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テトテ集落の果物狩り その4

 テトテ集落の果物狩りがはじまって、今日ははじめての休日です。
 集落には、この日を待ちわびていたパラナミオをはじめとした我が家の子供達がすでに集結しています。
「パパ、今日はいっぱい狩ります!」
「アルカちゃん、僕達も頑張ろうね」
「は、はいアル、リョータ様!」
「アルトも楽しみですわ」
「ムツキも一杯食べるニャしぃ! ニシシ」
 みんな、お手拭きも手にしておりまして準備万端の様子です。

 今日のスイーツコーナーでは、ヤルメキスが待機しています。
 ヤルメキスのところに果物を持って行くと、それをショートケーキにトッピングするサービスを受けることが出来るわけです、はい。
 通常、コンビニおもてなしで販売しているショートケーキの代金のみで行いますので、これは結構お得だと思うんですよね。

 今日は、僕とスアも子供達と一緒に果物狩りを満喫することにしています。
 前回、試食として果物狩りを体験したパラナミオ達が、
「今度はパパとママと一緒に行きたいです!」
 そう言っていたものですから、そのお願いにこたえた次第です。

 なお、超人見知りなスアは、いつもの『私は人見知りじゃない』の自己暗示魔法を自分にかけて参加しています。
 バトコンベのお祭の際に準備していたプロレスラーのマスクも持って来てはいたのですが、バトコンベで妙な集団に追い回されたのがトラウマになっているらしく、僕が魔法袋からマスクを出そうとすると、スアは無言で首を左右に振りながら僕の手を押し戻していきまして……どうやら、よっぽどだったようですね、あの経験は……

 そんな中、今朝の定期魔道船の第一便が到着しました。
 同時に、果物狩りもスタートです。
 
「さぁ、みんな行きましょう!」
 子供達の先頭に立ってパラナミオが果樹園に入っていきました。
 その後に、リョータやアルカちゃん達が続いていきまして、その後ろに僕とスアが続いていきます。

 僕達が園内に入ってしばらくすると定期魔道船のお客さん達が入り口に殺到しているのが見えました。
 その数は昨日までよりも間違いなく多いです。

 そんなみなさんを後方に見ながら、僕達は果樹園の奥へ向かって移動していきました。

 奥には、イルチーゴ狩りやジャルガイモ堀りを楽しめるコーナーがあるんですよね。
 このイルチーゴ狩りを特に気に入っているのがアルトとムツキです。
 
 パラナミオ・リョータ・アルカちゃんの3人は、ピルチという僕の世界で言うところの桃によく似た果物が大好きなのですが、このピルチの樹木も、イルチーゴ畑に近い場所にありますので、とりあえず奥に向かえば我が家はみんなの目的を達成出来るわけです、はい。

「そういえば、スアは好きな果物とかあるのかい?」
 僕と手をつないで歩いているスアは、僕の言葉を聞くとしばらく考え込みました。

 で、

「……旦那様と一緒なら、なんでも」
 少し頬を赤く染めながらそう言いました。

 僕のところにやってきてすぐの頃、まだ結婚する前のスアは食べることに本当に無頓着でした。
 なんでも、その気になれば飲まず食わずで1年くらい平気ですごせるとのことで、食事を準備してもあまり味わっている様子はなく、どこか機械的に口に入れている、そんな感じでした。
 それが、いつの頃からか僕と一緒に食事をしていると笑顔を見せるようになり、結婚してからは
「……今日の晩ご飯は、何?」
 そんなことを聞いてくるようにまでなった次第です。

 子供達が生まれてからは、ミルクや離乳食作りにも奮闘したスア。
 その体験を記したスアの子育てエッセイが魔女魔法出版から刊行されているのですが、その全てがベストセラーになっています。

 その巻末には、いつも

『大好きな旦那様と子供達に感謝します』

 の文書を添えてくれているスア。
 やっぱり、これはあれなんですかね、愛情が一番のごちそうということで……はい。

 そんな僕達が、目的の奥地へ到着すると、
「おぉ! 今日はパラナミオちゃん達が一番のりか!
「これは嬉しいな」
 と、イルチーゴ畑の担当をしているテトテ集落のおじいさん達が満面の笑顔で出迎えてくれました。
 そんなみなさんに、パラナミオ達も、
「「「はい! 今日はよろしくお願いします」」」
 みんな元気に挨拶をしていきました。
 
 挨拶を終えると、早速みんなでイルチーゴ狩りを満喫していきました。
 
 その後は、パラナミオ達がピルチを狩ったり、みんなで芋掘りを体験したりと、この一帯で制限時間の1時間めいっぱいまで楽しんだ僕達です。

 制限時間になると、魔法で自動的に出口へ移動出来ますので、そういった点も本当に便利ですね。

 イルチーゴとピルチの実を持ち帰った僕達は、その足でヤルメキスの元へ移動しました。
「ヤルメキスお姉ちゃん、お願いします!」
 パラナミオ達が笑顔で果物を差し出すと、ヤルメキスも笑顔でそれを受け取り、
「は、は、は、はいです、お任せくださいでごじゃりまする」
 そう言いながら、早速作業を開始しました。

 毎日毎朝、コンビニおもてなし本店の厨房で大量のスイーツを製作し続けているヤルメキスだけありまして、果物を処理して、ショートケーキの上に盛り付けていく作業をあっという間に終わらせまして、
「さ、さ、さ、さぁみんな、出来たでおじゃりまする」
 出来上がったショートケーキが載っているお皿をみんなに手渡してくれました。

 それを受け取ったパラナミオ達は、近くのテーブルに座りまして
「「「いただきます!」」」
 みんなで元気に挨拶してから口に運んでいったのですが、
「うん! とっても美味しいです」
「このピルチの実、リョータ様が収穫した分アルね 美味しいアル」
「アルカちゃんが収穫してくれたこっちのピルチの実も美味しいよ」
「イルチーゴのショートケーキもおいしいですわ」
「どっちも美味しいニャしぃ」
 みんなわいわいと楽しそうに会話を交わしながら、ショートケーキを口に運び続けています。

 僕とスアは、そんな楽しそうなみんなの姿を見つめながら、自分達のショートケーキを口に運んでいった次第です。

 そんな僕達の様子を横目で見ていた他のお客さん達なのですが、
「パパ、僕もこれをショートケーキにして貰いたい!」
「アタシも!」
 そんな子供達の声があちこちから聞こえ始めまして、気が付くとヤルメキスの前がにすごい行列が出来上がっていました。
 その行列を前にしても、ヤルメキスは慌てることなく作業を続けています。
 
 以前のヤルメキスでしたら、こんな状態になってしまいますと、あわあわしながら右往左往していたかもしれません。
 こういったところも、ヤルメキスがしっかり頑張ってきた成果なのでしょうね。

 この日、開園してはじめての休日を迎えたテトテ集落の果物狩りですが、すごい数の来客を記録したそうです。
 そのあまりの盛況ぶりに、テトテ集落の長のネンドロさんも
「これは、狩りに出ているみんなにもこっちに回ってもらわないと、人手が足りなくなりそうですにゃあ」
 そう言いながら、嬉しそうに笑っていました。

 僕が始めて訪れた時は、どこか元気のない集落だったここ、テトテなのですが、今ではその頃のことを思い出すのが困難なくらいに活気に満ちあふれている次第です。

 そんな中、ミミィが担当してくれているコンビニおもてなしの出店も大盛況でした。
 特にお昼前後は、お弁当類を買い求めるお客様が殺到してとんでもない状態になっていた次第です。
 お客さんの列の整理は場内整備を行っているテトテ集落のみなさんが手伝ってくれたので事なきを得たのですが、接客の方には途中僕が手伝いに入ってやっとどうにかなった次第です。
「この調子だと、もう1人くらい人員を補充した方がよさそうだね」
「すいませんが、そうしてもらえると助かります」
 僕とミミィは、そんな会話を交わしながら接客にあたっていたのですが、2人とも笑顔だったのは言うまでもありません。

◇◇

 少し早めにテトテ集落を後にした僕達は、ガタコンベにあります巨木の家へと帰宅しました。
「パパ、とっても楽しかったです」
 持ち帰ったピルチの実がはいっているカゴを見つめながら、パラナミオは満面の笑顔です。
 他のみんなも、自分が手にしているカゴを嬉しそうに眺めています。
「そうだね、またいつかみんなで遊びにいってみようか」
 僕がそう言うと、
「「「はい!」」」
 子供達は嬉しそうに返事を返してくれました。

 そんなみんなを、僕はスアの肩を抱き寄せながら笑顔で見つめていた次第です。

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