第二話
演劇祭まで、あと一週間。
「アンちゃん、調子はどう〜?」
放課後の演劇祭準備中。手が空いたらしいノアが、役者の練習ゾーンにやってきた。
ちょうど休憩時間だったわたしは、ノアに台本を手渡す。
「全然ダメ。セリフは完璧なんだけど、演技力が足りない気がするの。ちょっとノア見ててよ」
「いいよ〜。この、『わたしも、もう一度お会いしたかったです、王子様』ってとこからかな? いつでもどうぞ〜」
見て欲しいと頼んだのは、林檎姫が王子様のキスによって目覚めた後、王子様と両思いになるという、劇の最後のシーン。
終わりよければすべてよし。クライマックスだけでも、完成度を高めようという作戦だ。
「わたしも、もう一度お会いしたかったです、王子様」
「……うーん」
「どう?」
ノアは台本を持ったまま、首を捻らせていた。
「アンちゃん……恋したことないでしょ?」
「えっ」
図星だ。
図星だけど──
「それとこれとは関係ないでしょ」
ムッとして言い返すが、ノアは「え〜」と苦笑いした。
「だって、この話、冒頭で出会って一目惚れしていた同士が、偶然再会して運命を感じるシーンでしょ? たまたまぶつかった時から気になってた人に、もう一度会えたんだから、もっと溢れ出る感情がありそうなものじゃない?」
「う……」
確かに、ノアの言うことは正しい。反論する余地がないくらい。
「アンちゃんは、大切な人に『もう一度会いたい』って気持ちが必要かもね」
それが嘘でもさ、とノアは笑った。
「おーい、ノア! さっきお前が作ってたやつどこー?」
「あ、今行く〜! じゃあ、頑張ってね、アンちゃん」
ノアは同じ裏方のクラスメイトに呼ばれて去ってしまった。残されたわたしは、ノアに言われたことを口の中で繰り返す。
大切な人にもう一度会いたいって気持ち、ねぇ……。