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テトテ集落の果物狩り その1

 オルモーリのおばちゃまの助力もありまして、オザリーナ温泉郷は思いがけない大盛況になっています。

 今のオザリーナ温泉郷には、温泉宿の美味しい料理と、シャラ達の劇場、ナカンコンベからやってきて出店しているお店といった売り物があります。
 今は、それぞれの売りを最大限に駆使しながら、おいでくださっているお客さん達に満足して頂かないと、と、関係者一同、全員一丸となって気を引き締めている次第です。

 そんな中、料理人のビィミがある料理を考案しました。

 それは、僕の世界で言うところの鍋でした。
「……タクラ様が運行なさっておいでの駅馬車が、多数の熊系魔獣を毎日しとめておりますので、そのお肉を使った料理を考案いたした次第でございますの」
 ビィミが言うように、それはいわゆる熊鍋でした。
 
 熊肉に加えて、この界隈の森で採取出来るカゲ茸という独特な旨みのある茸に、ゴボウやネギ、大根に似たこの世界のお野菜を一緒に煮込み、コンビニおもてなしで販売しています味噌玉を主体とした味付けにしてあります。
 熊肉も、非常に丁寧に下ごしらえされているものですから、独特の臭みや筋の硬さもなくなっています。

 試食を頂いた僕も、

「うん、すごく美味しいよ、これは」
 思わず、そんな声をあげた次第です。
 一緒に試食していたオザリーナ達も、目を丸くしながら試食をたいらげていました。

 そんな僕達を見つめながら、ビィミは安堵した表情を浮かべていた次第です。

 翌日から、早速この料理が温泉宿の料理メニューに加わりました。
 すると、家族連れのお客様などから、
「すごく美味しいし、何よりみんなで一緒に食べれていいわね」
 と、まぁ、そんな声があがりまして、なかなか好調な滑り出しとなっている次第です。

 基本的に、このオザリーナ温泉郷界隈で取れるものばかりで作成された郷土料理と言える料理です。
 しっかり定着してほしいものです、はい。

 ……この料理が、定着してほしいのには……個人的にもうひとつ理由があります。
 いえね……ビィミが、
「……この料理には、スアビールではなくこのタクラ酒が合いますの」
 そう言って、オザリーナ鍋と命名したこの熊鍋と一緒にタクラ酒を出してくれているんですよ。
 しかも、それが
「うん、確かに合うね」
「へぇ、このタクラ酒ってこんなに美味しかったんだ」
 そんな声があちこちから聞こえてきていまして、タクラ酒の注文数がジワジワ増加している次第です。
 
 製造開始以来、味には自信があったのになっかなか日の目を見なかったタクラ酒ですが……もう、ビィミに土下座して感謝するしかない僕だったわけです、はい。

 今後、このオザリーナ鍋は、おもてなし酒場やエンテン亭などでも出させてもらおうと思っています。
 その際には、当然オザリーナ温泉郷の宣伝もさせてもらうつもりです、はい。

 もちろん、タクラ酒も一緒に、です。

◇◇

 そんなこんなで、予想以上に早く軌道に乗り始めたオザリーナ温泉郷。
 それに合わせて、オザリーナ温泉郷に開店したコンビニおもてなし6号店も大盛況となっています。
 相変わらず、チュパチャップとアレーナさんの、
「ひゃあ!? またまたすっころんでしまいましたぁ!?」
「きゃあ!? 今日は吊りバンド6本で補強してましたのにぃ!?」
 そんなやり取りも繰り返されているのですが、
「おぉ、これを見ないと今日が始まらないよ」
「いや、今日も無事これを見ることが出来たぞ」
 と、その度に店内がどこか微笑ましい空気に包まれていくのが恒例となりつつありまして……な、なんなんでしょうね、この展開ってば……

◇◇

 と、まぁ、そんなわけで、6号店も無事に起動にのりそうです。

 そんなわけで、しばらく6号店の指導にあたっていた僕は、本店へ戻りまして通常業務へと戻っていました。
 ここしばらくの間は、チュパチャップ達の実地研修を行っていたこともありまして、朝の調理業務と、その後の追加料理作成以外では特に仕事がなくなっていたコンビニおもてなし本店メンバーですが、みんなもようやくいつもの営業形態に戻れて、どこか安堵した感じでした。

 ガタコンベにあります、ここコンビニおもてなし本店は、相変わらず盛況です。
 ナカンコンベにある5号店に比べれば、来客の数はかなり少ないとはいえ、この規模の街の中では破格の集客を維持しているといえます。

 そんなお客様達のためにも、僕達は毎日笑顔で接客している次第です。

 そんな中、最近になって特に活気を帯びているのがヤルメキススイーツを作成している面々です。

 ヤルメキススイーツには、プラントの木で増産しています生クリームなどに加えて、多数の果物が使用されています。
 その果物の多くが、テトテ集落で栽培されています。
 元々は、山の中で自生していた果物類を、テトテ集落の皆様が収穫してきて、テトテ集落にありますおもてなし商会で買い取らせて頂いていたのですが、最近縁あって、多数の魔法使いの皆さんが嫁いでいるテトテ集落ではその魔法使いの奥様方の助力を得て、自生していた果物類の栽培が始まっていたのです。
 
 集落の近くに果物の種を植え、それを魔法使いの奥様方が、成長促進魔法を使って一気に大きくしているのです。そのおかげで、テトテ集落での果物の収穫量が、あっという間に以前の100倍近くにまで上がっていました。

 そのおかげで、テトテ集落産の果物を使用したヤルメキススイーツの生産量も増加していたのですが……ここまで一気に増加してしまうと、と少々問題も発生し始めた次第でして……

 テトテ集落の果物は確かに人気です。
 ヤルメキススイーツに使用したり、そのままお店で販売したり、ドンタコスゥコ商会などに卸売りをしてはいるのですが……あまりにも急激にその収穫量が増えたものですから、さばききれなくなり始めていたのです。

 今日も、本店の営業終了後にガタコンベへとやってきたテトテ集落の長ネンドロさんは、
「このままでは、せっかく実った果物が駄目になってしまいますにゃあ……何か良いお知恵はないでしょうかにゃあ?」
 僕に、そう相談を持ちかけてこられました。
「う~ん……」
 そう言われましても……僕としましても、そうそう簡単にいい手が思い浮かぶはずも……

 お店で、そんな立ち話をしていると、ちょうど帰宅してきたパラナミオ達が、裏の勝手口から入ってきました。
 どうやらパラナミオは、ネンドロさんの『果物が……』のあたりだけを耳にしたらしく、
「テトテ集落の果物、パラナミオ大好きです!」
 満面の笑顔でそう言いました。
 そんなパラナミオに、ネンドロさんも、
「そうかそうか、ありがとうね、パラナミオちゃん」
 嬉しそうにそう言いながら、パラナミオの頭を撫でてくれました。
「前に、皆さんと一緒に果物をもいで食べたのが楽しかったです」
「そういえば、お手伝いしてくれたこちがあったねぇ」
 みんなで、そんな話を続けていたのですが、

 ……まてよ

 そこで、僕はあることを思いつきました。
 しばし鼻の下を右手の人差し指でこすった僕は、
「そうだ! この手で行こう!」
 そういいながら、右手の人差し指をピン、と立てました。

◇◇

 早速、ネンドロさんと一緒にテトテ集落に移動した僕は、テトテ集落の果物園へと案内してもらいました。
 そこは、村のすぐ横を開拓して作られていまして、広大な敷地の中に、果物の木がわんさかと生えています。
 比較的低木ばかりでして、子供でもちょっと手を伸ばせば実が採れそうです。
 果物園の周囲には柵が張り巡らされていまして、害獣対策もばっちりです。
「うん、これならいけるかも」
 そう呟いた僕に、ネンドロさんは、
「あの……店長さん、一体何をなさるのですにゃあ?」
 小首をかしげながらそう言われました。
 そんなネンドロさんに、僕は、
「えぇ、ここで果物狩りをしてはどうかと思いまして」
 そう言いました。

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