バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

秘められた力

「大丈夫。あなたには稀有なる魔法の力がございます」

 マクスウェルが私に向かって微笑む。

 彼の言っていることが本当でも嘘でも、それを証明する方法があるのだろうか。

「仰せのままに」


 マクスウェルが頭を下げた後、私に向き合う。

「……あなたの魔法は、万物に力を与えるものです」

 そんな魔法は聞いたことが無い。
 魔法というものは基本的に、精霊の力を借りてその精霊の属性の力を行使するもの。

 物がどうとかというものではそもそもない。

「同じことをできるのは現在世界であなた一人なので見本を見せることが出来なくて残念ですが、そういう力があなたにはあります」

 だから、あなたはこの国に来た。

 はっきりと言われて、それが本当なのではないかと思ってしまった。

「でも、私には精霊が……」

 どんな珍しい魔法だとしても精霊の力を借りなければ使うことはできない。

「竜は、精霊と契約をしなくても魔法が使えます」

 ニッコリと笑顔を浮かべる。
 私は竜ではない。人間だ。

「ですから、あなたも精霊と契約しなくても魔法が使えますよ」

 と言われても方法が分からない。
 マクスウェルは懐から何かを取り出す。

「まずはこれに魔法をかけてみましょう」

 出されたのは綺麗な(ぎょく)だった。
 と言ってもやり方が分からない。

 本当にそんな力が私にあるのかもわからないし、あったとして今ここでその魔法が使えるとは思えなかった。

 呪文も魔方陣も何も知らない。
 そういう力があるんですよ。と言われても、どうしたらいいのか分からない。

 ただ願うだけで魔法が使えるなら、今までだってどこかで使えていたはずだ。
 けれど、何かが起きたという記憶は全くない。

「まどろっこしいな……」

 魔法についての詳細を説明しようとしたマクスウェルを遮る様に言われた言葉の意味が私にはよく分からなかった。

「ついてこい……」

 国主と呼ばれていた、この国の王は私とマクスウェルに言った。
 心底面倒そうなものを見る目で私とマクスウェルを見ていた。

 それが恐ろしかった。多分この人は私を要らないものだと思っている。
 要らないものが差し出されて大切にしようとするだろうか。普通は片付けるか捨てるか。

 私の場合はどうだろうか。

 この国で最も偉いであろうと思われるその人は、私のことを要らないものだと判断している。少なくとも今のところは。

 この国と私の故郷がどのような関係であるのかを類推することすらできない。
 何故要らないとされる私がこの国に来なければならなかったのかもわからない。

 私の血が必要だった。と言われる方がしっくりくる状況だ。

 三人で連れ立って部屋を出る。
 狭い廊下を何度も曲がって、出てきた場所はまるで洞窟の中の様だった。

 ここはどこだろう。
 まどろっこしいという言葉とこの場所に関連性があるのかが分からない。

 何のためにたった三人でここへ来たのかが分からない。

しおり