないんだよ!頼む、お金ちょうだい!」

 コイツだ!いや、はやまるな。この人が本物だという可能性も少なからずある。

「おばあさん、その人にお金をあげたらダメですよ!この人偽物です!」

 そう言うとナレアは男を睨みつけた。その人が本物だったらどうするんだよ…

「ちくしょう!」

 男はすぐに逃げ出した。どうやら本当に偽物だったようだな。

「待ちなさい!」

 俺達は追いかけたが、相手は結構足が速い。なかなか追いつかず川まで来てしまった。
 ここで男は変身をといた。なんと大型のカワウソ型のモンスターだった。それで川沿いの民家ばかり狙っていたのか。川に入られたら追いつく事はほぼ不可能になる。俺は届かないかもしれないが魔法を使った。

「ダバシャ!」

 いくつかの水滴の弾丸がモンスターに当たった。なんとか動きを止める事ができたようだ。
 俺達はモンスターに近づいた。

「おいお前!奪った金はどこにある!?」
「ア、アジトにある…ちゃんと返すから助けてくれ」
「もし嘘だったら分かってるだろうな?」
「は、はい」

 俺達はアジトに案内させた。モンスターの話は本当だったようでちゃんと金はあった。金を全て没収して、盗まれた人達に無事に返す事ができた。

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