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猫探しと草むしりとデート

「ナレア、そっち行ったぞ!」
「任せて!えい!………あー、ダメだ」

 俺達は迷子の猫さがしの依頼を受けて、町の隅から隅までさがし回り、ようやく見つけたのだが、猫は思いのほか素早くてなかなか捕まえられない。

「今、猫ちゃん一方通行の道に入ったよな?」
「うん、そこなら捕まえられそうだね」

 ナレアはガッツポーズをしながら言った。
 俺達も一方通行の道に入ると、猫が立ち往生していた。

「ほーら、おいでおいで、怖くないよー、さー、こっちへ」

 俺は手招きしながら猫に近づいた。

「よーし、捕まえたー。もう離さないぞー」
「フギャアゴー」

 猫が俺の顔をひっかいた。

「いっっって―――」

 俺はうっかり猫を離してしまった。

「またダメかー…どうすればいいんだろうねー」

 ナレアは肩を落とした。
 俺達はどうしたらいいかしばらく本気で考えた。
 あーでもない、こーでもないと2人で議論しながら10分ぐらい熟考してやっと名案がうかんだ。餌でつればいいのだ。なんでこんな簡単で確実な方法を今まで思いつかなかったんだろう。ダメな方法で何度やっても結果は同じなのに、いつまでも原始的な方法にこだわりすぎてしまった。
 俺ってもしかしてあんまり頭よくなかったのか?と、自分の頭脳に疑問を持ちながら、餌を買いに行った。ナレアには猫を見失わないように見張っててもらった。
 餌を買うと急いでナレアの所まで行き、餌をセットした。
 すると猫の方からよってきて餌を食べ始めた。
 こうして、これまでの苦労が嘘のように簡単に猫を捕らえる事ができた。

「まぁとにかく猫を捕まえる事ができたんだから結果オーライだね、ロテス」
「そーゆーこと!」

 俺達は猫を飼い主に渡すと、次の仕事にとりかかった。
 今度の仕事は草むしりである。 
 だだっぴろい庭に草がボーボーと生えている。よくこんなになるまで放置しておいたなと感心してしまうほどだ。俺達はさっそく片っ端から草をむしり始めた。簡単に草がぬけるので力を使うわけではないが、態勢が悪いので腰にくる。俺達は何度も伸びをしながら作業を続けた。
 草をむしり始めて1時間ぐらい経っただろうか。

「キャア!」

 突然ナレアが叫んだ。

「どうした!?」

 俺はナレアの方に振り向いた。

「ここにものすごいでかいゴキブリがいるのよー。こんなの見た事ない。気持ち悪いよー。」
「なんだ、何事かと思えばただのゴキブリかよ。それぐらいで大騒ぎするなよなー」
「だって…キモイんだもん…」

 俺達は作業を再開した。
 それにしても一体いつになれば終わりがくるのだろう。この広さの庭で2人というのは少なすぎじゃないだろうか?
 はぁー、疲れたなー、もうお金いらないから勝手に終わりにして帰っちゃおうかなー。

「ねぇ、ちょっと来て!」

 またナレアが大声を出した。

「またゴキブリか?」

 俺は半分呆れながら言った。

「違うよ、草に埋もれててわからなかったけど、ここの地面にドアがあるのよ」
「ホントだ、これは相当古い感じがするなぁ。ちょっと主に聞いてくるよ」

 俺は屋敷の主に聞いてみたが、何の事だかわからないと言っていた。主の頼みで俺達はドアの中に入ってみる事になった。
 ゆっくりドアを開けてみると階段があった。階段を降りると通路がのびていたのだが、真っ暗で前が見えなかったので俺は炎魔法を使い、明かりをともした。通路を歩いて行くと、今度は大きな扉を発見した。俺達は2人がかりで扉を押してみた。

 ギギギギギギ。

 やっとの思いで扉を開けてみるとそこには驚きの光景が広がっていた。
 なんと金銀財宝が山のように積み上げられていたのだ。

「これはすごい…何ヘラスぐらいあるんだろう」
「見当もつかない。ねぇ、私達が見つけたんだから1割ぐらいもらえるかな?」

 ナレアがワクワクしながら語りかけてきた。

「それは無理だろ?ちゃんと所有者がいる敷地内にあるものなんだから」
「そっかー…残念…」

 俺たちはこの事をすぐに主に報告した。すると、ナレアが期待していた1割というわけにはいかなかったが、本来の依頼料の倍の額をもらう事ができた。草むしりも今日はこれで終わりにしていいと言われた。
 仕事を終えて、やっと事務所に帰ってきた。

「あー、疲れた…もう動きたくなーい」

 ナレアがソファの上にぐったりと横たわった。

「今日は店じまいにするか」

 今日の営業を中止にしようとしたちょうどその時に、ドアをノックする音が聞えた。

「えー、またお客さん来ちゃったのー」
「しっ!聞こえるぞ!」

 俺はナレアを叱ると、ドアをあけた。
 すると、いかにも弱そうな小柄な男性が立っていた。

「私ターランと申す者です。ボディーガードを頼みたいのですが」
「誰かに狙われているのですか?」

 俺はターランに質問した。

「はい、今日私を殺すと書かれた手紙が届けられていました」
「その手紙は持ってきましたか?」
「え?い、いやその…も、もう捨ててしまいました」

 ん?何かおかしいな?

「そうですか。では今日1日私が護衛につきましょう」
「あ、あの…護衛の方はナレアさんがいいのですがダメでしょうか?」

 ははーん、さてはこの男ナレアに惚れているな。という事は殺害予告も嘘の可能性があるな。たぶんただデートしたいだけだろう。だが今の段階では嘘か本当かはわからないから一応承諾してあげるか。

「いいですよ。じゃあナレア頼んだぞ」
「はい、わかりました」

 そう言うとナレアはターランと共に部屋を出て行った。

「この近くにおすすめのカフェがあるんですよ。行ってみませんか?」

 ターランは満面の笑みでナレアに勧めた。

「ええ、私は護衛ですから、ターランさんが行く所にはついていきますが」
「そ、そうですよね。はは、あははは」

 カフェに着くと、ターランはコーヒーを2つ頼んだ。しばらくすると店員がコーヒーを持ってきた。

「どうですかここのコーヒーの味は?とってもおいしいでしょ?」
「ええ、こんなおいしいコーヒーは初めてです」

 本当はいつもロテスと来て飲んでるんだけどね。

「それにしてもナレアさんって美人ですよねー。彼氏はいないんですか?」
「いません」
「そうなんですか!よかった」
「よかった?」
「いやなんでもないです」

 この人最初からなんかおかしいと思ったけど、私に惚れてるのかしら?護衛というよりデートの雰囲気よね?まぁ、ちゃんと依頼料くれればどっちでもいいんだけどね。それにしてもこの人見るからに女の人にもてなさそうだけどデートなんてした事あったのかな?
 この後もグダグダとくだらない話をして、次の場所に行く事になった。どこに行くのかと思ったらこの町で1番見晴らしの良い高台に連れてこられた。この場所も私が気分がふさいでいる時によく来る場所だ。

「どうですか?すごくいい景色でしょう?」
「ええ、こんな素敵な景色を見られてとても感動しています」

 私は思いっきり驚いている演技をした。

「ナレアさんと話しているととても楽しくてつい時間を忘れてしまいますよ」
「私もとっても楽しいです」

 はぁー、つまらない。なんだかこの人といると疲れるわ…

「ナレアさん…あの…その…」

 ターランは急に真剣な顔つきになって私を見つめた。

「ど、どうしましたか?」
「大好きです―――!!」

 ターランはいきなり抱きついてきた。
 やっぱりこの人私の事が好きだったのね。誰かに狙われてるなんてきっと嘘だわ。ずっとこうするタイミングをうかがっていたんでしょうね。でもどうしようかな…仮にもお客さんなわけだし、一方的に断って傷つけちゃうのもどうかと思うけど…でも好きでもないのに受け入れるわけにはいかないわ。きっぱり断ろう。

「ダメですよ。離れて下さい」

 私はターランを力いっぱい押した。

「あっ、すいません。僕とした事がつい…」
「いいんですよ。気にしないで下さい」
「やっぱり僕とお付き合いするなんて無理ですよね?」
「ええ、申し訳ないですけど…」
「そうですか…」

 ターランはうつむいた。

「ぎゃははは、この人おもしれー!おもいっきりフラれてやんの」

 近くにいた若者がターランをからかった。

「おい、口のききかたに気をつけろ。俺は気が短いんだ」

 ターランは急に人が変わったようにすごんだ。

「なんだよ、俺とやろうってのか?」
「叩きのめしてやる、行くぞ小僧!」

 おっ?見かけによらずターランってもしかして強いのか?と一瞬思ったがやっぱり勘違いで1撃でのされてしまった。
 やれやれ仕方ないわね。
 私は若者の太ももあたりに蹴りをいれた。

「いって――!何すんだこの女!お前もぶっ飛ばしてやる!」

 若者はアッパーを繰り出した。私は後ろに下がりよけると、すぐさま右ストレートを繰り出した。ギリギリのところで若者は攻撃をかわすと、前蹴りを放ってきた。さっと横にずれて、相手の脇腹めがけて回し蹴りを打ち込んだ。しかし、腕でガードされてしまった。しかも私は体のバランスを崩してしまった。その隙をつかれ、腹にパンチをくらってしまった。
 くそー…私とした事が…こうなったら魔法を使うしかない。

「ボラステ!」

 私は雷を相手の頭上に落とした。

「ヘビャー」

 若者はまともに雷を受けてバタっと倒れた。

「さぁ行きましょうか、ターランさん」
「はい、ありがとうございます。あ、あの…実は…」
「ん?どうしました?」
「事務所でお話しした殺害予告というのは嘘なんです。貴方とデートしてみたくてつい…」

 とっくにわかってたわよ!

「え?そうだったんですか?でも嘘で良かったです。本当に狙われていたら大変ですから」
「本当にすいません」
「では私はこれで帰ってもよろしいでしょうか?」
「はい」

 私は事務所に帰ってきた。

「どうだった?護衛は?」
「誰かに狙われているってのは嘘!私とデートしたいだけだったみたい」
「だと思ったよ」
「まぁでも、どんな手をつかっても私とデートしたくなっちゃう気持ちもわからないでもないわ」
「そういう事を自分で言うなよ」

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