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第六話



 目が覚めた。視界に広がるのは、白い天井。
 ここは……?
 わたし、一体……?
「っ、劇!!」
 ガバッと起き上がった。白いシーツ。ベッドで寝ていたようだ。あたりを見渡す。わたしが寝ていたものと同じベッドが横に二つ並んでいた。正面は長椅子が壁に沿って設置され、その横には薬瓶が収納された棚がある。
 ──ここは、保健室? わたし、どれくらい寝てたんだろう?
 混乱しながらも、ベッド横に揃えてあるニーハイブーツに足を通した。
「あら、起きたの?」
 大人の女性の声がした。顔を上げると、近くの机で作業していた先生らしき人が、こちらを見ていた。保健室の先生だろうか。
「王子様みたいな格好した男の子がね、あなたのこと抱えてやってきたのよ」
 ……マークだ。わたしをここまで運んできてくれたのか。
 壁にかけてある時計は、まだわたしたちのクラスの劇がやっている時間を示していた。そんなに長い時間、意識を失っていたわけではなさそうだ。
「……わたし、行かなきゃ」
 ベッドから立ち上がって、保健室のドアへ歩もうとするわたしの手首を、先生が掴んだ。
「まだ寝ていなさい。寝不足ね。演劇祭に向けて、無理をしていたんでしょう」
「無理なんかじゃないです。みんなが頑張ってるのに、わたしだけ寝てるなんて、できないです」
「……そう」
 わたしの言葉を聞いた先生は、強く引き止めはしなかった。
 わたしは先生にお礼を言ってから、保健室から飛び出した。

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