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筋力自慢大会

「1…2…3…ふー、しんどいぜ」

 ベンチプレスを3回行い、2分ぐらい休憩をとる。そしてまた3回持ち上げ、休憩をとる。これを全部で3セットやっている。
 今まで色んな筋トレ法を試してきたが、この方法が筋力をアップさせるための最善の方法であると実験の結果から明らかになっている。筋トレの仕方を間違えると全然筋力が上がらないどころかケガをしてしまう事もあるので気を付けなければならない。
 俺もこの方法にたどり着くまでずいぶんケガをしてきた。肩を痛めたり、肘をやってしまったり。手首のケガはすぐによくなるのだが、肩を1回悪くしてしまうとなかなか治らず、3週間ぐらい筋トレができない事もあった。完治してないのに筋トレを行ってしまうと逆効果なので絶対安静にしていなければならない。
 ケガをしている時以外は毎日かかさず筋トレを続けてきた。もし1日でもやらない日があればすぐに弱くなってしまうのだ。
 重いものを持ち上げるというのは苦しい作業ではあるが、1回もそれが嫌だと思った事はない。正しい方法で努力すれば、必ずいい結果が出るのでやっててとても楽しいのだ。
 ナレアも女にしては珍しく筋トレが大好きだ。毎日筋トレをしているが、筋肉がムキムキというわけではない。スラっとした細身なのにものすごい力が出せるのだ。
 今日も一緒に筋トレをして汗を流している。

「やっぱり筋トレって楽しいね!」

 そう言うとナレアはダンベルを地面に置いた。

「ああ、毎日やってるけど全然飽きない。一生続けようと思ってるよ」
「私もー!いったいどこまで強くなるのか楽しみ!」
「目指すは世界最強だな!」
「そうね!そのためにももっともっと頑張らなくっちゃ!」
「あんまりはりきりすぎてケガするなよ」
「もう二度とケガしたくない」
「己の限界をしっかりと見極めないとな」

 この後もしばらく筋トレを続け、きりのいい所で終わりにした。そして、筋力を大幅に上げる事ができるという整体師の店までやってきた。いったいどんな処置を施されるのか楽しみだ。
 整体師は2人いて、両方とも女性である。俺とナレアは別々の部屋でベッドに寝かされ、処置を受けた。

「体に力をいれず、リラックスして下さい」

 整体師は俺の体に魔法をかけ始めた。なんだかとても気持ちがいい。もし痛かったら嫌だなと思っていたが、杞憂に過ぎなかった。全身にくまなく魔法をかけると急に体が熱くなってきた。
 おお、なんだか筋力が増強されてるような気がするぜ!

「これで強くなったんですか?」
「いや、まだです。これからある液体に浸かってもらい、そこで筋力がアップします」

 なんだまだだったのか。
 俺は妙な液体の中に入り、肩まで浸かった。ちょうどいい水温だ。
 20分ぐらい浸かっていると整体師から声がかかった。

「はい、もうあがっていいですよ。これで全て終了です。見違えるほど強くなりましたよ」
「え?そうなんですか?何も変わったような気はしませんが…」
「大丈夫です。あなたは確実に強くなっています」
「そうですか。ありがとうございました」

 俺たちは家に帰り、さっそく試してみた。すると、処置を受ける前と比べて30キロぐらい重いバーベルを持ち上げる事ができた。普通30キロ重くするのに早くても20日ぐらいかかる。

「これはすごいな!こんなに強くなるなんて!」

 俺は思わず喜びの声をあげた。

「こんなに簡単に強くなれるなんて信じられない」

 ナレアも大喜びだ。

「でも1年に1回しか処置を受けられないみたいだな。体への負担が大きいらしいから」
「そうなんだ…じゃあまた来年も絶対受けに行こうね!」
「ああ、毎年かかさず行く事になりそうだ」

 ナレアは時計を見た。

「あっ、そろそろ会場に行かないと!筋力自慢大会が始まっちゃうよ!」
「おっ、もうそんな時間か!急いで支度しよう」

 俺たちはすぐに準備を整えて、会場へ向かった。会場には多くの猛者どもが集まっていた。筋肉がムキムキしている人達ばかりだ。俺たちのような細身の人間はあまり見当たらなかったがそんな事は気にしない。外見と筋力が関係ない事は分かっているからだ。筋肉がムキムキでも筋力は大したことない人なんて大勢いる。外見に惑わされてはいけない。
 大体100人ぐらい集まり、大会が始まった。自分の好きな重さを指定して、バーベルを持ち上げる。1番重いバーベルを持ち上げた人が優勝だ。
 皆次々にチャレンジし始めた。他の人達がどれだけ強いのか楽しみにしていたが、思ったほど強い人はおらず、この調子でいくと俺が優勝してしまいそうな感じだった。
 意外とすぐに俺の番が回ってきた。
 マベスという人が出した今日の最高記録より20キロ重い重りをつけて、俺はチャレンジした。

「ぐぬぬぬ」
「ロテス選手持ち上がるか!?どうだ!?どうだ!?」

 俺は渾身の力を込めて、バーベルを1番上まであげきった。

「ついに持ち上げた―――!!!これでこれまでの最高記録はロテス選手で―――す!!」

 やった!!!やっぱり俺が最強だ!これまで苦労したかいがあったぜ!俺の記録をぬける選手なんているわけないのだ!
 俺が完全に調子にのっているとスタッフがなにやら俺の体に魔法をかけて調べ始めた。そして1人のスタッフが司会に耳打ちした。
 司会は曇った表情で口を開いた。  

「ロテス選手はドーピングの疑いがあるので失格とします」

 え―――、嘘だろ―――!!!
 はっ!待てよ…さっきの整体師にやってもらった処置の事か!やってはいけない処置だったのか…ちくしょー…

「残念だったね…せっかく1番だったのに…」

 ナレアが悲しい顔で言った。

「まぁ仕方ないさ。ちゃんとルールを確認しなかった俺が悪いんだから…」

 と、口では言っているが、内心ではかなりショックを受けていた。
 くそー…なんだかムシャクシャする。なにかでこのストレスを発散したいぜ…
 俺がムカムカしていると、1人の若者がやってきた。

「おい、イカサマ野郎!お前そこまでして優勝したかったのかよ。ホントは弱いくせに調子にのるから罰が下ったんだぞ」

 おー、ちょうどいい所にカモがやってきた。ちょうど憂さ晴らしがしたかった所だ。

「まさか俺にケンカをうってるのか?」
「あん?俺と戦うつもりなのかよ、この弱虫」
「本当に弱いかどうか試してみろ」
「へっ、後で泣いて謝っても許さねぇからな!オラッ!」

 若者は右フックをかましてきた。
 口ほどにもない奴かと思ったが意外と速い。
 俺は左腕でガードすると、前蹴りを放った。若者はクルっと回転してよけると同時に裏拳を繰り出してきた。俺は頭をかがめて、右ストレートを打ったがこの攻撃もよけられてしまった。俺は回し蹴りを打とうとしたが、相手の回し蹴りの方が速く、俺の脇腹にはいってしまった。

「ぐくくく」
「口ほどにもない野郎だ。とどめをさしてやるぜ」

 このままではやられる…
 俺は痛みをこらえながら魔法を使う構えをとった。

「ハミルーン!」

 渦巻く風が相手を襲った。

「ひょげお」

 バタッ!

 若者は俺の風魔法をくらうとあっけなく倒れた。
 ふー、魔法を使わなかったら負けてたかもしれないぜ。

「何よ、今回はちょっと危なかったじゃない」

 そばで見ていたナレアが少し不機嫌な様子で言った。

「まぁ結果として勝てたからいいじゃない」

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