バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第一話

 二十六歳の女のお世話係に、十六歳の男の子が就任して、早二週間。
「はぁ……」
「なんだよ、朝から元気ねーな」
「デリック……」
 女子寮から教室へ登校中、いつの間にかデリックが隣に並んでいた──今日のお世話係はデリックのようだ。
「ほら、貸せ」
「あっ」
 お世話と言っても、女子寮に入ってくることはできないし、ただ休み時間にやたら話しかけてくるだけの存在になっていた──従者っぽい行動と言えば、荷物を持ってくれることくらいだ。
「やめてよ。荷物持ちさせて、いじめてるみたいじゃない」
「俺が好きで持ってんだからいーだろ」
 まさか荷物を奪い取られているとは、誰が想像できようか。
「おい……、あの女子、デリックに荷物持ちさせてるぞ……」
「理事長の息子を尻に敷くなんて、どんだけヤバいやつなんだ……?」
 廊下をすれ違う男子生徒たちのひそひそ声が耳に届く。周囲を見渡せば、あからさまにわたしと目を合わせないように、顔を不自然な方向に背けた生徒たちが通り過ぎていく。その中にはクラスメイトも混じっていて──わたしはクラスから孤立し始めていた。
 三人の友人を家に招くという目標が遠のいていくのを、ひしひしと感じる。
「……はぁ」
「……お前、本当に大丈夫か? 保健室行くか?」
「大丈夫よ、ちょっと疲れてるだけだから」
 疲れというか、気疲れだし。
 最近、ちょっとばかり予定外の出来事が多すぎた。本来なら、女の子とサクッと仲良くなって家に招待し、「アンちゃんの友達です」とお父様の前で宣言してもらって、さっさと退学する予定だったのだから。
 ──まさか、クラスメイト全員男子で、他クラスとの交流もないまま、ノアに年齢がバレた上に従者が四人できるとは思わないじゃない……。
 問題はそれだけじゃない。
 何よりわたしの負担になっているのは、演劇祭だった。
 暗記は得意だったので、すぐにセリフは覚えられたのだが──王子役のマークの演技が上手すぎて、姫であるわたしの演技が浮いてしまっているのだ。
 クラスメイトがそう指摘したわけではない。四人の男子を従えているわたしに意見するような人間はいない──他人から言われなくても自覚するくらい、浮いているのだ。
 結果、わたしはここ二週間毎日、放課後行われる演劇祭準備の後はコリンに演技の練習に付き合ってもらい、夜は女子寮の自室で自主練に励んでいるのだ。
 ……ちょっとだけ、眠い。
「……やっぱり具合悪そうだぞ」
 あくびを噛み殺すわたしを、デリックが覗き込む。
 ……いやいや、大人たるもの、疲れを顔に出しているようでは、まだまだだ。これでは『子ども大人』の称号が外れてはくれない。
 わたしは気合を入れるために、自分の両頬を軽く叩いた。
「デリックに心配されるようじゃ、わたしもダメね」
 そう言って、背の高いデリックに笑いかけた。わたしは元気、と目で訴えたが、デリックは眉間に皺を寄せた。
「何と戦ってんだよ」
「何って、自分よ、自分! いつでも最大の敵は己自身ってね!」
 わたしは何も持っていない両手で拳を作り、前に突き出す──甘ったれた自分にパンチ、パンチ。
「……自滅すんなよ」
「なんか言った?」
「何も」
 わたしとデリックが教室に入ると、ノアが大きく「おはよう」と声をかけてくれた。

しおり