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謎の日本式城郭城 その1

 ここしばらくの間に、ララコンベの近隣にオザリーナ温泉郷が出来、テトテ集落で果物狩り事業が始まりました。

 その両方に、僕が協力させていただきまして、どちらにもコンビニおもてなしの関連店舗が出来ています。

 オザリーナ温泉郷の方は、オルモーリのおばちゃまの宣伝のおかげでお客様が殺到したのですが、そのお客様達にご満足いただけたようで、かなりの数のリピーターが生まれているようです。
 シャラ達の劇場もかなり好評でして、そちらの評判も上々です。
 このオザリーナ温泉郷に出向くにはララコンベ温泉郷に一度立ち寄ってからでないと移動出来ません。
 そのため、ララコンベ温泉郷においでになられますお客様の数もかなり増加しているそうです。
 ララコンベ温泉郷の温泉を堪能してからオザリーナ温泉郷の温泉を堪能するといったお客様も少なくないらしく、両温泉共に利用客が右肩上がりになっています。

 テトテ集落の方も絶好調です。
 家族連れで果物を取って食べることが出来るというのが思いのほか高評価になっています。
 この世界は、都市のすぐ外は森ですし、そこにはたくさんの果物がなっていますので一見いくらでも果物狩りが出来そうに思えますが、森にはたいがい凶暴な魔獣が棲息していますので、子供を連れて森に入るなどもっての他とされているんですよね。
 そんな中、オープンしたこの果樹園の果物狩りには、各地からたくさんのお客さんがお見えになられています。
 中には、果樹園が気に入って
「この集落で働かせてほしい」
 そう申し出てこられる人まで現れているそうです。

 この両都市の事業に関連して言えるのが、交通の足をしっかり確保出来ていることです。

 オザリーナ温泉郷には、ララコンベ温泉郷からの駅馬車が運行していますし、そのララコンベ温泉郷には定期魔道船が就航しています。
 テトテ集落にも定期魔道船が就航していまして、これらの都市にはあちこちの都市からのお客さんを迅速に運ぶ手段が出来上がっていたわけです。
 だからこそ、どちらもこんなに早く軌道にのり始めることが出来たといえなくもありません。

 その定期魔道船はコンビニおもてなしが運行しております。

 魔導船の中には、コンビニおもてなし出張所がありまして、利用者のみなさんがこれをご利用くださっています。

 また、オザリーナ温泉郷にはコンビニおもてなし6号店が、テトテ集落にはコンビニおもてなし出張所がございまして、どちらも事業の好調に比例するように好調な売り上げを記録し続けている次第です。

 特にオザリーナ温泉郷に建設したコンビニおもてなし6号店に関しては、ブリリアンによります事前調査でも
『成功は難しい、成功出来たとしても長い期間を要する』
 そう言われていただけに、それを覆してのこの大盛況には、僕も安堵しきりでした。

 この結果は、ブリリアンの調査がずさんだったとか、そういう意味ではありません。

 あくまでも、オルモーリのおばちゃまがきっかけを作ってくださり、それにオザリーナ温泉郷のみんながしっかりこたえたからこそ、為し得ることが出来たわけです。

 コンビニおもてなし6号店の様子を視察に訪れたブリリアンは、その盛況ぶりを見つめながら、
「まさか、こんなに早く成功するなんて」
 そう言いながらも、嬉しそうな表情を浮かべていたのですが、
「ひゃあ!?また転んでしまいましたぁ」
「きゃあ!? わ、私のスカートぉ」
 アレーナとチュパチャップの悲鳴を聞くなり、その笑顔が強ばっていたのは言うまでもありません。

◇◇

 オザリーナ温泉郷とテトテ集落の果物狩りが軌道にのりはじめたことで、僕も安堵しながらコンビニおもてなし本店の業務に戻りました。

 しばらくの間、オザリーナ温泉郷とテトテ集落の果樹園の案件に立て続けに関わっていたものですから、こうして本店の業務だけに集中出来るのも久しぶりな気がします。

「店長さん、あれこれお疲れ様でございました」
「いえいえ、魔王ビナスさんにも、留守の間あれこれご迷惑をおかけしてすいませんでした」
 僕と魔王ビナスさんはそんな挨拶を交わしながら、今朝も各お店で販売するための料理の調理を行っていました。

 これが出来上がりましたら、ヤルメキスのスイーツと、5号店から運びこまれてきますパン類、ルア工房のブルや調理器具やペリクドガラス工房のガラス類などを、各支店行きの魔法袋に詰めていかないといけません。
 
 それをハニワ馬のヴィヴィランテスが、各店に運んでくれるのですが……最近のヴィヴィランテスは、テトテ集落の果樹園におきまして『ハニワ馬乗馬体験』を運営している次第です。
「わかってるわね? 今日だけなんだからね?」
 毎日そう言いながら、並んで待っている子供達をその背に乗せては果樹園の中を一週して帰ってくるヴィヴィランテスの乗馬体験は大変好評でして、今ではこれを目当てにやってくる家族連れも増え始めているそうです。
 で、『今日だけ』を毎日連呼しているヴィヴィランテスなんですけど、
「お馬さん……今日でお終いなの?」
 子供達にそう言われると、
「も、もう、しょうがないわね! そこまで言われたらしょうがないから、明日も来てあげるわよ!」
 そう言うのがいつものパターンなんですよね。

 なんと言いますか、ホントに素敵なツンデレです、はい。

◇◇
 そんな、全てが好調な中、その一報がもたらされたのは、ある日のお昼過ぎのことでした。

『緊急事態緊急事態』
「え?」
 僕は、脳内に響いてきた声に、思わず目を丸くしました。

 どうやら、思念並通信のようですが……この声は勇者ライアナですね。

 勇者ライアナといえば、定期魔道船の案内係とコンビニおもてなし出張所の店員を分身魔法を駆使して兼務してくれている女性です。
 この世界とは別の世界の勇者だそうでして、魔王ビナスさん達と一緒に暮らしています。
 ただ、魔王ビナスさんの内縁の旦那さんに猛アタックをしているものの、いまだに内縁の妻には迎え入れてもらえていない
『店長さん、そこでグサッとくる思考をしないでいただきたい!』
「あ、あぁ、ごめんごめん、ところで緊急事態って、どうかしたのかい?」
『あぁ、目下定期魔道船が正体不明の城に攻撃されている』
「は?」
 勇者ライアナの言葉に、僕は一瞬目を丸くしました。
「攻撃? ど、どういうことなんだい!?」
『いつもの航路の近くにある山上に見た事も無い山城が出現してだな、そこから魔法弾が降り注いでいる。その数があまりにも多すぎて防御するのが手一杯なんだ。至急救援を請う!』
「わ、わかった……」
 ……とは、いったものの、さて、どうしたらいいんだ?
 魔導船の位置なら、魔導船運行センターに行けばすぐにわかるけど……
 僕がそんな事を考えていると、そんな僕の背中を誰かが引っ張りました。

 僕が振り向くと、そこにはスアの姿がありました。

 スアはすでに魔法の絨毯に乗っています。
「……さぁ、行きましょう」
 スアはそう言いながら、僕に魔法の絨毯に乗るように親指で合図しています。

 きっと、先ほどの僕と勇者ライアナの思念波通信を傍受して、すぐに準備してくれたのでしょう。
「ありがとうスア」
 僕は、すぐさま魔法の絨毯に乗り込みました。

 スアは、僕が乗り込んだのを確認すると、魔法の絨毯を出発させようとしたのですが、
「ご主人殿!話は聞きましたぞ!」
「ダーリン!アタシ達もお助けするキ!」
 ちょうど狩りから戻ってきたらしいイエロとセーテンも、魔法の絨毯に飛び乗ってきました。
 その2人が乗り込んだのを確認したスアは、
「……今度こそ、行く、わ」
 そう言いながら、魔法の絨毯を出発させました。

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